EternalKnight
伍話-10-<立ちふさがる者>
<SCENE058>――深夜
この巨大な研究施設の最深部に向かって、地下――ティターンでも通れるような巨大通路――を進んで行く。
通路の巨大さは、恐らく機動兵器を地下施設内でも使える用にする為の物だろう。
しかし、機動兵器をケビン達が全て屠って来ている。
故に、この広大な通路は、敵側にとっての利点など存在せず、こちらにとっての利点に成り代わっている。
さらに、トラップの類が発動する事も無く、追撃の警備兵達が現れる事も無かった。
しかし――しかし、だ。ここまでなんの障害も無いと、逆に怪しくさえ思えてくる。
そも、俺達が先ほど破壊してきたのは通常戦力に過ぎない。
ならば何故、最深部に向かって移動しているのに、黒いバケモノが一体たりとも現れないのか?
どれだけの数を保有しているかわからないが、あの存在ならば一般の警備兵よりは遥かに戦力になる筈なのに――だ。
「なぁ、ラビ――妙にきな臭くないか?」
地を蹴り駆けながら、同じ速度で隣を走るラビに声をかけた。
「確かに――いくら機動兵器、警備兵、司令室、電力源を個別に破壊したにしても、敵が全く現れないのは、妙だな」
「それ以前に、あのバケモノが出てこない事が気がかりなんだよ、俺は」
その言葉に、一瞬ラビは何かを考えるように眉間に皺を寄せて、思い出したように、言葉を紡ぐ。
「バケモノって――いくつか前の作戦で見たアレか? アレは、ELPの失敗作を生物兵器として使ったモノだろ?」
「あぁ――だからこそ、ELPの総本部であるココに、ソレが無いなんて考えられないと俺は思うんだ」
その俺の言葉に、ラビは納得したように肯いた。
「お前の言うとおりだ。確かに、ココならアレが何体いてもおかしくはないだろうな」
「だろ? なのに、一体も現れやしねぇ――どころか、お前の言うとおり、通常の戦力でさえ妨害に現れないんだぜ?」
きな臭いにも程がある。だがしかし、一箇所に戦力を集められた所で、ティターンがいれば数の差など関係なくなる。
或いは――ソレを知らずに数を集めているのか――
「まぁ、私達がいくらココで考えても、結局相手に何か策があるなら、ソレを正面から潰すしかないだろう?」
「確かに、それもそうだな――」
考えるだけ無駄なのなら、自分に出来る限りの事をするしかない。
そも、作戦なんてモノは、緻密に練れば練る程、小さなミスで全てが瓦解するモノだ。
「――どんな作戦を練ってようが、正面からぶっ壊すしかないよな!」
言って、再び意識を走ることに集中させた。

<Interlude-レイビー->――深夜
『レイビー、フロアに居る800余りの警備兵だがな――アレを全てお前の経験値とする事を許可しよう』
通信機越しに、久しぶりに王から同類以外から経験値を集める許可を貰った。
前の時は確か――そう、リーファブ社の現役社長を殺す仕事の帰りに、200人程殺った時だったか――
否、警備兵は殺すな、と言われていなかっただけなのだから、実際最後に同類以外を経験値に変える許可を貰ったのは、あの社長だけか。
「僕がまとめて経験値にして良いいのかい?」
『お前以外にはもう第四階位の者が居ないからな――全てお前が屠れば良い』
なるほど、階位だけなら僕と同じだったロドウェル達三人と、失敗作のマーブルを倒してきた連中に――王も、警戒をしてるんだろう。
「それじゃ、僕がありがたく貰っておくよ」
それにしても……800人か――それだけ居れば、僕も次の……最後の階位に上がれそうだ。
否、王は寧ろ、どうせ戦力にならない雑魚――警備兵――を、巨大な戦力――僕――の糧にしようとしているのか。
『そうしておけ――っと、それからなレイビー、お前は侵入者の中で、誰が失敗作を殺った奴か――解るか?』
「僕にそんな事――解る訳無いでしょう?」
僕はそんな類の能力は持ち合わせていないし、仮に持っていた所で、誰がマーブルを殺ったかになんて、興味が無い。
『そうだったな……では、侵入者の中に蒼い髪の男が居る――そいつだけは、足止めせずにこちらに通せ』
「ソレは又――どうして?」
王自らが戦うつもりか? 殆ど完全とは言え、未だに器と完全に同化していない以上、ソレは危険ではないのか?
拒絶反応が戦闘中にでも起これば……王が殺される恐れすらある。
『器を完全に取り込む為だ――レイビー……私の器にとって、失敗作の魂は――どんな存在だった?』
あぁ、確か――彼等は夫婦だったか……なるほど、つまり――
「――器のマーブルを殺した存在への怒りを利用して、器と完全に融合するつもりですね、王」
『その通りだ――では、任せたぞ』
そう言って、王は通信を切ってしまった。
しかし……たかが人間一人を取り込むのに、王も随分と時間を掛けたモノだ。
否、元々の形が無かった王が、生命体を取り込むのに苦労するのは仕方が無い――か。
しかし――実際、階位なんて上げなくても、他のAクラスと違い、SSSを持つ僕に勝てる存在なんて居ないんだけどね――
「――君もそう思うだろ?」
(……)
だんまりか……君があんまり喋る奴じゃないのは解ってるんだけどね、少しぐらい契約者の僕と話をしてくれても良いんじゃないか?
(……善処します)
「まぁ、そんな事はどうだって良いさ――」
折角王に貰った同類以外を殺すチャンスを――不意にするつもりなどカケラも無い。
と、言うか――
「――いくら通路よりも広いフロアだからって、ここまでの人数を一箇所に配備する事に、疑問を感じないのかな、彼等は?」
まぁ、金で雇われた半ば絶対服従な兵達だ。数が多ければ多いほど、自分達の生存率が高まるとでも思っているのだろう。
「実際、誰一人生き残らないんだけどなぁ……」
一人残らず、僕の経験値に変わってもらう事になってるしね。――っと、そろそろ始めないと、侵入者達がココまで到達しちゃうね。
「――それじゃあ、そろそろ始めようかな……僕のレベル上げを」
呟きながらモニターの電源を切って、800人の生贄の待つフロアへ向けて、僕は移動を開始した。
フロアまでの距離はそう遠くない、一分もあればたどり着けるだろう。
侵入者の移動速度から考えれば、あのフロアにたどり着くのは五分後……まぁ、800人分の経験値を稼ぐにはソレで十分だろう。
そんな事を考えながら、僕はフロアへと続く、多少広めの通路を歩いた。
そして僕は――フロアの入り口のドアを開けて、フロア内に入った。そこには、見渡す限り、武装をした人間の姿が見える。
結構な数の警備兵が外の警備に出ているが――実際の所、今研究施設の警備兵の半数程が、今ここに居る事になる。
一体、何処からコレだけ人間を集めてくるのか――
「レイビーさん、どうかしたんですか? 侵入者はまだみたいですけど」
――などと考えて居ると、心底不思議そうに、警備兵の一人が僕に声を掛けてきた。
コレから自分達が僕の経験値になる事モノ知らずに――暢気なモノだ。
「あぁ、何――君達を僕の経験値にしようと思ってね?」
「は? 一体何を言っているのでしょうか?」
その言葉の意味など、恐らく誰一人理解できなかっただろう。だけれど、理解してもらう必要など――無い。
だから僕は――魔獣としての力を解放する為に、言葉を紡いだ。
「――《殺意-MurderousIntent-》」
ソレが、僕の能力の名だ。この能力があったからこそ、僕は王に選ばれ、同じ階位の他の同類達が持ち得なかった力を与えられたのだ。
歴代の同類の中で――最凶と言っても良い程の能力。心の弱い人間を狂わし、暴虐の徒に変える殺意を振りまく――力。
その能力が見初められ、僕は《禁忌》を得たのだ。
発現した能力――《殺意》が脆弱な心しか持たない警備兵達に広がり、狂わせる。
仮に、数人が殺意に当てられなかったとしても――周囲に存在する暴虐の徒に殺されるだけだ。
放っておけば、狂った警備兵達が仲間を勝手に殺し、数人残ったとしても直に自害をするだろう。
「――もう、殺し合いは始まっているようだしね」
後、二分もあれば、フロアの床は赤一色に染めれるだろう。――っと、血で汚れるのは嫌だし、アレを発動させておこうかな。
既に殺し合いは始まっている。フロアに木霊する、いくつもの狂気の叫びの折り重なり音色を作る。その音色が心地良い。
「Apocrypha」
歌う様に唱えると同時に、右の人差し指に嵌められた指輪――《禁忌》――が、詠唱と同時に解けて、黒い一冊の書として再構築される。
解ってるね《禁忌》――僕は、血で汚れたくないんだ。
(……解ってます。…………空、Lv6――発動)
《禁忌》がそう言い終ると同時に、血だらけの骸が、こちらに投げ飛ばされてきた。――が、そんなモノは空間の亀裂は超えられない。
投げ飛ばされた骸は、僕の目の前の空間に衝突して、地面に落ちた。
……エーテルの消費量が減った? 否、僕自身の持つ絶対量が増えただけか、これなら――《禁忌》を今まで以上に使うことが出来そうだ。
――さて、それじゃあ……侵入者が来るまでには終わってるだろうけど、暇潰しに殺戮ショーでも見学しておこうかな。

<SCENE059>――深夜
地下の広大通路を駆ける事、数分――一進んだ先には、巨大な扉が存在していた。
ココを開ければ、恐らく無数の黒いバケモノが居るだろう。さもなくば、コレだけの殺意が、扉から漏れ出している筈がない。
……やはり、リーファブ社で遭遇した黒い少年の気配は、バケモノに似ている。――否、今はどうでも良い事だ。
「……いくぞ、皆」
ティターンを含めた俺達なら――バケモノの軍勢にも……勝てる筈だ。
「――言われなくても、私はそのつもりだ」
『ドンだけ居ようが、俺達がティターンで蹴散らしてやるよ』
『ここまで来たら、やるしかないでしょ?』
隣から、通信機から――皆の声が聞こえてくる。そうだ、俺達は――目的を果たすんだ。
決意を胸に、俺は巨大な扉を押し開いた。その先は、広大なフロアの床を唯一色――赤――の液体で染めていた。
赤、赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤――見渡す限り、地面に広がる赤色と、その所々に幾つモノ肉片が浮かぶ、赤い海が広がっていた。
「ようこそ侵入者諸君――どうかな、この赤の世界は?」
その中心に、何処かで聞いたような声を発する、スーツ姿で、小脇に本を挟んだ少年が居た。
――――!?
ソレは、リーファブ社で遭遇した黒い少年と、瓜二つだった。服装も、背丈も、表情も、声も、放つ殺意も、今のこの状況でさえも――
だが、違う。髪の色が、肌の色が、ココからははっきりと判別できないが、恐らく瞳の色も――以前とは全く、何一つ違う。
髪の色は染めればいい、瞳の色はカラーコンタクトでもつければいい、しかし、肌の色を変えるのは、簡単には出来ない。
以前の髪は銀色だった――今は金色に変わっている。以前の瞳は赤色だった――今は、わからない。
以前の肌は深い褐色だった――今は、血の流れを全く感じさせない、白色。
血の海を見て、ラビも、ケビンも、セリアも口を開かない。だけれど、俺は口を開いた。
「……お前は――何者だ」
「僕はこの光景の感想が欲しいんだけどね。以前コレを赤の世界と呼んだ者が居てね――君達がこの光景をなんと呼ぶのか気になってね」
赤の世界と呼んだ者――ソレは、紛れも無く俺だ。つまり、黒い少年と赤い海の中央に立つ少年は、同一人物という事になる。だが――
「質問の答えになってない――答えろ、お前は何者だ!」
「――別に、僕にはこれから殺す人間に名乗るような趣味は無いんだ」
この際だ、色の変化など忘れよう。今の俺達の敵は――あの少年だ。この先の、父さんの居る場所に進むには、彼を倒して進むしかない。
確かに、これから殺す相手の名前など、知らなくていい。だから――
「あぁ、そうかよ――じゃあ、俺達はお前を殺して先に進ませてもらうぜ」
それだけ言って、俺はエリニュエスを構えた。ソレに続くように、ラビも独自の構えを取る。――ティターンも既に臨戦態勢だろう。
「ストップ――さっきから喋ってる蒼髪の君――」
そう言いながら、少年は俺を指差す。そして――
「君だけは先に進んで良いよ――否、先に進んでもらわないと困る。王が君だけは通せ、と言っていたんでね?」
――そんな事を、口走った。
「……何?」
思わず聞き返してしまう。コイツは、一体何をいってるんだ? 俺だけ、先に進んでも良い、だと?
それに、王ってなんだ? そういえば、彼は前に会った時も王がどうだとか言っていたが――一体誰の事だ?
「だから、君だけは通って良いって言ってるんだ」
いや、話の流れから考えれば、父さん……つまりは、父さんに憑いているモノ……か?
だけど――なんでわざわざ俺だけを? 頭の中を疑問が埋め尽くす。しかし――
「私達の事はいいから、お前は先に進め、この子供を殺したら、すぐにその王とやらを殺しに行く――お前一人で、決着はつけるな」
――そう、俺の肩を叩いて、ラビは言った。
無論、俺も母さんとの約束で父さんを救うつもりで居る。故に、決着はすぐにはつかないだろう。
父さんに憑いている王とやらから父さんを救って、その王をラビが倒せば、ソレで良い。
「わかった――先に行かせて貰う」
言って、俺は少年から離れた位置のコースを取って、フロアの向こうにある扉に向かって走り出した。
地を蹴るたび、ピシャリ、或いはグシャリと、音が鳴る。だけど止まらない、止まっていられない。
俺は、血の海の上を走ってドア――この広さだとティターンが通れない――の前にたどり着き、その扉の向こうの通路へと踏み出した。

――to be continued.

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