EternalKnight
伍話-9-<集結〜契約〜>
<SCENE057>――深夜
地面を疾駆し、皆と別れた地点に向かっている。そこが、集合場所だ。
母さんとの戦いで、随分と時間を消費した以上、俺が最後かもしれない。
そう思いながらも、母さんの最後の願いを思い出しながら、俺は疾駆している。
母さんの最後の願い――ソレを叶えるという事は、十年間俺を支えてきた自身との誓いを――果たす事が出来なくなるコトを意味する。
だけど、だけれど――それに縛られる必要は、無い。
進むべきは、何も知らない俺が掲げた復讐の道ではない。
何故こうなったかを知っていた、母さんの最後の願いを叶えるという――道。ソレが、俺の進むべき道だ。
つまりは――何者かに憑かれた父さんを救い出す、と言う事だ。どちらにしても――俺にとってはきっと……最後の戦い。
それで良い。他は考えなくても、それでいい――と、そんな事を考えている間に、集合地点が見えてきた。
しかし、遠目に見てもティターンがまだ来ていない事は明らかだ。
――まだ距離はそれなりにあるが、ティターンの全長10メートルはある、居ればここからでも見えるだろう。
しかし、ケビンが気合を入れて作った、対機動兵器との一体多を主眼においたティターンが、一体多の機動兵器戦で負けるとは考えづらい。
故に、何かトラブルでも起こした――と、考えるのが自然かな……
そうこう考えてる間に、目的地にたどり着いた。――俺は、どうやら二番だったようだ。
たどり着いたその場所の目印は単純にトレーラーだ。一番にここに戻ってきたであろうラビは、トレーラーの荷台に座っていた。
そのラビに話しかける為、俺も荷台に上る。そこで、ラビはようやく俺の存在に気づいたのか、顔をこちらに向けた。
そうして向けられたラビの表情は、いつもと変わらない。唯一つ、瞳が充血している事以外には――
座り込んで、こちらに顔を向けたラビに片手を上げて「よぉ、早いな」軽く、声を掛けた。
「そうだな……少し時間を取られたので、私が最後なのだろうと思ったのだが――」
「実際は、一番――っと。まぁ……二番になった俺も、似たような事を考えてたけどな」
しかし――その後ラビに詳しい話を聞いた所によると、俺達は二人共、強力な力を持った敵一人と戦っていたらしい。
と――なると、ケビンやケイジの元にもそう言う存在が現れてもおかしくない。って事か。
なるほど――ティターンが遅いのはそういう訳か。
そも、アレは対機動兵器との一体多数戦を主眼においた機体だ。――特に特出した一つの敵と戦う事には、向いていない。
勝敗については、とにかくケビンやケイジ達の奮闘を祈る事しか出来ない。
故に、考えないでおこう。俺達がどう思ったかは、結果には何も関係ない。
「ところでさ、ラビ。その目――一体どうしたんだ?」
だから、話題を変えた。ソレについてはラビも暗黙の了解だったらしく、特にツッコミは入らなかったが――
「何でもない……目にゴミが入っただけだ」
そうは言うが、両目とも充血してるって事は、両目に同時、或いは続けざまに目にゴミなんか入るだろうか?
否、入らない。普通に考えれば入るはずが無い。だけれど――何かが、あったのだろう。
ラビが自分から打ち明けなかった以上、問いただすだけ無駄だろうし、そんな事をする気は無い。
「それよりもネス、お前も――なにかあったのか?」
「んぁ? どうしてそんな事聞くんだ?」
確かに、あったにはあったが、別に俺は泣いてないから目が充血してるなんて事は無いと思うんだが――
……涙は、十年前に一生分泣いたつもりだったあの時以降、流していない。
ソレは、母さんをこの手で――間違いであってもこの手で殺した、先程も同じだった。
「否、何か――いつもと違うモノを感じたんでな。それで、実際の所、何かあったのか?」
母さんと戦って――この手で殺した。そして最後に望みを託された。父さんを助けてくれ、と。
そうして、俺自身が、その願いを取り入れ、自身の誓いを放棄したのだ。何かが変わっていても、おかしくは無いだろう。だけれど――
「気のせいだろ。俺は何も変わっちゃいないさ」
――そう言って、適当にはぐらかした。
《牙》のメンバーはそれぞれ全員戦う理由を持っている。だからこそ、国家……五聖天に立ち向かえるのだ。
――母親の復讐をする為に父親を殺そうとした者。
――最後の肉親である父親を、研究材料にされたが故に――計画そのものを破壊しようとする者。
――託された仲間達を誰一人救えず、その仲間達を殺した者へ復讐しようとする者。
俺が知っているのは自分のモノとケビン、ケイジのモノの三つ――ラビとセリアの理由は、知らない。
その理由の変化を、語る訳にはいかない。それは、自分の重荷を、他人にも背負わせるのと同じだから――
――と、そこで巨大なスラスター音が聞こえてきた。その音に反応して、音の方向をみると、ティターンがホバー移動してくるのが見えた。
その姿を見て安心する。コレで、残るは――ケイジのみだ。
……しかし、ホバー機能までついてたのかよ、アレ。
――などと、思いつつ、ラビのリアクションを見ると、心底呆れたようなその表情から、大方同じ事を考えていただろう事を察した。
と、そこで急に通信機に突如、ケイジの声が響いた。
『任された仕事はこなしました。それで、ちょっと疲れたんで、少し休憩で眠りますね』
「なっ!? ちょっと待――」
そう言おうとした時には、既に通信は切れていた。
その通信、一体何を意味するのだろう――考えたくない、最悪の答え――ケイジの死――が脳裏に過ぎる。
そんな……馬鹿な。否――違う。アレは本当に少し休むってだけの連絡だ。だったら、何故すぐに通信をすぐに切った?
そうだ――もう一度通信を、今度はこっちから……そう考えて、手を通信機に伸ばし、ケイジの通信機に繋いで声をかける。
「ケイジ、生きてるか! 生きてるなら返事しろ!」
だけれど、通信機の向こうから声は――帰ってこなかった。
「――っクソ!」
ある程度、この作戦で誰かが死ぬかもしれない事は予想していた。だけれど、予測と実際にそうなるのとでは――大きく違う。
「ネス、落ち着け」
そこで、後ろからラビに肩を叩かれる。だけれど、落ち着けと言う方が無理な話じゃないのか?
――一番付き合いが短いとはいえ、仲間なんだぞ? ……だけれど、ラビの言うとおりでもある、俺達は前に進まなくちゃ行けない。
「――そう、だな」
まだ死んだと決まったわけじゃ、ないんだから――
仮に――仮にケイジが本当に死んでしまっていたら、ソレこそ――今、進まなければいけない。
敵がすぐにでも電力を復旧して、ケイジの苦労が水泡に帰すかもしれないのだから。
――と、そこでケビンから通信が入る。先程のケイジの通信は、全員に発信されたモノだったのだろう。
『ケイジの事は今は忘れろ――作戦を成功させる事が俺達の至上目的なんだぞ』
その言葉に「そうだったな」と、短く返し今度は俺の方から告げる。
「行くぞ、皆! ELPなんざ、余さずまとめてぶち壊すんだ」
――そして、父さんに憑いてるモノを消し去って、母さんとの約束を果たすんだ。
心の中でそう唱えて、俺は地下研究施設への扉を開けた。

<Interlude-ケイジ->――深夜
意識が、薄れて行く。その中で、薄れて行く意識の中で――あぁ、やっぱり俺には無理だったんだ、と――諦めの言葉を唱えていた。
俺には仲間と共に戦う力がなかった。そんなんじゃ、仲間を救えなくて当然だ。そんな俺が、仲間の為に戦って良い筈が無かったのに。
【では――汝に問おう。汝は、何故仲間と共に戦おうと、仲間を救おうとする?】
薄れ行く意識の中で、声を聞いた。何者かの声を――問いを。意識の薄れ止まり、明白になる。だけれど、体の感覚は戻ってこない。
【汝は、何故仲間と共に戦うと、何故仲間を救おうと思った?】
声が、問いが再び聞こえる。先程と同じ質問、言い回しを少し変えただけの質問。
意識だけ明白で、他はその声以外には何も感じない。――だから、その質問に答えようと思った。けれど――何故なのか、答えれない。
答えが、思いつかない。何で――自分が仲間と共に歩もうと、救おうと思ったのか、ソレを答えられない。
【質問を変えよう、何故汝は――仲間の為に戦う?】
答えが思いつかない。俺が仲間の為に戦うのは、何故なのかが。――そこにどんな理由があるのかが、頭に浮かばない。
だって、俺には――そんな大義名分は無いんだから。
どれだけ考えても――仲間の為に戦うのは、当然の事だから――と、それ以外の答えに至れないから。
――そんなモノは、答えにならないだろう。
【否、我と契約するのに、それ以上の理由など必要無い】
……契約? お前との契約ってなんだ? そもそも、お前は誰だ?
【名乗るのは後で良い、それでは、簡単に説明しよう。我は汝に力を貸す、汝は我と共に永久を生きる、ソレが契約だ】
力を――貸してくれるのか?
【ソレが契約だと、今しがた言ったばかりだが?】
なら――契約しよう。俺がまた仲間と共に戦えるなら、仲間の為に戦えるなら――それ以上に必要なことは無い。
【心得た、それでは最後に問おう。汝の名はなんだ?】
ケイジ=クルイ。ソレが俺の名だ。
【なれば我も答えよう。我が名は《虚空》コレより汝と共に永久を生きる、汝の力だ】
瞬間――消え去っていた体の感覚が、唐突に蘇った。
負っていたダメージは全く残っていない。あるのは唯、所々に穴が開き、ヒビの入った強化外装甲のみ。
「どう……なってるんだ?」
自分に起きた異変が理解できない。何故こんな事が起こっているか理解できない。
(詳しくは後で説明する、今は――汝を追い詰めた敵を倒す事を優先すべきではないのか?)
「――この声は《虚空》か? つーかお前、何処にいるんだよ。なんか頭の中に声が響いてるみたいだけど」
(詳しい事は後で説明すると言ったであろう)
「まぁ、そうだな。ソレに――バルバの野郎を倒すのが先って意見にも賛成だ」
言って、俺が前を向くと、今まさにその場を立ち去ろうとしていたバルバが、そのままの位置で固まっていた。
「……俺さぁ、お前を虫の息にしたよなぁ?」
俺に背を向けたまま、バルバが肩を振るわせながら、言った。――虫の息にまでされてたのか、俺。
しかし、じゃあなんで今は全快の状態なんだ?
(ソレをやったのは我だ。詳しくは後で説明する)
「また後で――か。まぁ、別にいいけどよ」
「それでさぁ、お前さっきから何と話してるんだよ? 独り言か? キモイんだよ、そう言うのさ――」
言いながら、バルバが振り向いて、怒りの眼差しをこちらに向けた。
(あぁ、言い忘れていたが、我の声は汝以外には聞えぬからな?)
「言うのが遅いっての」
「ふざけるな、なんだテメェ、なんだよテメェ――なんで聖具と契約なんかしてんだよ。やっと終わったと思ったのに――」
なんかよくわからない単語が出てきたな……
(ソレも後で説明する。それから、声に出さなくても我には汝の考えている事が伝わるからな)
……そういうことは早く言えよ。
「うぜぇんだよ、だりぃんだよ――下級聖具と契約した程度で調子に乗ってんじゃねぇよ、クソがぁ!」
瞬間、先程まで全く動こうとしなかったバルバが、こちらぬ向かって突っ込んできた。
(ふむ、どうやらエーテル探知は持ち合わせていないようだな……我を下級などと同一視してもらっては困るのだが)
暢気なことを言っている場合か! 力を貸してくれるんじゃねぇのかよ!
(ふむ――既に一部は貸し与えているつもりだが?)
そんな《虚空》の声を聞きながら、俺は突っ込んでくるバルバをかわそうと、横に飛んだ。
体が、軽い。否――全身が強化されてるのか?
(ソレこそが、我と契約した事によってもたらされる力のその一部だ――それだけでも、汝なら勝てるのではないか?)
そうだな、コレなら――
「余裕で、勝てる」
言って、着地した俺は、既に方向転換を終えて、こちらに向かってくるバルバの方を向く。
「調子に乗ってんじゃ――」
バルバの咆哮の様な叫びが動力室に響く。ソレを聞きながら、俺は大きく地面を蹴って、バルバの突っ込んでくる方向へ飛んだ。
互いにぶつかり合う様に正面から激突する。衝突は一瞬、その一瞬で、勝敗は決した。
バルバの黒く発光する腕は空を貫き、俺の拳とバレルトンファーはバルバの腹部に突き刺さった。
――そして俺は、引金を引き、バレルトンファーの銃口からエーテルの光が放たれた。
「ね――ぇ?」
その光は、バルバの腹部を貫き、地面に崩れ落とさせた。その体は、淡い金色のエーテルの光に変わりながら、徐々に薄れて逝く。
「逆転勝利――ってか。まぁ……実力で勝った訳じゃないんだけどな」
言って、俺はその場に座り込んだ。なんだか、妙に疲れてしまった。自分の役目を果たしたんだし――少し、眠りたい気分だ。
(ふむ、契約の為に肉体の損傷を強引に修復し、殆どエーテルの残っていない状態で戦ったからな……ソレも仕方あるまい)
なんだかよく解らねぇけど――少しばかり眠るわ……この状態で戦ってもろくな事無いだろうし――
(そうしておけ、バルバとやらのエーテルに満ちたここでならば、そう時間も掛からずにそれなりの状態に戻るであろう)
そうか――じゃあ皆に、心配かけねぇ様に連絡入れなきゃな。
なんて考えながら、通信機のスイッチを居れて、とにかく一言、全員に告げる。
「任された仕事はこなしました。それで、ちょっと疲れたんで、少し休憩で眠りますね」
それだけ言って誰からの言葉も待たずに通信を切り、通信機を投げ捨てた。誰から通信が来ても、眠ることの邪魔にならないように――だ。
そこで、改めて強力な睡魔に襲われる。そして、地面に仰向けに倒れこみ、そのまま睡魔に抵抗せずに意識を手放して、俺は眠りに落ちた。

――to be continued.

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