EternalKnight
伍話-8-<決着〜因縁との決着〜>
<Interlude-ケビン->――深夜
最大稼動――100%の稼動でもアレを撃てる程のエネルギーが溜まるまで、かなりの時間がかかる。
その間《巨人甲殻》から逃げ回るのに《テミス》等を使う事を考えると、かかる時間は更に倍、と言った所だろうか。
……それまで、機体を無事でいさせられるか、そこが、勝負の鍵になるだろう。
会話をして時間を稼ぐ――気を引くのはもう既に不可能と考えても良い。一度使った手がもう一度通用する訳がない。
ならば、どうする? エネルギーも残弾も、奇策も無いこの状況を、どうやって乗り切る?
そうして居る間に、《巨人甲殻》の再生が終わった。一斉射撃を受ける前と殆ど変わらない、その姿に戻ったのだ。
『大したものですね――やはり、過去に私を差し置いて天才だのと呼ばれただけの事はある――しかし、それでは私を倒せない』
集音樹が集めたロドウェルの声が、コックピット内に響く。
『ただ、一つ――気になる事があったので聞いておきましょうか』
――チャンスだ。相手からの問いかけてくると言う事は、そのまますぐに戦う気は無いと考えていい。それならば、まだチャンスはある。
「……なんだ」ゆっくりと、出来る限り間をおいて、俺は答える。
『先の攻撃――エーテルによるモノも混ざっていましたが……アドヴェント、貴方はどうやってエーテルの事を知ったのですか?』
「……自分で見つけ出した」
エーテルを自身で見つけ、運用できるようにしてきた。無論、かなりの年月がかかったが――
そも、途中で気づいた事だが、エーテル機関はブラックボックス扱いされていた異星人の技術――半無限回路――と同じ仕組みなのだが。
『面白い、実に面白い――自分自身の手で見つけた? エーテルを何の情報も無しに、零から発見できる訳がないでしょう?』
否、どうして俺が見つけて、《牙》のメンバー以外には誰にも教えていない筈のエーテルについて、ロドウェルは知っているんだ?
だが、今は質問する時ではない。時間を稼ぐ時――だ。
「そんな事言われてもな、自分で見つけたんだから仕方ないだろ?」
そう、どれだけ否定されようと、ソレが真実である以上、これ以上答えることは無い。
『嘘だ、嘘でしょう――嘘だと言えば良いじゃないですか。そんな嘘、ついても意味はありませよ?』
自身を落ち着かせるかの様に、ロドウェルが言う。――チャンスだ。
「意味なんか無い以上――嘘ではなく、真実なんだろ?」
落ち着こうとするロドウェルの神経を逆撫でするように、俺は言った。
『ありえない、認めない――そんな事が出来るモノが、いる筈がない! 居るのであれば、本当の――』
そこで、言いよどむ。しかし、その先の言葉は――
『天才――って奴なんじゃないの? ケビンは』
――セリアの口から紡がれた。
無論、この声も外部のスピーカーから発されて、ロドウェルに聞こえているだろう。
『はっ、ははははは――では、私を天才で無いと言うのですか――貴方は!』
『さっき、そう言ったじゃない。――まったく、貴方なんかを恐れていたなんて私が馬鹿みたいじゃない』
セリアの声に先程の様な震えは感じられない。何故、ココに来て、この状況でそんな事が言えるのか、俺には分からない。
『私は――天才だ。誰にも負けない知識を持っていなければならないのだ――それを、その私に、馬鹿と言ったか?』
『貴方を馬鹿とは言ってはいないけれど――少なくとも貴方は天才なんかじゃないわ』
セリアの罵声を浴びて、ロドウェルがその言葉に反論する。それによって時間が稼げる。
『私は天才だ、誰にも否定はさせん――王も、私を認めてくれたのだ!』
確かに、罵倒などは、全く知らぬ人間に言われるとこれ以上無いほどに腹が立つ。
『そんなの知らないわよ、そもそもね――天才ってのは、常人が不可能だと思うことを簡単にやってのける人の事なのよ?』
それを、上手く利用している。そして、ロドウェルは、まんまとその策にかかっている。
『なら私は天才だ――私は、常人には出来る筈も無い事をいくつも可能にしているのだ!』
怒りの為か、その口調も、妙に丁寧なものはから、普通の――俺の部下だった頃の――ものに戻っている。
そも、ロドウェルは俺達にもう自分を倒す武装が無いと、先ほどの一斉掃射を受けただけで決め付け、油断している。
そして――エーテル機関の最大稼動から、殆ど動かなかったティターンは、意外なほど短い時間で、エネルギーのチャージを終えた。
発射には二重のロック解かなければならない、ティターンの最強装備が《クロノス-胸部主砲-》が――今、解き放たれる。
既にセリア側のロックは解除され、残るロックは俺のモノ一つだ。
『思い上がるのもいい加減にしなさい! 貴方は――天才なんかじゃないわ』
セリアの強烈な一言が、聞こえた。そして――罵声を受け続けたロドウェルが遂に切れた。
『黙れぇ!』
叫びと共に、怒りに任せて一直線に――恐らく全速力で《巨人甲殻》がこちらに突っ込んでくる。
これ以上のチャンス等、存在しない。故に――すぐさま《クロノス》のロックを外す。
そして、真直ぐにこちらに突っ込んでくる《巨人甲殻》に向かって、《クロノス》を解き放った。
瞬間、モニターを白い閃光――否、白い極光が支配する。――音は、殆ど聞こえなかった。
そして、十秒ほどモニターをしたいしていた白が、ようやく薄れ、モニターに外の風景画映し出された。
そこには――予想を遥かに上回る光景が――前方に存在する、全てのモノが消滅した風景が、映っていた。
本当に、何も無い。数キロ先までの一切の障害物を、完全に焼き払っている。そして、勿論――
『元、部下の人の反応はもう何処にもないわ』
――ソレを正面から受けたロドウェル=ウェイルットが、生きている筈が無かった。
つまりは――俺達の勝利、だ。
先程の一撃でエネルギーは零になったので、しばらくは動けないが、エーテル機関を稼動させておけばいずれは回復するだろう。
「セリア、エーテル機関の稼働率は?」
『……100%で使ったのが原因だろうけど、安定してないし、40%も無い状態よ』
「そう――か」
まぁ、しばらくはエネルギーが回復するまではココに居れば良いだろう。

<Interlude-ラビ->――深夜
そうして、互いの一撃で、私の体は吹き飛ばされ、ルアの体も吹き飛ばされた。
おかしい、ソレはおかしい。否、コレはおかしい。吹き飛ばされながら、私の脳内を駆け巡るのは疑問の渦だった。
そして、吹き飛ばされた結果、地面に落ちた私は、頭部の痛みに耐えながら、立ち上がった。――立ち上がったのだ。
何故、私は生きているのか、ルアの放った拳を受けたにも関わらず――だ。
そも、頭部を吹き飛ばす事なんて、今の超絶的な力を持ったルアにはわけない事だと思っていた。
否、事実そうだった筈だ。なのに、私は生きている、それはつまりルアが手を抜いた、という事だ。だがしかし、私は手など抜いていない。
「ッ――ルア!」
瞬間、私はルアが吹き飛んだ方向に駆け出した。その先には、崩れた兵舎が存在している。
つまりは、ルアはその瓦礫の山に居る――駆ける、駆ける、駆ける。そうして、瓦礫の中で倒れるルアの姿を見つけた。
その腕に藍色の装甲は無い。否、あった所で変わりはないだろう――この体じゃ、もう戦えない。
だが、その腹部には巨大な穴が開いていた。言うまでも無く私の《可変腕》によって作られた傷だった。
その腹部から血が流れ出し、流れ出た血は金色の霧へと変化して霧散していく。
だけど、そんな物は今はどうでもいい。ルアに歩み寄りながら、右腕を《待機形態》に戻して、瓦礫の山の中に居るルアを抱きかかえる。
瞬間「ラ……ビ……?」と、苦しそうにルアが口を開いた。
「っ――そうだ、私だ。ルア」
ソレに応えるように、ルアに語りかけながらその体を強く抱きしめる。
「あり……がとう、ボクを――殺してくれて。やっと、自由に……なれるみたいなんだ」
傷口から漏れた血が、金色の霧になって行くように――今度は、ルアの体もまた、金色の霧になって逝く。
「待て、待ってくれ――どうして、私を殺さなかった。命令だったんだろ? 私も殺してくれればよかったじゃないか!」
ルアと共に逝けるのなら、ソレは本望だったのに。
「やっぱり、ボクにはラビを殺すなんて出来ないみたいだったんだ。ソレに――ボクはラビを呪いたく無かったから」
笑顔で、既に両足まで霧へと変わってしまっていたルアは言った。その顔には既に苦痛の色はない。痛みの感覚が消えたのだろう。
「ボクは、既に死んでいるべき人間だから――ラビに殺して欲しかったんだよ、ラビに殺されるのなら――本望だから」
「どうしてだよ……なんだよ、ソレ」
認められない。結局、私が生き延び、ルアが死ぬのか?
冗談じゃない――私も、ルアと一緒にこの場で――
「駄目だよ、ラビ。ボクの後を追おうなんて考えちゃ……ボクはラビに生きて欲しいんだから」
そんなの、勝手すぎる――私は、ルアの復讐を目標に今ココまで来たのに、そのルアを殺してしまえば、一体何を目標にすればいいのか。
「……」
言葉を、紡げない。そしてルアの体も、既に肩から上しか残っていないから。
「ラビに生きて欲しいから。一つだけ伝えるけど――引き返して欲しいんだ。王やレイビーに、勝てるわけがないから」
「……王?」
そうだ――そいつだ。そいつさえ居なければ、ルアがこんな風になる筈じゃなかったんだ。
「絶対に――駄目だからね?」
そのルアの言葉に、私は静かに肯いた。勿論、約束を守ろうとは思っていない。
だけど――ルアが安心して逝けるように、私は肯いた。満足したように、笑いながら――ルアが、消えて行く。金色の霧になって逝く。
「それじゃあね、ラビ。ボクもキミの事を――愛していたよ」
ソレが最後の言葉だった。それだけ言い残して――ルアは、私の最愛の人は、完全に消え去った。
「あぁ、私も――お前のことを愛していたよ」
そして、消え去ったその場で、それだけ呟いて、私はネス達との集合場所に向けて、足を動かし始めた。
ルアを助けれなかったあの日を最後に流れ出なかった雫が、私の頬を伝っていた。

<SCENE056>――深夜
――俺は、ブレードが握られたままだった左腕を、一気に振り上げた。
回避は間に合わないし、防御も出来ない――故に、残された道は一つ、こちらから攻撃する、ただそれだけ。
振り上げたブレードは、人形の放った拳が俺の体に打ち込まれる直前で、人形とその右手を分断した。
「アァァァァァ!」
再び、決して狭いとは言えない元司令室の中で、人形の絶叫が木霊する。
突きとは――一方向、一点に加速力と体重を載せることによって攻撃する方法だ。
故に、切断された事によって、本体と言う大きな体重のバックアップを得れなくなった拳が持つ破壊力は、微々たるものだろう。
そんな攻撃では、ひび割れているとは言え強化外装甲を突破する事は出来ない。
本体より切り離された拳は、俺の装甲にあたり、無残に地面に落下し始める。
しかし、腕が地面に落ちるよりも早く、右手にも握ったままだったブレードで、人形の腹部を貫いた。
そうして、切断された腕が再び地面に落ちて、そこから流れる血も同じように金色の霧へと還り始めた。
ソレを見てから、告げる。
「それじゃあ、宣言どおりに解体してやるよ」
言って、腹部に刺したままだったブレードで、腹を掻っ切る様に、真横に引き抜いた。
肉を割く感触が、ブレード越しに腕に伝わる。――慣れた、感触だ。人間を切った時と、同じ感触。
だけれど、それでも――黒い血と、金色の霧に還る肉体が、母さんと同じ形をしたこれを、人形だと思い出させてくれる。
そうだ、コレは――人形だ。母さんは、十年前に――
「……ロ」
――だというのに、目の前の人形は地面に崩れ落ちながら、何かを、俺の知る何かを口にした。
「ネ……ロ」
なんで、母さんじゃない……母さんに似せて作られた人形が――俺の名前を、本当の名前を口にするんだよ。
その答えが……考えたくも無い答えが――アレは、本物の母さんじゃないのか?――脳裏によぎる。
だけれどソレはおかしな話だ。本当に母さんであるなら、何故、俺に仕掛けてきた。俺は――なんども最初に呼びかけた筈だろ。
「ごめん……ね、ネロ」
だけれど、その口調は紛れも無く、母さんのモノで――
「母……さん」
「こんな……私を、まだ……母さんって……呼んでくれるの?」
その言葉を紡ぐ表情は苦痛に歪んでいる――俺の、与えた傷で――だけど、声は優しい母さんのモノだった。
「どうして――なんで、もっと早く言ってくれなかったんだよ!」
父さんが作った人形ではなく、本当に母さんだったと、知っていれば――こんな事にはならなったのに。
「私の魂は、不完全だから――だから、言えなったの」
魂が……不完全? 一体何の話を――ッ!?
そこで、母さんの体から、金色の霧が立ち上り始め、同時に、苦痛に歪んでいた表情が穏やかなモノになって行く。
それが何を知らせるモノか、俺は知っている。ソレは――崩壊へのカウントダウン。
「……説明する時間も、もう無いみたい」
「そんな……俺のせいで――母さんが……」
これじゃあ、俺も父さんと何も変わらないじゃないか――俺も、母さんを殺してしまったじゃないか。
「ネロ――一つだけ、お願いがあるの」
金色の霧が徐々に体から出て行くに連れて、末端から薄れて行く母さんが、そう言った。
「……何?」
「ゼオを――お父さんを……助けてあげて」
母さんの最後の願い、ソレを出来る限り叶えてあげたいと思った。だけれど――ソレは、それだけは……俺には無理だ。
「父さんは悪くないの――悪いのは全て……父さんに憑いている存在よ」
「父さんに憑いている――存在?」
そんな者が……居るのか? 否、確かに――十年前のあの日も、全てが狂いだしたあの日の父さんも――いつもとは何かが違わなかったか?
つまり……あの日から、父さんは憑かれていた――のか?
「こんなになった私を倒せたネロになら、出来ると思うから――お願いね?」
そう言う母さんの色はどんどんと薄れていく。そして――
「最後にネロに会えて、よかったわ――」
その言葉を最後に、母さんは、完全に金色の霧となった、霧散した。
「母さん――母さんの最後の願いは、僕が果たすよ」
金色の光となって空に散った母さんに伝えるように、僕は――俺は、上を見上げながら呟いた。

――to be continued.

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