EternalKnight
伍話-6-<恋人〜熱腸の腕〜>
<Interlude-ラビ->――深夜
呆然と、立ち尽くす。ルアが――一体、何を言っているのか理解出来ない。
「――ソレが、どうしてお前がここに居る理由になると言うんだ、ルア!」
「つまりはね、キミに廃られたボクは、王の忠実な部下になった――ただ、それだけの事さ」
――違う、そうじゃない、ルアは勘違いをしている。私は――ルアを見捨てたりは……
「聞いてくれ、ルア――お前は勘違いしてるんだ。私が、お前を見捨てる筈が――」
「言い訳は聞きたくないよ、ラビ……ボクは既に王に忠誠を誓ったんだ。だからボクは王の命に従って、ラビを殺すよ」
瞬間、ルアが大地を蹴ってこちらに急接近してくる。速い――が、あの程度なら私の方が速い。それに、ルアの腕に武器の類は存在しない。
私は、ルアに手を出したくない。《可変腕》の力の対象にしたく無い。出来る事ならば和解したいと――そう思っている。
故に私は、迫るルアから距離を取るように地面を蹴って後退しようとする。
強化外装甲を纏った私の体に拳は効かないが、その反対に、殴ったルアの手には負荷がかかる筈だ。――故に、当れない。
しかし、私が後方へと飛んだ瞬間――地面から足を離し、滞空しているその僅かな時間で、ルアが一気に加速した。
その速度は、私が跳躍する速度を遥かに凌駕している。そして、私に追いついたルアは右の拳を振りかぶる。
そうして、その拳は、未だ滞空状態で、回避の術を持たない私に向かって放たれた。
――放たれたその腕には、いつの間にか、禍々しい藍色の装甲で纏われていた。
拳が、腹部を打ち抜く。その瞬間、腹部に衝撃が走り、後方に大きく殴り飛ばされた。勿論――その後に待っているのは、落下しかない。
しかし、それでも無様に落ちるよりは、体勢をなんとか整えるように着地して、ダメージを軽減する。
地面に打ち付けられる程度のダメージなど、強化外装甲を纏っている今、ダメージになる筈がない。
――それでも、次の動作が遅れない状態に出来る方が良いに決まっている。
そう判断した私は正しいらしく、着地した私の元に、再びルアが接近してくる。思考が自分に可能な限界まで加速し、状況に対応させる。
今度は後方に逃げない。だが、ならばどうする? 私はルアに手を出したくない。
――なら、答えは一つしかない。説得、ルアのしている誤解を、私が解くしか方法はない。
攻撃は何とかなる。そも、先程は急加速であったが故、対処し切れなかったが、全力ならば、ギリギリ対応できる範囲内だ。
「ルア! 私の話を聞いてくれ!」
その声が届いていないかの様に、ルアの右拳が放たれる――が、ソレを回避する。攻撃の後が隙だらけだが、攻撃せずに、距離を取る。
よし、やはり――かわすだけなら何とかなる。ギリギリではあるが、かわせない速度ではない。
だったら、このまま続けて私の声を届け続ける、そうして、誤解を解くしかない。
またもルアが拳を振り上げながら、あからさまに攻撃する――と言った姿勢で、接近してくる。だが、それでは当らない。
理由は今一よくわからないが、強大な力を得たと言う話は真実なのだろう。
――如何に基礎が強くても、それで倒せるのは、自分よりも弱い者か、ただ力だけしか持っていない知恵の無い存在のみ。
自身の持てる力を最大限に引き出し、戦いの中で成長してきた私とは、経験差があまりにありすぎる。
――が、ソレを埋める様に、こちらと向こうには能力差がある。現状で言うなら、イーブン。
だが、こちらから攻撃できない私の方が、状況的には不利なのだろう。だが、不利な状況など、今まで幾度と無く乗り越えてきた。
まして、最愛の人の誤解を解くのに――もう一度口説き落とすのに、やる気が出ない筈が無い。
「返事が無いなら、私が勝手に話すぞ――いいな」
返事は帰って来ない。だが、その代わりとでも言うように、ルアがまたもこちらに向かって来た。
かなりの速度だが、流石に一撃受けて、その後に二度も見た動きだ、目が動きに慣れ始めている。故に、その一撃も軽く避ける事が出来る。
「そも、お前は私に見捨てられたと言ったが、ソレは誤解だ――ただ、私の力が足りなかった、それだけだ」
そう、あの時の私に今の半分程の力でもあれば――助けられたかも知れないのに。
結局、私の力が及ばずに――ルアを助ける事も出来ずに、右腕を失っただけだった。
「それでも、ラビがボクを迎えに来なかったのは事実として変わりないよ」
「――そうだな。私が、お前を助けに行ってやれなかったのは事実だし――さっきも言った様に私の実力不足がその原因だ」
その言葉に、ルアはようやく動きを止めて口を開く。会話の成立……コレで――まともに説得が出来る。
「御託はいいよ。ラビはボクを助けられず、ボクは助けてくれなかったラビに復讐する――それで、いいでしょ?」
誤解は既に解けている、助けなかったのではなく、助けにいけなかったと、ソレを認識してくれた。
それでも、彼女の気持ちは治まらない。だけど――そんなのは当然だ。
見棄てられた人間が如何に辛い思いをするか――私は知っているのだから。
そこにどんな理由があろうとも、見棄てられた者は、見棄てた者を殺そうと思う。――そこに、深いつながりがあればある程に。
そうして――殺してしまってから後悔する。何故、殺してしまったのかと、ずっと、ずっと後悔する。だから、だからこそ――
「駄目に決まってるだろ! お前に私は殺させない、絶対にだ!」
――ルアに私を殺させる訳には行かない。私と同じ思いをさせてはいけない。
私がルアに出会って立ち直った様に、運良くルアにそんな存在が現れる筈など無いに等しい。
そして何より、ルアは自身を不老と言った。ソレはつまり、如何なるモノも、如何なるコトも色褪せることは無い、と言う事でもある。
そんな生き地獄に、ルアに放り込む事になるのは――絶対に我慢できない。
「殺すよ、ボクは過去を全て清算して――王に従う新しい道を生きる……ラビがその最後の仕上げなんだ」
言って、ルアが再び攻撃の構えを取る。
「私は殺されない――他の誰の為でもなく、ルア……お前の為に、私は殺されない!」
応えて、《待機形態》のままの《可変腕》で動きやすいように構える――勿論、回避する為だけの構えだ。
そうして、一度目の会話での説得には失敗し、戦いが再会された。
迫る右の拳を回避し、受け止める。流石に、放たれる一撃が私の装甲を捉えたとしても、装甲を纏っているルアに、ダメージはないだろう。
故に、回避するだけでなく、わざと攻撃を受け、打ち出されたその腕を掴む、と言う選択肢が可能となった。
コレで、動きは止まった――もう一度、話をする必要があるだろう。否、何度だろうが説得出来るまでしてみせる。
「ルア……よく聞いてくれ。私は今でも、お前の事を愛している。誰よりも――何よりもだ」
「ッ――ソレがどうしたって言うんだ。そもそも、どうしてキミがこんな所にいるんだ!」
捕まえていた腕を引き戻そうとする力が、確実に弱くなった――確実に私の声が……想いが届いている。
「そんな事も解らないのか? 愛するお前を殺した奴に復讐する為に決まってるだろ?」
「今更都合のいい事を言って……ソレに、紛いなりにもボクはまだ生きてるんだよ?」
もう殆ど、拳を戻す力は働いていない。否、全くそんな力は働いていない。
「あぁ、だから――お前が生きてた以上、予定は変更になった。私の目標は全力でお前を助け出す事だ」
「キミが何を言おうと、ボクは……汚れてしまったボクは――もう、元には戻れないんだよ!」
先程まで全く働いていなかった腕を引き戻す力が急に強まり、私は、掴んでいた腕を離してしまった。
ソレと同時に、ルアが後方に大きく跳躍して、動きを止めた。その一瞬で、またかなりの距離が開いてしまった。
だが、それなりに距離は開いてこそいるが、声は聞こえる位置だ。
「これ以上――ボクと話を続ける気なら……ボクは、本気を出すよ?」
小さな、けれど――距離を置いても聞こえる澄んだ声を、私は聞いた。
ソレは、警告であり……同時に、元に戻れない事など無い――と、そう言っているようだった。
本気を出す、と言う事は――本気を出せば勝てる私を相手に、わざと手を抜いていたと言う事の裏返しでもある。
そんな風に考えられるルアが、どうして汚れていると言えるのだろうか? 否、言える筈が無い。
「お前は汚れてなんか居ない、今からでも十分元に戻れる。だから――」
――だから、私と一緒にココから逃げよう。と、そう伝えようとした言葉は叫ぶような声に遮られる。
「うるさい! ラビにはボクの気持ちなんて解らない。あの地獄を越えていないラビなんかに、ボクの気持ちが解ってたまるか!」
叫ぶルアの右腕を覆う装甲が、その形状を変化させていく。
「あぁ、私にはお前の気持ちなんて解らないさ。だけど、これから解り合える様になりたいと、そう思ってる」
「――っ……無理だよ。だってボクは呪われているし、穢れているし、血に塗れている。ラビと分かり合えることなんてもう無いんだよ」
そう、ルアが言い切った瞬間、その右腕の装甲の変化が止まった。
完成したのは藍い手甲――サイズは先ほどより一回り大きくなり、禍々しさは一切なくなっている。
瞬間、ラビが視界の外に瞬時に移動した。――その動きを目で追う事しか出来なかった。そうして、背後から声が聞こえてくる。
「これが、正真正銘のボクの力《熱腸の右手-EmotionRight-》だよ、ラビ。コレでも――まだボクに殺されないだなんて言える?」
その声に反応して、大きく後退することによって距離を作り、それから先程の問いに答える。
「あぁ、殺されないなんてのは無理そうだな……その動きに追いつける気はしないよ」
その言葉を聞いてなのか、知る由もないけれど――ルアの顔が引きつった気がした。その理由なんて、私には解らない。
だけど、私には続けるべき言葉がある。宣言すべき事がある。それは、本当に自分勝手な理由だけれど――
「だけど――もしお前が私を殺すというのなら、私もお前を殺すよ――一人で死ぬなんて、私は嫌なんだ」
もう、私自身がココに来た目的――ルアを殺した者への復讐――は、私の中で何の意味も持たない。
――ネス達には悪いけれど、私は自分の事を優先したいのだ。
どうせルアに殺されるなら、ルアが私の様に悪夢に憑かれない様に――この手で、ルアを葬ってやりたい。
仮にソレがなせないにしても、相手が自分を殺そうとしてきたと言う事実があれば、私の時ほど、深く憑かれることは無いだろう。
「そっか、それじゃあ――ボクを殺して見せなよ……その前、ボクが殺してあげるから」
言って、ルアは藍色の装甲で覆われた右腕を手前にする様に、構えた。
ソレに対抗する様に、私も右腕の《可変腕》を《待機形態》から《近接形態》へと瞬時に可変させ、構える。
「一撃で――楽にしてやる」
そうして、私とルアは構えたままの姿勢で互いの視線を交差させ、どちらからとも無く、同じタイミングで、地面を蹴って駆け出した。
もう、この後の戦いは存在しない。私にとって、コレが最後の戦いで――それ故に、力をセーブする必要は無い。
制限解除を使う隙は無かったけれど、それでも十分だ。一直線に向かってくる敵と、互いに必殺のつもりで一撃を放つ戦い。
それを相打ちにするのは――どれだけ能力に差があっても、相手が目で追える速度の敵ならば、相打ちにすることは――可能なのだ。
相手が進んでくる方向が解っているのだから、単純に互い速度から、後どれだけで相手の有効射程内に入るか解るのだから。
後は唯、そのタイミングにあわすように、必殺の一撃を放つのみ。
思考速度は今までの限界を超えて――世界が、ゆっくりと流れ始める。勿論、自分自身も早く動く事などできないけれど――それで十分だ。
ルアが装甲を纏った右腕を振り上げてこちらに向かってくる。――そうして、有効射程内に入る直前、私は右の腕を打ち出した。
その拳が、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと、進んで行く。同時に、ルアの拳もこちらに近づいてくる。
そうして、自身の放った拳が、空気以外を捉えた事を認識した瞬間、時間が、通常の流れに戻った。
元に戻ったのと同時に、ルアの拳が私の頭部を殴りつける感覚が走る。
だが、意識が途切れる前に、私は右腕のパイルバンカーの杭を打ち出した。
――瞬間、人間ひとりの肉体を吹き飛ばした感触を、確かに感じ取った。

――to be continued.

<Back>//<Next>

27/41ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!