EternalKnight
伍話-5-<部下〜巨人甲殻〜>
<Interlude-ケビン->――深夜
ティターンとロドウェルとの距離は残り10メートル、先ほどの奴の動きから考えれば、二歩で詰められる距離だ。
『ケビン――知り合いみたいだけど、彼は一体何者?』
通信機の向こうから、セリアの声が聞えてくる。俺はその問いに答える。奴は――
「奴は、ロドウェル=ウェイルット。俺の元部下――だ」
『おや、二人乗りだったんですか、ソレ? それでは一応挨拶しておきましょうか。始めまして――ケビンのお仲間さん』
――通信機を切り忘れていたせいで、ロドウェルにも声が聞えていたようだ。
そのロドウェルがセリアに向けて声を掛け、そして――付け加えた。
『私は《ELP-EternalLifeProject-》の現、不死研究科科長、ロドウェル=ウェイルット。言うならば彼の後釜ですね』
そう、奴は元、不死研究科副科長――つまりは、昔の俺の部下だ。
『それは――ケビンが、ELPの不死研究科の前、科長って事?』
『先程そういいましたが?』
拙い――セリアの理由は知らないが、仮にも俺達《復讐の牙》のメンバーなんだ。
ELPに、政府の組織に居たと知られれば、最悪の状況――セリアの力を借りる事が出来ない事――になりかねない。
だが――もう遅い、言葉は既に放たれた後なのだ、今更、取り返しがつく筈は無い。だけれど――
『そう、それじゃあ――貴方はケビンよりも格下な訳ね』
――セリアが紡いだのは、そんな言葉だった。
「……セリア、お前」
『何よ――私が、貴方が元ELP不死研究科の科長だった事を知ったら、あなたの事を敵視するとでも思ってたの?』
思っていた。そもそも《復讐の牙》はELP、牽いては五聖天を消す為に集まった組織なのだ。だというのに――
『別に――昔は昔、今は今でしょ? それとも何、今も不死研究科の科長で居たいとでも思ってるの?』
――そう、セリアは言ってくれたのだ。だから、俺自身も断言しよう。あんな組織には、敵意こそあれ、未練など、欠片も存在しないと。
「思ってる筈が無いだろう? 俺は《牙》の一員だ。ELPに関わるモノは、十年も前から俺の敵でしかない」
『それだけ解れば十分よ――伊達に四年も貴方と一緒に居る訳じゃないわよ』
俺は、馬鹿だ。くだらない過去が知れた事で、仲間である彼女が、俺を切り捨てるようなマネをする等と、考えてしまった。
だけれど、そんな事を考える必要なんて無い。俺達は――俺達が紡いできた時間は、決して長くは無いけれど――
それでも、俺達の絆は本物なのだと――そう確信できた。
「そうだな――伊達に付き合いが長い訳じゃないよな……」
言って、悩みを全て棄てる、今は唯、目の前の敵を――ロドウェルを倒す事に集中するのみ。
『盛り上がっている所を悪いのですが――そろそろ始めませんかね、アドヴェント?』
丁度いいタイミングで、ロドウェルが口を挟んできた。その誘いを、断る必要などない。
――俺は、奴の敵で、俺も、計画の為に進まなければいけないから。
「いいぜ、始めようじゃねぇか。だが、お前はいいのか? 準備なんざ全く出来てない様に見えるけどよ?」
奴は、機械分野を得意とする俺とは違い、生物学の分野を得意としていた筈だ。と、なれば――使ってくるのは……バイオ兵器。
細菌類を機動兵器相手に使う筈も無い。そんな物の対策は始めからされている。
ならば――十年前の段階では未完成だった、キメラでも引っ張り出してくるか? ソレが、一番予測できる範囲で妥当か――
『あぁ、準備の必要なんて無いですよ――そんなものは一瞬で終わるので』
そうロドウェルが言い終わると同時に、突如としてその体全体から――黒い霧が噴出し始めた。
そうして、噴出した黒い霧は、周囲に拡散すること無く、形を成し始める。その形状は――人型。否、巨人型だった。
ティターンに匹敵する程の全長10メートルはあろう巨人が、形を持って顕現する。――ソレは、黒い巨人だった。
「アレだけの大質量を――一体何処から持ってきたんだ? 否、そもそも――奴の体から噴出したあの霧は一体なんだ?」
『解らないですか? まぁ――解らないでしょうね。コレは、王から授かった、私の力で作ったモノでしてね』
王? ソレは……誰のことだ? 否、その前に――
『名を《巨人甲殻-GiantShell-》と言いましてね……現代の科学では到底再現不能な能力を色々と付与させています』
――ロドウェルの声が、あの巨人から発せられてはいないか?
『では、先ほど準備はもう言いと言っておりましたので――始めましょうか、元、不死科長?』
その声を言い終わると同時に――巨人が《巨人甲殻》が、動き出した。
《巨人甲殻》から距離を取るように、ティターンを動かしつつ、スピーカーをオフにする。外の音を集音するする機能はそのままだ。
とにかく、今やるべきことは、消えたロドウェルの居場所を見つけることと、目の前の《巨人甲殻》を破壊することのみ。
故に――先に簡単な事を終わらせる。そも、ロドウェルの位置については予想もついているのだが――一応、知っておくべきだろう。
「セリア、ロドウェルが何処にいるか解るか?」
その声に、すぐにセリアが応える。――俺に聞かれるまでも無く、調べてくれていたのだろう。
『大方予測出来てるだろうけど、《ムネモシュネ》の検索結果は《巨人甲殻》とやらの内部になってるわ――』
――まぁ、そりゃそうだよな。と、頭の片隅で考えながら、俺は《巨人甲殻》と距離を取るように動かしていた機体の動きを止めた。
「さて、それじゃあ――今度こそ始めようか」
こちらからの音声は外には――ロドウェルには――届かない。
だけれど、自分を鼓舞するようにつぶやいて――俺は、機体を《巨人甲殻》に向けてた。
瞬間――モニターの端に《クレイオス》の文字が表示されたかと思うと、ティターンの背面部から、一斉にミサイルが飛び出した。
勿論、標的は今現在敵対している《巨人甲殻》唯一つ。そこに、二百に及ぶ小型弾丸が一斉に打ち込まれた。
それを、避け様ともせず――或いは避けれなかったのか――《巨人甲殻》はそれら全てを余す所無く受けた。
着弾と同時に小爆発を起こすミサイル達。その一発一発の威力は低くはあるが、それでもあれだけの数を受ければ、唯ではすまない。
流石に、ロドウェルの自信から察すに、この程度で終わるとは思えないが、それでも相当深刻なダメージは与えたと、そう思っていた。
『ケビン=アドヴェント――まさか、この程度で終わりなのですか?』
だがしかし――爆風で上がる煙の向こうから、集音機ごしに機体内部に向けて放たれた声には、そんな物は微塵も感じられなかった。
そうして、煙が晴れる――その向こうには、余裕の声とは裏腹に、傷だらけの所々その形状を損傷させた《巨人甲殻》の姿があった。
そうだ、アレだけの攻撃で、ダメージが無いなんて事がありえるはずが無い。予想以上にダメージは少ないが、確実に効いてはいる。
だがしかし、次の瞬間、信じられない事が起こり始めた。
明らかに、異常としかいえない速度で、《巨人甲殻》の全身のいたる部分の損傷が、跡形も無く消えて行ったのだ。
その回復速度は、ナノマシンのソレを遥かに凌駕している。
『さて、それじゃあ続きを始めようか――アドヴェント。私が貴方より優れている事を、証明する為に』
ロドウェルのその言葉が言い切られると共に、《巨人甲殻》は動き出した。――高速再生、ソレが《巨人甲殻》の持つ能力。
ソレに対抗する手段は――再生が追いつかない速度での、破壊。それ以外には、思いつかなかった。
思いつかない以上、それ以外の手段など講じれない。それでも、アレを使うのは躊躇われる。故に――仕掛けるならば、全弾発射。
「セリア――ありったけの弾丸とエネルギーを、最低限のエネルギーを残してを、奴にぶち込めるか?」
『出来るけど――もしそれで駄目だったら、その後は隙だらけよ?』
セリアの言うことも一理ある。だけれど、それ以外の道はアレを使わない以外では一つしかないのだ。だったら――
「もしもの事なんて気にしねぇよ――なるようになるさ」
こちらに接近してくる《巨人甲殻》から距離を取るように、機体正面部の《テミア》を起動させて、大きく後方に移動した。
『おやおや、貴方ともあろう人が――私を差し置いて天才とまで呼ばれた貴方が、逃げの一手ですか?』
ロドウェルの声が聞こえる。――だけれど、今は奴の言葉を気にかけている場合ではない。
接近していては、射撃用の兵装は使えない。それ故の後退なのだが――どうやら勢いづかせてしまったようだ。
「否、関係ないな――寧ろ、調子に乗ってくれてるならありがたい限りなんだが」
遠距離からの持ちうる武装を全て、惜しみなく使った一斉射撃。ソレを回避される事こそ、本当の最悪だろう。
全砲門の一斉射撃でこそ無いが、持ちうる弾丸全てと、大半のエネルギーを使用する、捨て身の攻撃。
コレに耐えられたのならば――手段はもう、殆ど残らないだろう。無論、耐えるまでも無く、避けられる可能性だってある。
故に、油断しているのなら、ソレに越したことは無い。だから――勝手に言わせておく。
『全照準、目標にセット――いつでもいけるわよ、ケビン』
問題はタイミングだ。回避されないタイミング――無論、全弾当てるつもりで無いのなら、簡単だ。
文字通り、可能な限りの攻撃を仕掛ける以上、その弾数は無論かなりの量であり、当てるだけならば難しくはないのだ。
だが果たして、全弾ではない中途半端な弾数で、倒せなければ、全弾当っていれば――と、小さな後悔では、すまないだろう。
確実に全弾を《巨人甲殻》に叩き込んでおきたい。故に――その隙を、自分で作り上げる。
「セリア、俺がロドウェルと話をして奴に隙を作る――その隙に、お前のタイミングで打ち込んでくれ」
『……わかったわ、それじゃあ、外部からの集音以外の全ての通信を落としておけばいいのね?』
「あぁ――会話の流れで、好きなタイミングで仕掛けてくれ」
セリアとそれだけの会話を交わして、セリアとの通信を切ってから、外部スピーカーのスイッチをオンにする。
コレで、ロドウェルとの会話が可能だ。さて――何の話をするかな。
『そうそう、天才などと呼ばれていた頃の貴方の研究資料ですがね、処分させていただきましたよ』
――どうやら、向こうから話題を振ってくれたようだ。
今まで無視しておいて、急にこちらから声を掛ければ怪しまれたかもしれないので、コレは僥倖だといえる。
「昔の研究資料? そんな物、今更だろ? ELPの頃の資料なんて――あの頃の研究資料なんて俺には必要ない」
『えぇ、そうですね――貴方の夢想していたシステムよりも、もっと簡単な方法が、既に見つかりましたから――』
見つかっただと……不老不死になる方法が、か?
「方法はなんだ――否、何処の研究科がそのシステムを作った」
不死研究科にしても、転生研究科にしても、解離研究科にしても――そんなことは不可能な筈だ。
俺が居た段階で、最も目標に近いとされた俺の考案したシステムを否定するのは別にいい、あんなものが実現可能だったとは思っていない。
だが、たかだか十年で、そんな物が完成する筈が無い。そも――そんな物は端から完成するとは思えない。
『貴方に教える義理はありません――貴方は私にとって既に立場的にも敵でしかありません』
拙い、話が途切れる。何か別の話題を、おかしくは無い話の流れを――
「あぁ、そうかい。――所で、俺の昔の資料を処分しただの言ってたが、ソレは全てか?」
『えぇ、勿論。貴方の語るシステムは全て夢物語に過ぎない。あんなもの、完成する筈が無いないでしょう?』
よし、話が繋がった……しかし、会話するだけで相手が油断するような話なんてあるのか?
『ナノマシンだかなんだか知りませんが、そんな物が完成するとでも? 挙句ソレを不滅の肉体の代用に使用だなんて――馬鹿げている』
「確かに、不滅の肉体の代用になんて使えないさ。そも、アレは解離研究科が精神の解離に成功できればの計画でしかないだろう?」
不滅の肉体を作れても、そこに寄生する精神が無ければ意味がないのだ。
『何を言っている、私が無理だと言ったのはナノマシンの話だ――さっきも言ったと思うが、そんな物が完成するわけが無いだろう?』
「いいや……ナノマシンなら、若干改良して使えるようにしたぞ?」
『何を、馬鹿なことを。そんな技術は誰も知らないし、そんな物は誰にも作れない――』
ロドウェルの声に焦りが表れ始める。
『大体、何処にそんな物があるのですか、実証も出来ないのに、言いがかりは止してもらいた』
「今、お前の目の前にあるのが、それで作られた俺の手製の機動兵器な訳だけど?」
その言葉に、ロドウェルの声に完全に怒気が含まれる。
『何を馬鹿な、私に作れなかったモノが――設計者だからといって、完成させれるはずが無い。そんなことが出来る筈が無い!』
吼える様に、ロドウェルが叫ぶ。ソレは、怒りに身を任せた、あまりに無防備な姿だった。
瞬間、ウインドの片隅に《レア》《オケアノス》《テテュス》《クレイオス》《イアペトス》の五つの名が表示された。
そして、その次の瞬間には、無数の弾丸とレーザーとエーテル光が、ありったけ《巨人甲殻》に撃ちこまれて始めた。
回復の隙など一切与えない、そのつもりでこの手段を選んだので、これで効かなければアレを使うしか、無くなる。
普通の機動兵器であるのならば、原型を留めない程にして、まだお釣りが繰る程の過剰攻撃――そして、未だ砲撃が続いている。
そして、エネルギー残量を限界ギリギリまで消費し、残弾全てを注ぎ込んだ一斉掃射が、砲撃の嵐が、止む。
《巨人甲殻》が存在していたあたりは巻き上がる煙や砂埃で、どうなっているのか判別できない。
そして、風が煙と砂埃を吹き払い《巨人甲殻》の姿が見え始める。
そこには、原型こそ留めているモノの無残に損傷し、地面に崩れたソレがあった。
「勝った――のか?」
『……昔の部下さんはまだ死んでないみたい――人型の熱源を《ムネモシュネ》が捉えてるわ』
だが、それでも《巨人甲殻》がこうして再起不能の様な状態になった時点で、俺達の勝ちだろう。
だと言うのに、ロドウェルの声が聞こえてきた。――それ自体は、おかしくはない。セリアの報告では彼は生きているのだから。
『予想外だったね――全く持って予想外の事だった。まさか《巨人甲殻》がココまでのダメージを受けるなんてね』
おかしい事と言えば――そんな事を言う、奴の台詞だった。
そして、そして――あろう事か、地面に崩れたソレが、無残に損傷していたソレが、再び立ち上がったのだ。
『そんな、一斉掃射でも倒せないなんて――』
セリアの声が聞こえる間も《巨人甲殻》の再生は続く。
通信機越しに、セリアの震えの入った声が、聞こえてくる。だから――俺は、冷静で無くてはならない。
一斉掃射が効かないのであれば、残る手段は事実上――一つだ。
大火力による連続攻撃で倒せないのなら――超火力の一撃で跡形も無く消し飛ばすしか、ない。
「セリア――エーテル機関を最大稼動させてくれ、今すぐにだ」
『わ……解ったわ』
そのセリアの声を聞きながら、俺は思考を始めた。

――to be continued.

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