EternalKnight
伍話-4-<敵〜黒い光〜>
<Interlude-ケイジ->――深夜
動力室なる建物に入って十数分――迷いに迷って、ようやくソレらしい部屋を見つけた。
一応、しらみつぶしに回った部屋の機械類は壊せるだけ壊しては来た。
だが、今までのモノに比べると、今現在目の前にあるそれは、如何にも動力機関、と言った雰囲気を放っている。
「こんなんなら、コレを潰すだけでよさそうだな……わざわざこの建物の内部を全部潰して回る必要は――」
瞬間、背後に気配を感じ、言葉を止めて、バレルトンファーの銃口を気配の方向に突きつけながら振り返った。
そこには――銀髪で褐色の肌を持った、赤い瞳の男が居た。
服装は――警備兵達が着ていたモノとは全く違う――場違いなまでにラフなモノだ。
「誰……だ、お前?」
声のトーンを落として問いかけながらも、銃口を男から離さない。
「俺? 俺はバルバ=バルチックってんだけどさ――そういうアンタは誰なんさ?」
低めた俺の声に全く臆する事無く名を名乗り、今度は俺に問いかけてくる。だが――
「――教えるつもりは無い」
その問いを、トーンを低くしたままの声で一蹴した。のだが――
それを「そうかい、なら別に良いや。覚える気なんてねぇし」と、バルバと名乗る男もまた一蹴した。
バルバの返答から、十数秒――沈黙が狭い室内を支配する。だが、ソレを破ったのもバルバだった。
「んじゃまぁ――ダルイし、さっさと終わらせようぜ?」
などと軽く言いながら、素手の拳を構えた。――武器を持った相手に素手だなんて、正気か?
否、奴のペースに流されるな。あっちから挑んで来たんだ――どうなったって、アイツの自業自得だ。
そも、俺は既に何人も人を殺している――今更、そこに一人増えた所で、一体何があるっていうんだ?
――俺はもう、ガキじゃない。仲間を――《牙》の皆の足を引っ張る訳には行かない。
まだ、俺は与えられた仕事をこなしていないんだから――
「そうだな、さっさと終わらせよう――」
言いながら、俺はトンファーを構えた。
視線を交錯させる、その最中――先に動いた方が負ける、とは誰が言った言葉か、などと頭の片隅で考えながら、相手の動きを待つ。
だが、一向に動く気配が無い。それどころか、交錯した先のバルバの視線は、見るからに気だるげにしている。
ならば、こちらから仕掛けるべきだろう。先に動いた方が云々は、何処かで聞いた話だし、何を元にそんな事を言ったのかも知らない。
そう決心して、足を踏み出したその時――「俺はさ」と、気だるげな視線を俺に向けていたバルバが喋り始めた。
「面倒な事が大嫌いなんだよ……勿論、王の命令――その代行から受けた仕事はするけどよ」
突然喋りだしたバルバの意図が全くつかめずに、踏み込もうとした俺は動きを止め、バルバに問いかける。
「お前が面倒な事がキライなのはわかった――だけど、ソレは俺には関係ない話だ」
「ん? ――あぁ、そうだな……もっと端的に言おうか?」
俺の言葉にすっとぼけた態度でバルバは言う。
「お前さ、もう囲まれてるから――無駄な抵抗は止めとけ、ダルイだけだから」
その言葉をバルバが言い終わった瞬間、背後から突然攻撃を受け、体勢を崩す。
突然、唐突に――だ。気配の類は感じなかったのに、である。
威力から察すに、強化外装甲を破壊できるほどのモノではなかった――が、体勢を崩すには十分すぎる威力だった。
崩れた体を瞬時に立て直し、背後に振り返る。そこには――黒く発光する球体が五つ、浮かんでいた。
「なんだ――これ?」
こんな物、見たことが無い。そもそも――黒く発光するモノなんてあるのだろうか?
その異様さに一瞬、視線を奪われる。――その瞬間、俺の背に強力な一撃が打ち込まれた。
重たい一撃を受ける。――今度は、体勢が揺らぐ程度では澄まず、そのまま向いていた方向――動力室の更に奥に吹き飛ばされた。
そして、当然のように吹き飛ばされた体は地面に落ちた。
地面落ちた時の衝撃は問題ない。――だが、背中に受けた一撃は……拙い。恐らく、強化外装甲が破損している。
つまり、背中にもう一撃受ければ――ダメージはほぼダイレクトで通る、と言う事だ。――ソレは、拙い。
強化外装甲を破損させれるほどの攻撃を、生身で受けて無事で居られるはずが無いのだ。
すぐさま立ち上がり、バルバから距離を取ると同時に、周囲に黒い発光体が無いか確認する。
よし、今のところは――ない。先ほどまで俺が居た位置の周囲にあった黒い発光体も、今はもうなくなっている。
と、言うより見た感じ周囲にソレらしきものは浮かんでいなかった。
……攻撃の発射台を遠隔操作する能力。そして、ソレと恐らく同質の、威力が増した力を操る能力。
間違いなく言えることは弾丸ではない、と言う事だ。と、なれば電気的なエネルギーか、エーテル……だよな、確か。
否、ケビンが言っていなかったか? エーテル技術は自分にしか使えない、とかなんとか。
だけど、そんな事が解った所で俺には何の意味も無い。そう、今必要な小難しい理屈より、勝つ為の手段だ。
両腕に収まるバレルトンファーを強く握り、再び構えを取る。――と、同時に周囲にも気を配る。
だが、俺とはかなり距離が離れているのに、バルバは一向に動こうとしない。
――俺が今居るのは動力室の中、バルバが居るのは外だ。向こうが動かないのなら――俺は俺の目的を早く果たすべきだ。
そう決めて、視線はバルバから外さずに、周囲に気を配りながら、右腕のバレルトンファーの銃口を動力機関らしき物の一つに向ける。
そして、すぐさまトリガーを引いた。銃口から真直ぐに伸びたエーテルの光は、そのまま動力機関に突き刺さる。
光が機関を貫いた次の瞬間、大きな爆発が起こった。爆風が、動力室全体に吹き荒れる。
ソレは別に、動力室が狭いわけではなく、爆風が強烈なだけなのだが――だがその事が、予想していなかった出来事を引き起こす。
部屋の唯一の出入り口に居たバルバが、逃げ場を探す爆風に吹き飛ばされたのだ。
ソレは、部屋に一つしかない、出入り口の前に立っていたのだから――当然の事だ。
だが、予測していなかったとはいえ、ソレがチャンスである事に違いは無い――ならば、このチャンスを使って、俺は何をすべきなのか?
否、考えるまでも無い事だ……与えられた――役目を果たすべきなのだ。俺は――仲間の足を引っ張りたくないから。
このままバルバに突っ込んで、それで勝てるのかはわからない。実際にやってみれば、それで勝てるかも知れない。
だけど、勝てなければ――俺は役目を果たさずに恐らく、やられてしまう。それだけは、足を引っ張るマネだけは、絶対にごめんだ。
だから――俺は、右腕のバレルトンファーを、次の動力機関に向けて、すぐさま引金を引いた。
爆発、爆発、爆発、爆発――四つの動力機関をエーテル砲で順に打ち抜き、ソレに伴って爆発が発生していた。
しかし、銃身への負荷から連射性の高くないモノで連射を行なったが故に、しばらくバレルトンファーはマトモに使用できそうに無い。
ナノマシンにより修復はするが、コレでは、バルバと戦いの支障が出る。だけれど、俺は――目的は果たした。
小さな満足感を抱きながら、俺は爆風の吹き荒れる部屋の外に視線を向けた。そこには、当然の様に体勢を立て直したバルバの姿があった。
その姿を見据えながら、考える。バルバの目的は動力機関の破壊を防ぐ事の筈、ならばコレで――相手の気力を削げた筈だ。
「動力機関はコレで破壊した――お前が俺を倒しても、もう遅い」
だが、しかし、帰ってきた反応は全く予想と異なるものだった。
「……それで?」
ソレは、本当に――そんな事はどうでも良いとでも言わんばかりに、気だるげな声だった。
「それでって――お前の目的は動力機関を守ることじゃないのかよ!」
その声に、その態度カッとなって、声を張り上げる。だが、しかし――
「いんや、俺の受けた命令はさ――お前を殺すことだけだぜ?」
――などと、やはり何処か気だるげな、そんな声が帰ってきた。
「俺を殺すことだけが……命令だと?」
「だからそう言ってるじゃねぇか」
やはり、バルバは気だるげに応える。否、そもそも動力機関が、電力がなくなっても問題が無いだって? そんな馬鹿な事が――
否、電気だけなら非常用の電力でカバーできるが、それではレーザー兵器の使用も、トラップ類を稼動させる事も出来ないはず。
それで――いいと言うのか?
「なんかさ、二回目で悪いんだけど――もう囲んでるから、無駄な抵抗は止めとけ」
「!?」
言われて、ようやく周囲の気配を探る――そうする事で、本当に僅かながら、俺の周囲を囲む五つの気配を感じ取った。
その場から離れるより早く、周囲の黒い発光体から何かが打ち出された。勿論、回避出来る訳も無く、俺は背後からその攻撃を受けた。
挙句、動き出そうとしていた俺は、その攻撃にバランスを崩されて、その場に前のめりの倒れこむ。
だが、動き出そうとしたことで、強化外装甲の破損している地点への攻撃は免れたらしい。
おかげで、ダメージは強化外装甲が遮った事によって、皆無だった。
そして、その体を起き上がらせようとすぐさま顔を上げれば、黒い光を放つバルバの腕が、視界に入った。
彼は先ほどの位置から、全く移動していない。ただ悠然とその位置に立ち、黒く発光するその腕をこちらに向けていた。
そうして、その腕から黒い光が――放たれる。背筋に悪寒が走り、体がソレを避けようと反射的に動いた。
瞬間、自分でも、自分の取った回避方法が頭の中で整理できなかったが、どうやら、先程の一撃は致命傷にはならなかったようだ。
勿論、致命傷にならなかっただけで、その光は俺の左腕に命中していた。
その腕も強化外装甲に覆われた為、後遺症になりそうなダメージは無い。
だが強化外装甲は破壊され、衝撃に痺れた腕ではバレルトンファーを握り続ける事が叶わず、愛用の得物の片割れが地面投げ出されている。
それでも、体が動いた。敵に次の手を与えない為に。これ以上、危険な状態に陥らない様に――
先ほどの反射的な回避で仰向けに倒れていた体を一気に起こし、バルバから距離を取るように大きく数歩下がる。
左手のバレルトンファーを拾うことすらせず、ただ、バルバから大きく距離を取っていた。
「……しぶといな、お前も――力の差は歴然なんだから、さっさと生きるのを諦めてくんない?」
確かに力の差は歴然だろう。こちらは背中に本来なら即死級のダメージを受け、片腕も完全に吹き飛ばされるような一撃を受けている。
挙句、二つのうち一つとは言え、得物を落としている状況まで追い込まれている。
だと言うのに、何らかの力を使ってこそいるモノの、バルバは爆風で倒れ、それを立て直す時以外には、一歩も動いていないのだ。
差は歴然だ、どうあっても、勝てるような手が思いつかない。寧ろ、自分が殺されない手段を探す事すら難解だ。
だけど、だけれど、俺も……こんな俺でも《牙》の一員なのだ。ソレは、俺の誇りでもある。
《牙》に入ったのは、みんなの仇を取る事だったけれど――復讐であったけれど……今はただ、《牙》の仲間の為に。
一年しか一緒にはいなかったけれど、それでも――スラムのみんなよりも、深く繋がりあえていたと、そう思える、仲間達だから。
その仲間達に任された、事だから……最後まで――
「例え、勝てない事がわかっていても、諦めてたまるかよ」
徹底的に抵抗して、少しでもバルバの力を削いで、仲間に《牙》の皆が、少しでも楽に戦えるように。
だから、まだ戦いを止める訳には、行かない。
「お前――本当にめんどくせぇよ。勝てないって解ってんなら諦めろよ」
気だるげなバルバの表情に怒りの色が見え始める。
「そんなんだと――めんどくせぇのにじわじわと嬲って殺したくなっちまうだろうがよぉ!」
瞬間、気配を察知する。ソレは――黒く発光する何かと、全く同じ気配だった。
ソレを察知した瞬間、俺はバルバの元に向かって駆け出した。
だが――しかし、向かう先のバルバの両手は、黒く発光して――そこから二対の黒い光が放たれ、それらは俺に突き刺さった。
同時に、黒い光とぶつかった衝撃で、大きく後方に吹き飛ばされた。
そのまま、ボロ雑巾の様に地面に転がる。右腕のバレルトンファーは、手放さない。コレを落とせば、本当にどうしようもなくなるから。
胸部と腹部の強化外装甲は、完全に破壊され、既に機能していないと言ってよかった。
だけれど――それがどうした。まだ、諦めるには少し早い。と、再び立ち上がろうとした俺は、既に黒い発光体に囲まれていた。
そうして、ソレは俺を的に、それも強化外装甲の破損している部分に攻撃を仕掛けてきた。
回避の術は――無い。光は、無慈悲に放たれる。衝撃が――俺を貫く。
痛い――ソレはとんでもなく痛い。破損した強化外装甲は黒い発光体の攻撃に完全に破壊させられる。
激痛が走る。特に、胸部、腹部、背面部、左腕部は、容赦の無いほどの攻撃を受けた。
「――――ッ!」
声にならない叫びが喉からこみ上げ、自然と漏れる。だが、ソレが声では無い以上、意味など無い。
駄目だ、諦めたくは無いけれど、この実力差は、俺ではどうあっても無理だ、それ以前に、俺は――もう立ち上がれない。
そして、俺の意識は遠退き始めた。

――to be continued.

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