EternalKnight
伍話-Extra-<母〜悪夢と誓い〜>
<DREAM-1->
研究室に篭っていて中々会えなかった父さんが、研究を完成させ――僕と母さんに会う――と言ったらしい。
そんな事を聞かされて、僕は母さんと待ち合わせ場所である、広いホールに入った。
なんでも今日は、完成したばかりのモノを僕達に見せてくれるらしい。
僕としては、そんな事はどうでも良かったのだけれど――ただ、久しぶりに会える――それだけで良かった。
母さんも父さんと同じ研究者なのだけれど、仕事の中での役職が違うらしい。
その為、実の所を言うと、母さんも久しぶりに会うらしい。最近仕事忙しかったらしく、研究室に篭ったきり出てこなかったそうだ。
それが、研究が完全に完成したらしく、やっと研究室から出てきたのだ。
「ねぇ、母さん? まだ来ないの?」
広いホールで待ち始めて幾分かして、僕はそんな事を聞いた。
まだ待ち始めてそう時間は経っていないと思う――それでも、久しぶりに会えるからなのか、随分な時間待っている気がした。
「もう少し待っていなさい、ネロ。直に来るから」
自分の中でもまだ然程時間が経っていない事を意識していたからか、僕は質問をやめて、ただ待つ事にした。
先ほどの僕達の会話の終わりから数分たっただろうか? ホールの自動ドアが開き、父さんが入ってきた。
その姿を確認するやいなや、母さんは父さんの下に駆け寄っていった。
「やったわね、ゼオ! あなたなら完成させられると信じてたのよ」
そう言いながら、駆け寄った勢いをそのままに抱きつこうとした。瞬間――ホール内に、何かが突き刺さるような、嫌な音が響いた。
――小さな、ほんの小さな音だった。だけど、僕には確かにそれが聞こえた。
そして、その音の発信源に気がついた。だから、見てしまった。だけど何が起こったかは理解できなかった。――否、したくなかった。
それは、何で理解したくないんだ?――簡単だ、突き出していたからに決まっている。
それは、それは何処から突き出している?――僕から見て、母さんの背中からそれは生えている様にも見えた。
それは、一体何なんだ?――それが何であるか解りたくない。けれどそれは……赤い液体に彩られた……漆黒の何かだった。

<DREAM-2->
漆黒の何かが、母さんの背中から引き抜かれて視界から消える。
視界に収まるのは、ただ風穴の開けられた、母さんの体だけで、其処に開いた孔から赤い何かが流れ出てくる。
それは一体なんなんだろう? よくわからないけど、それがとても怖かった。
そして、母さんは地面に倒れ、赤い液体がホールの床に広がった。
「……母さん?」
怖かった。ただ、怖かった。
「ねぇ、父さん。母さんはどうして倒れちゃったの?」
それが何か認識できていたのだけれど、理解したくなかった。だから助けを、父さんに助けを求めた。
だけど……その父さんの腕は……赤い何かが滴り、漆黒に染まっていた。
――なんで? それが何故なのか認識できても、理解したくなかった。
理解すれば、認めてしまう事になるから、父さんが母さんを殺したという事を。
そして、目の前の父さんは僕にやさしく、今までに見たことない程の笑顔で言った。
「さぁネロ……お前もすぐに母さんと同じにしてやるからな?」
そこでやっと目の前の現実を僕は理解した。否、理解する事を決意した。
だってそうしなければ、僕が殺されてしまう。父さんに殺される。母さんと同じ様に、あの黒い腕で体を貫かれて――

<DREAM-3->
父さんがゆっくりと、でも確実に僕の方へ歩み寄ってくる。――恐い。
「嫌……嫌だ……こっちに来ないでよ……父さん!」
ただ殺されたくなくて、必死に叫びながら父さんが一歩近づく度に僕は一歩後ずさる。
「大丈夫、痛いのは少しだけだ……直ぐに、お前も私やアウラのようになる、そうなる様にしてやる」
そう言って、父さんの歩み寄るスピードが先程までより少し早くなる。同時に、僕が後ずさるのも早くなる。
「来ないで……来ないでよ、父さん!」
赤い何かが滴り落ちる、黒い腕を持つ目の前の父さんから逃げるように、だけど決して背中を見せないように、後ずさって行く。
背中を見せたら、僕も母さんと同じになってしまいそうな気がしたから――
だがしかし、後ずさるその踵が壁にあたった。それが意味するのは、背後に壁がある、という事。
つまり、もう一歩たりとも背後に下がる事は出来ない。
――怖い。でも、これ以上後ろには下がれない。
――嫌だ。でも、もう逃げることは出来ない。
――死にたくない。でも、あの黒い腕に貫かれたら死ぬしかない。
――逃げなきゃ。でも、どうやって?
「さぁネロ。お前もこの力で私達と同じ存在に――」
目の前には、あの黒い腕を振り上げて、今にも僕に振り下ろそうとしている父さんの姿があった。
あぁ、僕はここで死んじゃうんだ。もう、どうにもならない。絶望だけが、ただ目の前にある。
瞬間、ドアの開く音がした。

<DREAM-4->
「ッ誰だ! 今すぐドアを締めろ!」
開いたドアに反応する様に、父さんは背後のドアに振り向く様に叫んだ。
逃げだすのなら……今しかない――だけど、何処に? 僕は何処に逃げれば良いんだろう?
「その子から離れろ、総括長。貴様、自分の妻に何をしたか、自分の子に何をしようとしているか分かっているのか!」
――ケビンさん? 声だけで、入ってきた人物がわかった。
ドアを開けて入ってきたのは、いつも一人でいる僕とよく遊んでくれた、ケビンさんだった。
「そんな事は貴様如き言われるまでも無く分かっている! 良いからそこを閉めろ! コレは命令だぞ、不死科長!」
「うるせぇ! 俺は俺の信じる道を行くんだ。こんな所、今すぐにでも辞めてやる!」
ケビンさんが叫ぶ、その手には……銃が握られており、銃口は父さんに向けられていた。
「何でも良い! 早くそこを閉めろ!」
「もう……てめぇの命令を聞く必要なんざ無いんだよ!」
「貴様……父親を見捨てるのか?」
そうだ、たしかケビンさんのお父さんの病気の治療費の為にここで働いてるって――
「しらばっくれんな! 親父を研究材料に使いやがったんだろ? 知ってんだよ、それくらい!」
――そんな。父さんが……ケビンさんのお父さんを? そんな馬鹿な事が――
「……貴様は有能だったので殺したくは無かったが……この際だ、仕方ない……か。それに……貴様のせいで私の計画は失敗だ」
瞬間、父さんが視界から消え、次の瞬間には十数メートルは離れたケビンさんの目の前居た。
そして母さんを貫いたその黒い腕を、ケビンさんのお腹に突き刺していた。
「そんな……なんでそんなことするの、父さん」
解らない。分からない。わからない。――どうして、父さんはあんな事をするんだろう?
怖くて涙が出る。父さんが僕から離れた今が逃げるチャンスなのに――恐くてピクリとも体が動けない。
逃げるなら、父さんが少しでも僕から離れている今しかないのに、動けない。
瞬間――背後からドアの開く音が聞こえた。そして、何かが、金属で出来た軽い何かが転がる音――
瞬間、ホール全体が、強烈な閃光に包まれた。

<DREAM-5->
視界が強烈な閃光で焼けて何も見えなくなり、何かの噴出す音が聞こえ始めた。嫌だ、何も見えない。――このままじゃ殺される。
恐怖に駆られ、何も見えないけれど走って逃げた――が、何かにぶつかり尻餅をつく。
「ひっ!」
見つかった――殺される。このままだと僕は殺されてしまう。嫌だ……そんなのは嫌だ。
恐怖に怯える僕の頬に冷たい金属の様な手が触れる――あれ? そんな物、父さんは身につけていたっけ?
そう、ぶつかった相手は父さんじゃなかった。でも、それじゃあ誰?
未だ何かの噴出する雑音の中、聞き取れるように、誰かは耳元で囁いてくれた。
「驚かせてすまない、俺と一緒に逃げるぞ? いいな?」
――その声は尻餅をついたままだった僕を立たせてくれた。そして、その声には、どこか聞き覚えがあった。
「わかりました――でも、あなたは誰?」
でも、その人が其処に居て良い筈がない。だって、その声は――
「なんだ、俺の声を忘れちまったのか? それともさっきので俺が死んだとでも思ったか?」
黒い腕に、父さんに貫かれた筈なんだから――
「いいから来るんだ、早く逃げないと殺される」
そう言って、僕を立ち上がらせた誰かは、僕を背負ってそのホールを後にした。

<DREAM-6->
追われている、追われている。バケモノに黒い怪物に追われている。
一体、ここは何処なんだろう。どうしてこんな事になってるんだろう。
そして……僕を背負った誰かは走っている。でもきっと、コレは僕が思っている人とは別の人。
否、恐らく人間じゃない。だってそうでも無いと、あんな速度で追ってくるバケモノより早く走れる訳がない。
そうだ、そう言うなら、さっきのは違うはずだ。父さんじゃない筈だ。
だって、人間にあんな事は出来ない筈だモノ――
――あんな事?
人間の体を腕で刺し貫いたり、一瞬でとても遠くまで飛んで。
そんな事、人間に出来るはずがない。
そうだ、きっとこれは夢だ。
だってそうじゃないと、今僕を背負ってる人がケビンさんであるわけが無いのだから――
そう、僕を背負って走っていたのは……さっき父さんに貫かれた筈のケビンさんだった――

<DREAM-7->
僕を背負ったケビンさんは見慣れてた白い壁に包まれた空間を……僕の家を出た。
それでも、家から出てもケビンさんは止まろうとしなかった。もう、黒いバケモノも追いかけてこないのに――
僕の家が見えなくなってそれでもしばらく走り続け……ようやくケビンさんは立ち止まり僕を下ろしてくれた。
そうして、僕の肩を掴み、真直ぐと僕を見つめながら口を開いた。
「怪我……してないか?」
そのケビンさんの言葉にしっかりと首肯く、大丈夫、僕は何処も怪我なんてしてない。大丈夫、だってコレは夢なんだから――
「そうか、良かった……」
心底安心したように、ケビンさんは言った。そんなに心配しなくても、コレは夢だから怪我なんてする筈ない。
「――痛むもなにも、コレは夢でしょ?」
だから、僕はその事をケビンさんに教えてあげた。でもケビンさんは、そんな僕を残念そうに見つめながら、呟いた。
「夢じゃない……全部現実だ」
――そんな筈はない。だって、現実離れしたモノがあまりにも多過ぎるじゃないか。どうしてそれが現実な訳があるんだ。
「信じたくない気持ちは分かる……けど、全て現実だ」
何を言ってるの? コレが現実な訳ないじゃないか、父さんは母さんを殺したりしないし、あんな事も出来ない。
あの黒いバケモノ達だって、この世に存在する訳が無い。だから――
「その台詞も含めて全部夢だ、夢に決まってる!」
――認めたくない、認める訳にはいかない。
父さんが母さんを殺した事も、俺も殺そうとした事。一瞬で移動したようにすら見えた移動。
殺されたはずなのに今もそこに居るケビンさん。
逃げる僕達を追ってくるバケモノの群れ。
そのバケモノより僕を背負いながらも早く動き、逃げきったケビンさん。
どれも、現実ではありえない。だから、コレは夢だ、夢だ、夢なんだ! 夢に……決まって――

<DREAM-8->
「まぁ……しばらく夢だと思っていればいい。だけど……終わらない悪夢を見続けることになる」
「じゃあ、何でケビンさんは生きてるの? 何で母さんは殺されたったの? どうして父さんは……僕も殺そうとしたの?」
「俺には俺の事しか答えられない。総括長が何を思ってあんな事をしたのか――俺には分からない」
真直ぐに、ケビンさんが僕の瞳を見つめながら、そう言った。
「じゃあ、ケビンさんはなんで生きてるの?」
「簡単な理由だ、あれは俺が作った自動人形だったってだけさ、つまり、そこで総括長に腹をぶち抜かれたのは俺じゃないって事」
あっさりと、答えを返される。
「じゃあ、ケビンさんは何であんなに凄い動きが出来たの?」
「それも簡単、俺の足元のコレ、あるだろ?」
そう言いいながら自分の足元を指差すケビンさんは、確かに両足に機械の様なモノを身につけていた。
「それが、どうしたって言うの?」
「コレをつければ、誰だって超人的な力を引き出せるって訳さ、もっとも、今の所これ以外に現物は存在しないけど」
でも、父さんはそんなモノつけていなかったと思う。
そもそも、一つしかないならなんでケビンさんが着けてるのに父さんはあんな動きが出来たんだろうか?
でも、あんな動きが出来たと言うことはきっとそう言うことなんだろう。
「ネロ、お前は……コレからどうしたい?」
今までに増して真剣な表情で、ケビンさんが言う。俺にはその瞬間、言葉の意味が理解できず「――ぇ?」と呆けてしまった。
「お前はどう生きたいのか、って聞いてるんだ」
――どう生きるか?
「何を……言ってるの?」
――嫌だ、解りたくない。
だけど、無常にも――
「分からないのか? お前にはもう、帰る場所が無いんだ」
――現実が、突きつけられる。
知っていた。父さんが母さんを殺した。其処から逃げた僕には、帰る場所なんか無い。
じゃあ、どうすればいい? 僕は何をすればいいの?
「何も無いなら――」
突然、ケビンさんが呟く。僕はただ、ソレを聞いている事しか出来ない。
「何も無いのなら……俺と一緒に……戦わないか? 復讐するんだよ……総括長にゼオ=エクステルに!」
その言葉に、衝撃を受ける。復讐? 父さんに? なんで?――決まってる。ケビンさんのお父さんは、父さんに殺されたんだから。
「じゃあ――僕は何のために戦うの? 誰に復讐すればいいの?」
その問いに、何の迷いもなくケビンさんが答える。
「それは、お前が決めればいい。アウラさんを殺したゼオにでも良い、こんな研究の企画を立てた政府にでも良い――お前が決めろ」
僕は……僕は、父さんも母さんも好きだった。だけど――母さんを殺した父さんの事を許せそうに無い。だから――
僕は、母さんを殺した父さんを――この手で、殺す。

――to be continued.

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