EternalKnight
伍話-3-<再会〜それぞれの思い〜>
<Interlude-ロドウェル->――深夜
目の前の四つのモニターが侵入者達の姿を映し出している。
「とりあえず、侵入者は三名と一機――枠は四つな訳だけど、誰がどれの相手をするんだい?――あぁ、私はどれでも良いんだがね」
その台詞を私の背後にいる三人の同類達に投げかける――もっとも、一人は端から聴いているとは思っていないが。
本音を言うと、あの機動兵器が非常に気になるが、まとめ役を王から仰せつかっている以上、勝手な行動を取るべきでは無いだろう。
言葉を投げかけてから一瞬の間が開き――広くはあるが、私達四人以外は居ない部屋が静寂に包まれる。
だがその静寂も、室内に響く声によって直ぐに消え去った。
「……ねぇ、ロドウェル――アレ、ボクが探してたエモノなんだ――だからボクが貰うよ?」
言葉を発したのは、先ほどから三人の中で唯一人、モニターを、それも唯一つを凝視していたサナザーフィスの声だった。
アレ、というのは、言うまでも無く先ほどから凝視しているモニターに移る者の事を指しているのだろう。
そして、サナザーフィスの視線の先は機動兵器ではなかった。故に、私に異論は無い。
マーブルに関しては、そんな質問は無意味だ。――アレは与えられた命令に従う人形でしかない。
つまり、後はバルチックが『良い』と言えば、サナザーフィスの相手はそれで良いだろう。
「どうだい、バルチック――サナザーフィスは赤髪と戦うらしいが――異論はないかい?」
その私の問いに、バルチックは無言で肯いた。
まぁ、バルチックの奴は恐らくあのトンファーの相手をすると言い出すだろうな……見た感じ、彼があの中では一番劣っているようだし。
「それじゃ、ボクはもう行くよ」
それだけ言って、サナザーフィスは部屋の出口へと歩んで行く。
「あぁ、隙を突かれて殺られないようにな――」
そう言った私の言葉に返事を返さずに、サナザーフィスは部屋から出て行った。
その後――再び、今は三人しかいない部屋は静寂に包まれた。それを、今度はバルチックが破る。
「そんじゃさ、俺は一番楽そうな――アイツをぶっ殺しに行くさ」
言いつつ、バルチックはモニターを指差す。その先には、トンファーを持つ少年の姿が映っていた。
やはり――そうしたか。ならば、私も希望通りの相手と戦える。否、戦いたいのではなく、研究者としての単純な知識的欲求――か。
あれほどの性能を持つ機動兵器は初めて見る。単純に、現代科学の最高峰を凌駕した性能だと言っていい。
アレ程のモノは、不死研究科の現・科長である私にも、作れるかどうか定かではない。
そんな物を作れそうな人間など、私の知る範囲で一人しか――否、まさか……ヤツなのか?
「――なぁ、何を笑ってるんだ、ロドウェル?」
不思議で仕方なさそうに、バルチックが私の顔を覗き込んでいる。
「待って、バルチック――今、私が笑っていると言ったか?」
「あぁ、アンタは今、口の端を吊り上げて笑ってるようにしか見えないぜ」
そうか、私は笑っているのか、ヤツとの再会に――
「なんでもないさ――ソレより、お前は行かなくていいのか、バルチック?」
意識をして、漏れているらしい笑いを殺し、バルチックに問いかける。
「出来る事ならめんどくせぇ事は避けたいんだが――王の指令を断る訳にはいかねぇだろ」
言って、バルチックもサナザーフィス同様、ドアに向かって歩いて行き、振り返らずに片手を上げて、無言で部屋から出て行った。
さて、コレで部屋に残るのは私とマーブルのみ――か。それでは、ココはマーブルに任せて、久しぶりに奴との再会を楽しもう。
「それではマーブル――今からお前の指令を伝える」
それを聞いて、マーブルは……失敗作は、小さく肯いた。
「お前の役目は、奴を――殺す事だ」
言って、モニターに映る青髪の二挺拳銃の男を指差した――所で気がついた――あの男、王の器に似ては居ないか?
――否、もしもあの機動兵器に乗るのがアイツであるのならば、ソレはあってもおかしくは無い。
「なるほど――なるほどな。そうか……随分とまた、因果なものだな……ドレもコレも――」
私が奴と再会するように。サナザーフィスがどんなつながりかは知らないが、赤髪と再会するように。マーブルと彼が再会するように。
四戦中、三戦が因縁の対決。出来すぎている――が、ソレが現実に起こっている。
「さて――それじゃあ、私も再会のパーティーに遅れないように、急がなければな」
言って、司令室から通路に出る。そして、ココに上ってきている彼に出会わないように、非常通路を使って建物の外に出た。

<SCENE054>――深夜
司令室に向かう俺を邪魔する様に、幾人もの警備兵達が俺の行く道を阻む。
この建物に入って十分はたっただろうが、その間に、幾人もの警備兵を打ち抜いた。それらは全て、急所を外して打ってある。
しばらくは戦闘不能だが、一月もすれば十分動ける様になる、その程度の傷を与えただけで、警備兵達を戦闘不能に追い込んでいるのだ。
大変な作業ではあるが、それによって死人が出ないのなら、それで十全だ。
だが、例え死人が出たところで、俺は立ち止まる気など全く無い。――そんな事で、立ち止まれる筈が無い。
そして、そんな作業の様な戦いを幾度か乗り越えて、俺はようやく司令室らしき部屋の前にたどり着いたのだった。
「さて、んじゃま、この部屋をぶっ壊そうかね」
特に意味も無く、一人で呟いて、エリニュエスを握りしめて、右足で司令室入り口のドアを蹴破り、その中へと踏み込んだ。
踏み込んだ瞬間、思考が停止した。正しくは、部屋の中を確認している段階で、停止したのだ。
つまりは単に――その先に居たモノが信じられなかっただけだ。驚きで視点が、たったの一点に固定されてしまっている。
その先に、褐色の肌に銀色の髪の女性が一人。――その瞳に宿すのは……虚ろで血の様な、赤色。
ソレは、黒いバケモノと――そして、リーファブ社で遭遇した黒い少年と、同じ色だった。
その色が何を示しているのかは、全く知らない。だけれど――瞳に映ったその姿はまぎれもなく真実だった。
そう俺が踏み込んだ司令室の中には、俺の知る人物が広い室内に唯一人で佇んでいたのだ。
俺の瞳に映るその女性は、十年前からその髪や肌の色と瞳の色と虚ろさだけしか変わっていない――俺の……僕の母さんだった。
他人の空似、などと言うレベルではない、完全に――瞳の虚ろさと髪や肌の色以外は全く、完璧なまでに同じ。
その身に纏うモノさえ――昔と同じ、白衣。その下に来ているモノも、よく着ていた服に、酷似している。
「母さん?」
なんで、どうして、母さんがここに居るんだ? だって、母さんはあの時――殺されてしまった筈だろう?
俺はこの目で見たんだ、間違いなんか無い、あの時確かに母さんは――父さんに殺された筈なんだ。
だけれど、生きていると言うのであれば、それに越した事は無い。
「母……さん」
何でアレ、母さんが生きているに越した事は無い。もしそうだと言うのなら、全て、俺の早とちりか、見間違いなのかもしれない。
だけれど、それでもいいと思う。全てが元通りにはなら無いだろうけど、それでも、それでいいと思えた。
だがしかし、俺の希望は――一瞬願った想いは、無残にも砕け散った。突然、俺に襲い掛かってきた母さんの行動によって――
明らかに、殺意を込められた拳が、目の前で止まっている。別に母さんが止めた訳ではない。単純に、リーチが足りなかっただけだ。
腕は、完全に振りぬかれている。咄嗟に数歩後ず去った事と、体をそらした事で、ギリギリ回避できた状態だ。
その状態から、大きく地面を蹴って母さんと距離を取る。
その俺を、虚ろな瞳で見つめる母さんは、敵意無く、殺意を纏った拳を引き戻し、何の構えも無い、先ほどと同じ状態になった。
「母さん? 一体どうしたんだよ、母さん――俺が、僕が、解らないの? ねぇ、母さん!」
それでも、母さんはその声に反応する事も無く、唯その場に呆然と佇み。こちらを見つめるだけだった。

<Interlude-ラビ->――深夜
《収束形態-BarrelFormConverge-》にした《可変腕》で、骸が幾重も入った兵舎を完膚なきまでに破壊して、その砲撃を止めた。
残るのは完全に崩れ落ちた兵舎の残骸と、その中に混ざり合っている警備兵達の骸のみだった。
コレで、兵舎の中に隠れていた奴等も含めて、ざっと400は警備兵を屠っただろか?
特にこれと言って強い相手も現れず、単純に、作業なような動きを続けた結果がコレだ。完璧なまでの目標達成だと言える。
ならば、もうみんなと別れた場所に戻ろう。ひょっとしたらもう私以外全員戻ってきているかもしれないしな。
そう自分に言い聞かせ、もと来た道を引き返そうと、兵舎の残骸から視線を外して振り返った所に、彼女は居た。
見間違いだと思ったつい一月前と、同じ髪の色と、瞳の色と、肌の色で――彼女が居た。
もう二度と会えないと思っていた――否、既に死んだのだと思っていた彼女が、こんな場所に居る。
理由はわからない、だが理由なんてどうでもいい。
髪の色も、瞳の色も肌の色も違うが、この距離でなら断言できる、彼女は――ルアだ。私の愛した唯一、絶対の一人だ。
着ているモノも――彼女が好んでよく着ていた、空色のフリルブラウスと黒いベロアジャケットの組み合わせ――
「……ルア」
呆然と立ち尽くし、その姿を見つめながらも、何とか言葉を紡ぎだす。ただ彼女の名前を呼ぶ。
「随分と久しぶりだね、ラビ」
そして、五年前に聞けなくなったと思っていた、あの声で――ルアは再び私の名を呼んでくれた。
それで、それだけで、心が落ち着いて、彼女は本当に私の目の前に居るんだと思えて、私は――ようやく体の緊張を解いた。
「あぁ、久しぶりだな――ルア。今まで、何処で何をしてたんだ?」
本当に――一体何処で何をして五年もの間、音信不通だったのだろう?
何より、どうやって研究所から逃げ出して――否、待て……だとすれば、まだ研究所に居るのは、何でだ?
「何処で何をしてたかって? ラビも、面白い事を聞くね――ボクはね、キミに棄てられてから、王の選別を受けたんだ」
私が、ルアを棄てた? そんな訳ない。私は今でもルアを愛して――
「ソレは、本当に地獄みたいだった。ボクは何度も今の器の中で泣いっけ――でも、それも繰り返す内に慣れちゃってね?」
ルアがそんな思いをしてたのに、俺は……助けにいけなかったのか?――既に殺されていると、諦めていたのか?
「ソレを乗り越えて――今はようやくAクラスだ。でもね、そうやってボクをこの階域まで上げたくれた王に、今は感謝してるのさ」
そんな、そんな事を考えるような奴だったか、ルアは?
「ルア――そんなのは、お前らしくない」
否、違う。ルアの考え方は変わってしまった――私のせいで。私が助けなかったばかりに――
「ラビがどう思おうと、ボクの知った所じゃない」
そこで、一旦言葉を切って、ルアが挑むようにこちらを見据えながら、ゆっくりと言った。
「不老の肉体と強大な力を持ち、王に従うAクラスの魔獣、それが今のボク、ルア=サナザーフィスの全てだよ」

<Interlude-ケビン->――深夜
残った三機の機動兵器が、ティターンと距離を取りながらそれぞれがレーザーを放つ。
だが、残りが三機になった段階で、今まで僅かながら残っていたあちら側が勝つ可能性は限りなく零となった。
ほんの僅かに残っている可能性は格闘戦だが、見た目は残っている機体は完全に射撃に特化した機体だ。
《ヒュぺリオン》の持つ特性――熱量の攻撃を無力化するその機構は、総合で一定の熱エネルギー量にまでしか耐えられない。
そして、あちらの機動兵器のレーザーの生じさせる熱量は、許容量の約三割、といった所だったのだ。
故に、四箇所以上同時に敵機動兵器が使用するレーザーと同出力を持つレーザーを浴びれば、その機構は限界を超える。
詰まる所、機構そのものが限界を向かえ、一定時間の間《ヒュぺリオン》の機構が完全に消える事になるのだ。
勿論、エネルギーを大量に食うレーザーを連射する事は出来ない。
――故に、彼等がやるべきだったのは、全員でレーザーを打つことだったのだが、結局ソレが達成される事はなかった。
最も、相手はその条件を知らないが故、仕方ないといえばそうなのだが、
因みに《テイア-対物理衝撃機構-》は、実弾兵器で突破不能だ。こちらは総合的な容量などという概念ではない。
一点において、無力化できる物理衝撃のギリギリの威力を、他の箇所に同じタイミングで受けようと《テイア》の機構は揺るがないのだ。
などと考えながら、機体の動きを止めていた。――単純に、エーテル、レーザー系の武装を使う為のエネルギーチャージである。
《ヒュぺリオン》を常時稼動させているままでも、エネルギーは徐々に回復して行く。
だが、エネルギーがなければ、基本的には殆ど攻撃が出来ない。実弾は先ほどの《イアペトス-全方位バルカン砲-》で弾切れになったのだ。
もっとも、ソレも時間がたてばナノマシンが修復し補充するわけであるが――と、そこで十分な量のエネルギーが溜まる。
「それじゃあ、残りもぶっ潰すかね――セリア、管制は適当でいいぜ、後は俺がやる」
――実際、十二機居た機動兵器の内、八機にの機動兵器はセリアの管制のおかげで撃破しているのだ。
俺が潰したのは最初の一機のみ――ならば、残りの三機ぐらい俺が倒してもバチは当らないだろう。
『解ったわ――ただし拙いと思ったら支援はするからね』
「了解」
言って、俺はフットペダルと強く押して機体を前進させる、飛び交う弾丸やレーザーなど全く気にしない、どうせ効きはしないのだ。
そうして、ティターンが近づくと、当然のように敵機が距離を離して行く。だが、逃がしたりはしない。
ソレを追う様に背面部の《テミス》を稼動させる。瞬間、一気に機体が加速し、敵機三機との距離を詰める。
――そして《コイオス》と《ポイベ》を同時に起動し、加速したティターンで、敵機を追い抜き様に殴りつけた。
当然、殴られた機体はそれぞれの末路を辿る。
右側――《コイオス》で殴られた機体はその場で動きを止める――が、勢いがついた機体は、その場で無様に倒れた。
左側――《ポイベ》で殴られた機体は、拳がインパクトした瞬間にバラバラに分解され、加速のついた破片がそこら中に散らばった。
そして、完膚なきまで破壊された左側の機体の後を追う様に、転倒した機体の間接が一斉に放電し、爆発を起こした。
コレで残りは一機だ――破壊された二機をみて、最後の一機は動きを止めた。
そうして――そのコックピットが開放されて中からパイロットが両手を挙げながら顔をだした。
「――投降……か」
『どうするの、ケビン?』
セリアの声が聞こえてくる――まぁ、俺達は機動兵器を破壊できればいいんだから、別に殺す必要はないだろう。
そう素早く決断して、外部のスピーカーをONにして、同時に集音装置もONして、その旨を伝える為に会話しようとした――その時。
背後から金色の光が伸びてきて、投降しようとしていたパイロットを貫いた。
『「!?」』
刹那、機体を翻して、光の進んできた元をメインモニターに捉えた。
銀髪に褐色の肌、そして赤い瞳。その色こそ十年前と違うが、間違うはずがない。ソレは、その姿は――
「ロドウェル……だと」
しかも、奴は全く歳を取っていない様に見える。全身黒で統一された服装を含めて、変わったのは本当に髪などの色のみにしか見えない。
『えぇ、私ですよ――そして、その声は……間違いなく、ケビン=アドヴェント、貴方ですね?』
「っ――久ぶりだな、何のようだ?」
聞くまでも無い、コイツは――間違いなく俺の敵だ。正しくは、俺がコイツの敵――なのだが。
『聞くまでも無いでしょう、私の目的は――貴方を消す事だ。ソレは、お互いの立場が変わった今も、変わらない』
言って、ロドウェルは大きく三歩、こちらに近づいてきた。
その間に詰めた距離は、二十メートル程度――強化外装甲をつけた、ネスたちと同じレベルだった。

――to be continued.

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