EternalKnight
伍話-2-<進撃>
<Interlude-ラビ->――深夜
舗装された地面を疾駆する。――ココに来るまでの道中で既に数人の警備兵を始末している。
こちらが見つけられたモノもあれば、こちらが見つけたモノもある。
どちらにしても、私の攻撃目標は兵舎であり、其処に居る警備兵を殲滅する事――つまりは、頭数を減らす事が目的なのだ。
仕掛けるのと、仕掛けられるのとでは、大きな違いがある。
戦う相手の装備の状態等の、身体或いは武装要因もあるが、特に大きいのは覚悟や恐怖と言った精神的要因だ。
通常人間は覚悟を決める事に時間がかかるし、『絶対に助からない』と、恐怖を認識した人間は生きるための最善の手を打てるようになる。
故に、こちらが圧倒的な力を見せ付ければ見せ付けるほど、相手は恐怖し、戦いを挑む事に覚悟を決めてこちらに仕掛けてくるのだ。
いくら固体として圧倒的な戦力を誇っているとは言え、覚悟し、恐怖を認識した相手の数が多いとなると、厳しい戦いになるだろう。
だからこそ、覚悟を決められ恐怖する前の状態で――尚且つ、こちらから仕掛ける事によって、最大数を大幅に減らすのだ。
また一人、私の姿を確認して警備兵の一人が銃を構えた。
――だが、たった一人如きでは、いくら覚悟を決め、恐怖を認識した所で、圧倒的戦力の前では無力に過ぎないのだ。
私達が懸念しているのはあくまでも、それらを持った《群体》なのだから。
まして、ソレを認識できているかどうかさえ定かではない警備兵一人に――私が負ける理由など、存在しない。
「一対一で、私に勝てると思うなよ――」
呟いて、私は右腕の《可変腕》を《待機形態》から《銃身・連射形態-BarrelFormMachineGun-》へと可変させた。
そして、たった一人で立ち向かってきて警備兵の全身にエーテル弾を浴びせ、骸を作り上げた。
――圧倒的な力を持ってたった一人で兵舎に向かって進軍する。
徐々に進む内に相手が固体から群体に変わり始めるが、数が増えれば増える程、油断するようでは、群体は愚図の集まりにしかならない。
恐怖を抱く前に、覚悟を決められる前に――一人でも多く数を減らす、ソレが私の役目だった。
そうして進み続け、軽々と兵舎内に侵入する事に成功した。そして、進む内に何時しか広いフロアで数百人に囲まれていた。
だが、やはり圧倒的な数の差に彼等はそれぞれ油断していた――そんな愚図がいくら集まった所で、俺が負ける筈がない。
そうして、今もここに佇んでいる。無数の警備兵の骸が、地面に転がっている。――否、骸が丘を作り上げていた。
ココは兵舎の二階に存在する、恐らく食堂であった場所――だが、今このフロアを見た人間は誰一人として、そうだとはわからないだろう。
無数の骸は、足の踏み場も無い程に溜まっていた――否、実際このフロアの床を踏む事は出来ない。
現に、私が立っているのも、数分程前まで動いていた骸の上なのだから。既に倒した数の累計は三百を軽く超えて居るだろう。
――流石にこの状況では、恐怖も抱いているだろうし、装備をそろえるまで私に仕掛けたりはしないだろう。
だが――如何せん、既に数が減りすぎている。いくら残っているか知らないが、もうここに居る警備兵達では私に対抗できない筈だ。
それでも――滅ぼし尽くす。私の目的が殲滅である以上、ここに居る警備兵は根絶やしにしなければならない。
「隠れた奴等はどうやって探すかな……いや、兵舎を壊せば隠れていた連中も姿を現すか――」
適当な理論で自身を納得させ、私は骸に満たされたフロアを後にした。

<Interlude-ケビン->――深夜
メインカメラが捕らえた映像がコックピット内のモニターに映し出され、その映像が流れて行く。
先程から、警備兵を《ムネモシュネ》が幾らか捉えてはいるが、誰一人敵対行動を取っていないので、無視して機体を進ませていた。
そうして、俺達の破壊目標である格納庫に向けて、ティターンは進む。
勿論、格納庫には機動兵器が何機か存在するだろう――否、ここの防衛力を考えれば十機は存在してもおかしくは無い。
そも、俺達が格納庫に向かうのは機動兵器の殲滅の為だ。
流石に、この間の作戦で新型の開発施設を潰したので、新型は無いだろうが、特化改造を施された専用機の集団は十分に脅威と言える。
そも、専用機は一点特化が多く、普通は弱点が存在する――が、様々なタイプの特化機が上手く互いをカバーしあえば、その弱点も消える。
その相手をするのは厳しいだろう。だがしかし、現存の機動兵器は対人間戦に特化した仕様になっている。
理由は単純に、機動兵器はほぼ全て国家が所有しており、機動兵器同士が戦う事はまず無いから――だ。
その集団の相手をするのは、ネスやラビでさえ危険と言えるだろう。
だが――この機体は違う、元から複数の機動兵器と戦う事を想定して作った、俺の自慢の機体だ。
しかし、ティターンでは恐らくネスに勝てないだろう……この機体は人間との戦闘に向けて作ったわけではないのだから――
まぁ、それでも普通の人間に負けるような機体では、勿論ないのだが。
ティターンなら、複数の機動兵器とでも戦える――だが、この機体に勝てるネスではその機動兵器群には恐らく勝てない。
詰まる所、相性の問題――と、言う事だ。さて、くだらない事を考えている内に格納庫が見えてきた。
――オマケに既に何機か機動兵器が出ている、しかも、格納庫を守ろうとしていないように見える。
早い話が、今出ているので機動兵器は全てと見て良いということだ。――数は……十二機か、少し多いな。
その姿を視認するや否や、常時回線を開きっぱなしのセリアに声を掛ける。
「セリア、機体状況の報告を頼む」
『エーテル機関の稼働率は70%で安定、全特殊機構異常なし、残弾、残エネルギー量、共に最大、殆ど完璧な状態よ』
――よし、その状態なら十二機が相手でも何とかなる。
「了解――それじゃあセリア、行くぜ?」
『こっちもいつでもいいわ――最後にもう一度確認だけど、アレ以外の射撃兵装は全部こっちでやっていいのね?』
勿論だ、と――言うか、そうしてもらわないと困る。実際、俺は火気管制の作業は殆ど覚えていない。
「あぁ、俺は《コイオス-右掌部エネルギー機構-》と《ポイベ-左掌部衝撃機構-》と《テミス-補助推進機構-》が使えれば十分だ」
もっとも、格闘用の《コイオス》《ポイベ》と補助ブースターの《テミス》以外には常時発動のモノを除けば射撃用の兵装しかないのだが。
『それじゃあ――そろそろ始めましょ?』
そのセリアの声を聞き終わる頃には、メインモニターにこちらに向かい接近してくる三機の姿が映っていた。
「了解――奴さんもどうやらその気らしいしな!」
言って、俺はフットペダルを踏み込んだ。同時にティターンはメインスラスターを噴かせて前方へと加速する。
メインモニターに映る敵影――今まさにティターンに近づいて来ている敵機を援護するように、後方に居る二機がレーザー砲が放たれる。
勿論、光であるそれは、認識した瞬間には既に中っている武装であり、その上強力だ。
弱点があるならば、それは消費エネルギーが多い事と、それ故に普通なら連射が効かない事である。
そんな物を回避できる筈が無く、放たれたソレは機体を捉えた。だが、相手がソレを使わないと想定する程、俺の頭の中は平和じゃない。
当然のように、対策を打ってあるのだ。故に、ティターンにはその程度の攻撃は通じない。
機体に当たった二つのレーザーは《ヒュぺリオン-対熱防御機構-》の前に悉く無効となり、その熱量とエネルギーは霧散した。
等と考えている間に、接近してきていた三機がティターンに詰め寄ってくる。
そこに、フットペダルを踏み続ける事によってあえて接近して行く。
そして、迫る三機が武装を取り出した瞬間――機体左側面に設置された《テミス》を最大稼動させる。
瞬間、直線に進んでいたティターンは右方向へと急加速するも、直ぐ《テミス》が切られた事により、加速を止める。
通常、ついた加速はソレに抵抗する力が無いと急激に止まる事は無い。
故に、右側面の《テミス》を稼動させて勢いを殺し、右足を軸に左足をスライドさせ、接近してくる内の一機の右真横に回りこんだ。
ためらう事無く《コイオス》を稼動させ、その右腕で真横を取った機体の脇腹部に拳を放った。
ティターンの拳が嫌な音を立てて命中した敵機の脇腹部にめり込んで行く。
すぐさま打ち出した拳を引き戻し、残る敵機の追撃から逃れるように《テミス》を稼動させる。
その時、メインモニターの脇に何かの文字が記された気がした――が、管制を行なうのはセリアである以上、今俺が気にする事ではない。
機体前面部の《テミス》の稼動により、敵機から距離を取るように後退した。
瞬間――ようやく《コイオス》の一撃を受けた機体の稼動部が一斉に放電しつつ、火を噴出し、その場に崩れ落ちた。
その機体に全く反応せずに、残った二機の機体が近づいてくる――が、その瞬間、二機の機体の足元が爆発を起こした。
突然の爆発に一瞬驚いたが、直ぐに状況を理解して、そのまま二機の居る地点から距離を取って、機体の動きを止める。
「悪いなセリア――助かった」
『当然の事をしたまでだけど? 火気管制は私の仕事なんでしょ?』
「そうだったな――それじゃ、引き続き頼むぜ?」
そう、先程の爆発――その正体はティターンの脚部に内蔵された武装《レア-散布型地雷-》によって発生したモノだった。
先のメインモニターの隅に表示された文字はソレの使用サインだ。
そうして、接近に集中しきっていた二機の敵機は、散布され、自機の足元の地雷に気づかずソレを踏んだ。――ただそれだけだ。
待たしても、メインモニターの片隅に文字が表示される。
表示されたのは《オケアノス-右肩部エネルギー機関砲-》と《テテュス-左肩部エーテル機関砲-》の名。
瞬間、二つの砲門から放たれる光弾の雨によって、脚部を破壊された機動兵器はただ光弾の的となって、ほんの数秒で鉄屑に成り下がった。
「コレで三機――残りは九機……か。それじゃあ、残りはさっさと片付けようか」
格闘特化機があの三機しか居ないのなら、恐らくこの勝負は決した。
なぜなら、ティターンには実弾もレーザーも殆ど効きはしないのだから――

<SCENE053>――深夜
整備された地面を蹴って走る。――行く手を阻むように現れる警備兵の数が目的地に近づくに連れて増えているのがわかる。
その迫りくる警備兵達を一人残らずのして、俺は司令室がある建物の前にたどり着いた。
ここ、司令室を破壊する理由は一つ――単純に、指令系統を乱す為だ。コレをなせば、この後の戦いがぐっと楽になる。
単純に警備兵の数と、機動兵器の数、そして主電力系の停止と、指揮系統の頭を崩せば、ソレは殆ど勝利の確定と同じだ。
もっとも『ソレは普通なら』の話でしかないのだが――少なくともこの研究所の通常の戦力は殆ど停止するだろう。
そして、その先には恐らく、あの黒いバケモノ達との戦いがある。
その最中に警備兵等に邪魔をされるのはごめん被りたい、故に――今は四箇所に分かれてそれぞれ通常戦力の殲滅に当っているのだ。
「さて、それじゃあ、気合を入れてぶっ潰すかな」
言って、見上げた建物は五階の高さを持っていた。たったの五階。
実質俺がこなした最後の仕事の襲撃先であるリーファブ社本社ビルに比べると、かなり見劣りする大きさではある――だが。
見かけが攻略の難易度に比例する訳など、何処にも存在しないのだ。だが、なんであろうと、この司令室は俺がこの手で落とす。
ここの最上階に司令室は存在しているのは解っている――のだが、それにしても警備兵が多い。
立ち止まり、思考している間に、十人の警備兵に囲まれていた。
コレだけ湧いてこられると、出来る限り殺さない――とは言っても、この調子だといずれ死人が出るだろう。
「まぁ、今の状況は考え事をしてた俺が悪いか――」
言って、俺は自身の手に収まるエリニュエスを構える。――だが、たかだか十人やそこらの数で止まる俺ではない。
否、そんな数では、足止めとすら言いがたい。――だが、その程度の数であるのなら、俺も殺さずに片すことが出来る。
そして、次の瞬間には、周囲にいた警備兵達に構えた銃身の銃口を向けて、引金を引いていた。
数秒の間に幾重ものエリニュスの咆哮が響き渡り、止む。響いて消えた音の数は調度四十発分――の筈だ。
トリガーを引いたのは俺なのだから、打ち出された弾丸の数に間違いがある筈が無い。
そして――その四十発の弾丸は周囲を囲んでいた警備兵の四肢を一つずつ確実に打ち抜いていた。
両足を打たれた警備兵は全員その場に崩れ落ち、その場で呻くように声を上げていた。
「痛むだろうが、死にはしない――そこで黙ってろ」
そう、両足を打たれ地面に沈んでいる警備兵達に言葉を残して、俺は目の前の建物に踏み入れた。

――to be continued.

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