EternalKnight
伍話-1-<ティターン>
<SCENE051>――夜
トレーラーの荷台に布をかけ終わる。布はその荷物がなんであるか、外からは判別できないようにするためのモノだ。
「こんなもんか……」
荷台と布を繋ぐロープの最後の一本を結びながら、俺は小さく言葉を漏らした。
遂に、この日が来た。自身に課した誓いを果たす日が――俺はこの手で、今まで十年間の間に磨き上げてきた己の技で、ヤツを――殺す。
大丈夫、俺は独りじゃない。根源的な目的こそ違うけど、大きな意味で、目的を同じくする仲間が居る。
単一国家エデン――その実質的支配者集団である五聖天が計画した一つのプロジェクトの消滅。ソレが、俺達《牙》の最終的な目的だ。
俺に限って言えば――否、ケビンも一緒か――その目的は一つ。その計画の研究者の筆頭を殺す事。唯一つ。
他の牙メンバーの動機は詳しくは知らないが、結果的その計画を破壊する事で目標は達成される形になる。
――さぁ、うだうだと考え込むのは終わりにしよう、最後の戦いが……始まる。
「よし……それじゃあ行くか――」
しっかりとロープを結び、もう一度呟いて、俺はトレーラーの助手席に向かい、扉を開いた。
そうして、助手席に座った時には、既に運転席にラビが座っていた。
――と、言うより俺とケイジが荷物に布をかけだしていた段階で、既にラビは運転席に乗り込んでいたのだから当然といえば当然なのだが。
「お前が乗ってきたって事は、もう出発してもいいんだな、ネス?」
助手席に座った俺に確認するようにラビが声を掛けてくる。そのラビの問いに「あぁ、出してくれ」と、短く応えた。
その俺の言葉を聞いて、ラビはトレーラーのエンジンをかけ、荷物を積んだトレーラーは走り出した。
巨大なトレーラーに揺られること数時間――その間一言も俺達は会話を交わさない。
そうして、ようやくトレーラーは巨大な研究施設にたどり着いた。
正面から以外には進入できぬように鉄壁の外壁に護られた研究所。そこが……俺達《牙》が、破壊する研究の総本部。
鉄壁の外壁を越える手段は無い。故に、侵入する手段は一つしかない。当然――正面突破だ。
入り口には当然のように検問所が存在する――が、正面突破するつもりで居る以上、そんな所で止まる筈が無い。
検問所を前に、トレーラーは当然の様に急加速して、そのまま検問所に突っ込んだ。
当然、大質量のトレーラーが加速してぶつかった事により、外壁より遥かに薄い検問所の壁を粉砕して、トレーラーは走り抜けた。
瞬間、当然のように研究所全体に、警告音のようにアラームが鳴り響く。――が、暴走するトレーラーを止めれる存在は現れない。
研究所の大まかな地図はセリアの調べでわかっているのだ、このまま予定の場所までトレーラーで突っ切れる所まで進むのだろう。
「ココまでは私達の計画通りだな――そろそろ目的の場所に達する、ケビン達に連絡を頼む」
運転席のラビは、トレーラーを突っ走らせながら、俺に声を掛けてきた。その言葉に「今、連絡する」と、短く返した。
そして、通信機――イヤホンと一体化したマイク――の通信ボタンを押して、用件を声に出す。
「三人とも、そろそろ出れる様に準備しろ――ソレからケビンにセリア、出たら警備兵に囲まれてるだろうから、手早く一掃してくれ」
『了解――止まる直前にもう一度連絡頼む』
言葉を投げかけた通信機の向こうからケビンの声が聞こえてきた。その間も、トレーラーは研究所の施設内を走り続ける。
ケビンの言葉に通信を切ろうとした俺に、運転席のラビが視線を飛ばしてくる。それに気づき「ちょっと待った」と、声をかける。
その声に『まだ何か用件があるのか?』と、通信機の向こうからケビンの声が返ってくる。
そのケビンに「もう到着だとさ」と、声をかけた瞬間、トレーラーは音を立てて減速し始めた。
そして、トレーラーは停止する。窓の外を眺めると、周囲には既に50人近い警備兵に取り囲まれていた。
――いくら給料を貰ってるか知らないが、しっかりと仕事しすぎだろ……
もう少し手を抜いてくれてるとこっちとしてもありがたいんだが――まぁ、そんな事を言ったところでどうなる訳でも無いか。
ソレに、いくら警備兵が沸いて出たところで、俺達の敵じゃない。
雇われて働いている警備兵達を殺るのはよくは無いことだが、ココに至ってまだ出来る限り殺さないだのなんだの言うつもりは毛頭無い。
勿論その理念は今も持ってこそいるが、一人一人相手をする時間が無い今は、仕方ない。
そうして俺は「それじゃあケビン、よろしく頼むぜ」と、通信機越しにケビンに声を掛けた。

<Interlude-ケビン->――深夜
『ちょっと待った』
と、通信を切ろうとした俺を止めるかのように、ネスの静止の声が聞こえた。
「まだ何か用件があるのか?」
静止をかけた意図を聞く為に、通信機の向こうに居るネスに声をかけると『もう到着だとさ』と、短い返答があった。
瞬間――俺は、甲高い音と共に、急激な衝撃に見舞われた。ソレが何の衝撃であるかは、ネスに問いかけるまでも無い。
故に、俺は非常灯に薄く照らされたコックピットの電源を入れた。
それによって、内蔵されたエーテル機関が稼動を始める。勿論ソレは認識できる訳でなく、この機体の製作者だからこそ解る事なのだが。
出力を高めたエーテル機関の稼動によって、機体にエネルギーが流れ始め、コックピットの全てのシステムが稼動を始める。
『それじゃあケビン、よろしく頼むぜ』
と、ネスの声が通信機越しに短く聞こえ、それで通信は切れた。ソレと同時に、機体の全システムが稼動し、いつでも動ける状態になる。
そして、ネスの通信と入れ替わる様に、管制用コックピットに乗るセリアからの通信が入ってくる。
『ケビン、《ムネモシュネ-熱源感知機構-》が敵の熱反応を捉えたわ、かなりの人数に囲まれてるみたいよ?』
その声に「数は?」と確認するように問いかけると、すぐさま『80……90、まだ増えるみたいね』と、答えが返ってきた。
まだ増え続けてるなら、一気に殲滅する方がいいだろう。ならば――やってやるさ。
「《クレイオス-誘導性弾丸散布機構-》を使う、照準は任せた――仕留めるのは出来る限りの数でいい」
そう、セリアに指示をだして、俺も機体を動かす為に操縦桿を握る。
メインモニターに写るのは黒一色――まぁそれは、単に布で覆われているからなのだが。
「さて《ティターン-巨人-》コレが、お前の最初で最後の戦場だ……思う存分、その力を見せ付けろ!」
俺は、俺自身が腕によりをかけて作り上げた、俺の為の《力》に語りかける様に言葉を紡いで、操縦桿を動かした。

<SCENE052>――深夜
トレーラーの周囲に、何処から沸いて出てくるのか疑問になるほどの警備兵が集まってくる。
運転席はフレーム、ガラス共には対衝撃処理がある為、トレーラーを取り囲む警備兵達の攻撃が俺達に届く事はない。
ケビンとの通信を切って一分――運転席から見える範囲だけでも既に60近い警備兵が居る。
ここから見えない部分にいるだろうと予測できる人数を考えると、総数は120以上――数的には殲滅できなく無いが、かなりの労力になる。
そういった雑魚敵の殲滅の為のティターンなのだが――と、思考していた時、トレーラーに衝撃が走った。
瞬間、トレーラーの周囲を取り囲んでいた警備兵全員の視線が一点に固定される。
トレーラーに走った衝撃と、警備兵達の視線で、理解した。ティターンが動き出したのだ。
そう理解した次の瞬間、トレーラーの周囲を囲む警備兵達は見える範囲では全員、ほぼ同時に弾丸に貫かれ、爆散した。
後に残ったのは、腕や足が千切れ飛んで悶える警備兵と、胴体や頭部が吹き飛び即死している警備兵達の山だった。
見える範囲には少なくとも無事な人間は誰一人としていない――これなら安心してこの運転席から降りれるだろう。
そう判断して、トレーラーのドアを開けて俺はトレーラの助手席から降りて外に出た。
其処は、ティターンから放たれたミサイルが蹂躙した警備兵達の体から流れ出した血の臭いで徐々に満たされ始めていた。
死んだ人間はどうにもならないし、重症の奴等は手当てした所で助かる見込みは無い者もいる。
彼等が死ぬのは間違いなく俺達のせいだし、その行為がおおよそ間違いなく悪であることも解っている。
だが――ソレがどうした。もとより復讐こそが俺の目的、その行為に悪がつきまとうのは当然の事。
「悪いな――あんたらの屍、超えて行くぜ」
呟いて、俺はそびえる様に佇む10メートルの黒い鋼の巨人――ティターン――に視線を移した。
その俺の背後にラビが立ち、ティターンの足元にはケイジの姿があった。
ココからは個人戦だ。増援がほぼ無限に現れる以上、行動は迅速な方がいい。破壊するのは四箇所――司令室、動力室、兵舎、格納庫だ。
正面から研究室最深部に突っ込んでもいいが、最深部の情報はセリアの技能を持ってしても入手できなかった。
故に、障害になりそうなモノはすべて排除してから最深部に向かう計画となっている。
俺が担当するのは司令室、ラビが兵舎、ケイジが動力室で、ケビンとセリアが駆るティターンが格納庫の破壊を担当することになっている。
そうして、俺は通信機を入れて、ティターン乗る二人と、俺の両隣に居る二人に声を掛けた。
「解ってるな、お前等」
そう、俺が言うや否や――
「当然だ」「解ってますって」『言われるまでもねぇ』『勿論よ』
――多種多様の返事が帰ってきた。
そして、次の瞬間には俺達は四方に散って、それぞれの担当する場所へと移動を開始した。

<Interlude-ケイジ->――深夜
大地を蹴って走る。ココに来るまでに何度か警備兵に見つかったが、全員動けなくしておいた。
とりあえず、目的地に向かって走りながら、思考をめぐらせる。
さて、俺の破壊目標は動力室――と呼ばれる、いうなればこの研究所の電力の大半を生み出す場所だ。
機動兵器の動力として使用される半無限……なんたらの大型のモノがココには複数機あるらしい。
まぁ、早い話がその複数機ある半無限なんたらを全て破壊すればいい、と言うことだ。
――が、実際の所、結局動力室と呼ばれる場所を全壊させるのが一番――らしい。
と、言うかよくよく考えれば俺はその半無限なんたらがどんなモノなのか見たことが無い。
そういう意味で全壊させるのが一番、なのだろうか?――まぁ、実際わからないのだし、全壊以外に選べるモノは無いのだが。
――そこで思考を中断する。考えていた事が纏まったから、では無い。単純に、無駄な思考をしている場合ではなくなったからだ。
前に向けた視線の先に存在し、俺の瞳に映るのは目標だと思しき建物と、その場所を護るかの様に道を遮る50人近い警備兵の姿だった。
「ちょっとばかり多いけど――まぁ何とかなるだろ」
言って、俺は両手に収まるバレルトンファーを強く握り、爆ぜる様に大地を蹴って、警備兵の集団の中に飛び込んだ。
こうして、一対五十と言う、俺にとってはかなり過酷なマラソンマッチが幕を開けた。
ある者は殴り飛ばし、ある者は地面に叩き伏せ、ある者は銃弾で四肢を打ち抜き、ある者はエーテル砲で打ち貫いた。
そして、長いマラソンマッチを戦い抜いて――
「コレで……ラストォ!」
喉の奥底から咆哮を上げて、目前に居る最後の一人の警備兵の腹を、右のバレルトンファーの短身部で殴りつけた。
肋骨を数本折った手応えが腕に伝わり、次の瞬間には最後の一人だった警備兵の体は中を舞う様に数メートル飛び、地面に落ちた。
拳――に、握られたトンファー――を振り抜いた状態で止まった体制を崩して肩で息をする。
「ハァ……ハァ……流石にこの人数は……キッツイなぁ……畜生……」
言いながら、俺は周囲の地面に倒れて呻いている警備兵達を見た。
中にはもう息絶えている者も居るだろう――思いっきり頭をぶん殴った奴もいたし……エーテル砲で打ち貫いた奴もいたし。
だが、なんであろうと、結果的にこの状況を切り抜ける事が出来た――コレで、恐らく第一の関門はクリアできただろう。
「と、言うか……この装甲が警備の奴等と一緒だったら、今頃俺、死んでるんだろうなぁ……」
などと考えて、頭の隅でケビンさんにお礼を言っておいた。
「ふぅ……大分息も整ったし……行くか」
思考をめぐらせている間に息を整えた俺は、目前の施設を見上げる。……警備兵達も守ってたし、多分ココが動力室で間違いないのだろう。
「さて、それじゃあ――中にある機材から順番に、原形を留めないほどにぶっ壊すかな」
一人呟いて、俺は施設の中に脚を踏み入れた。

――to be continued.

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