EternalKnight
肆話-3-<誓い>
<DREAM-2->
漆黒の何かが、〇〇〇〇の背中から引き抜かれて視界から消える。
視界に収まるのは、ただ風穴の開けられた、〇〇〇〇の体だけで、其処に開いた孔から赤い何かが流れ出てくる。
それは一体なんなんだろう? よくわからないけど、それがとても怖かった。
そして、〇〇〇〇は地面に崩れ落ち、倒れた体を中心に、赤い液体がホールの床に広がった。
「……〇〇〇〇?」
怖かった。ただ、怖かった。
「ねぇ、●●●●。〇〇〇〇はどうして倒れちゃったの?」
それが何か認識できていたのだけれど、理解したくなかった。だから助けを、●●●●に助けを求めた。
だけど……その●●●●の腕は……赤い何かが滴り、漆黒に染まっていた。
――なんで? それが何故なのか認識できても、理解したくなかった。
理解すれば、認めてしまう事になるから、●●●●が〇〇〇〇を殺したという事を。
そして、目の前の●●●●は僕にやさしく、今までに見たことない程の笑顔で言った。
「さぁネ▲……お前もすぐに〇〇〇〇と同じにしてやるからな?」
そこでやっと目の前の現実を僕は理解した。否、理解する事を決意した。
だってそうしなければ、僕が殺されてしまう。●●●●に殺される。〇〇〇〇と同じ様に、あの黒い腕で体を貫かれて――
悪夢の破片が、ゆっくりと停滞し始めて――そうして、停止した。どうやら、今回の悪夢はここまでらしい。
悪夢の映像は徐々にフェードアウトして、黒に染まっていった。

<SCENE047>――朝
意識が覚醒する。見えたのはいつも通りの天井だった――いつもと違っているとソレはそれで困るのだが。
今日もいつも通り悪夢を見た、今更なので、ソレについて考え無い事にする。
さて、今日も昨日、一昨日と同じく予定は無い。一昨日は部屋の片付けもしてしまったし、誰かに用事があるわけでもない。
更に言うなら今日はケイジもラビも居るには居るが、アイツ等は、今日の晩には仕事があるので、模擬戦に勤しむことも出来ない。
ラビの方は普通に依頼。ケイジの方は、俺に来た楽そうな仕事を回した、という訳だ。
暇になるのはわかってたんだし、仕事なんてやらなけりゃ良かった……なんて、今更思っても仕方が無いのだが。
因みに報酬は結構な額の仕事で、もしケイジが仕損じれば、警戒態勢の上がってる中へ俺が出向く、と言った仕事内容になっている。
「ソレは勘弁願いたいよなぁ……」
別に雑兵が何人いようが、ソレを圧する事はたやすい。だが、それだけ殺してしまう数も増えてしまう。
ヒュプノスは基本的に一度の戦いで一度の使用しか出来ないものだと考えてもいいし。
どれだけ強力でも、所詮は催眠ガスでしかない以上、ガスマスクをつけた相手には一切通用しないし。
まぁ、ケイジも大分成長してたし、滅多な事じゃなきゃ大丈夫だとは思うけどな……
そこで、思考を止めてソファーに寝転んでいた上半身を起こした。
今日は別段やる事も無いが、だからと言ってココでだらだら一日過ごすつもりもない。
「まぁ、なんであれ今日最初にやるべき事が決まった――まずは朝飯だ」
否、ちょっと待てよ、俺――何か、大切な事を忘れてないか?
嫌な予感を感じつつ、部屋の隅にある冷蔵庫の元に歩み寄り、その扉に手をかけて、中を覗き込んだ。
――嫌な予感、的中。って言うか、昨日の晩からなんだから《予感》ではなく予め知ってた《事実》な訳だが。
言うまでもなく、冷蔵庫の中には食べれそうなモノが何も無かった。
まぁ、昨日の晩飯は冷蔵庫の中にある残り僅かな食料を綺麗に使いきった料理だったし。
昨日の内に買いに行ってりゃ良かった……と、今更思っても仕方ないか。どうせ無理だっただろうし。
晩飯の後に依頼者が来て、その仕事が楽そうだったからケイジ回そうと思って、依頼者にその事を話して――
――って、そんな事を思い出すのもめんどうだ。とにかく、何か朝飯を買おう。別に食材を買って来なくても、弁当でも買えばいいし。
「そうと決まれば、早速出かけるとしますか――」
言って、俺は座っていたソファーから立ち上がった。

<SCENE048>――朝
とりあえず、朝飯を外で適当に食って、買い物――買い溜めをしたわけだが、今回は自分の食料以外にも気の利いたモノを買ってきた。
自分で気の利いたとか言ってたらソレは気の利いた事にはならない気がするが、まぁそのあたりはいいだろう。
ラビ曰く一昨日から忙しいらしいケビンと、昨日からそのケビンに頼まれた仕事で忙しいセリアの元へと差し入れを買ってきたのだ。
因みにモノはそれぞれ別に用意してあり、ケビンにはプリン、セリアには串カツを買ってきている。
どちらも、付き合いが長いので、ソレが好物だと知ってはいるが、正直逆なんじゃないだろうか、モノが。
三十半ばのオッサンの好物がプリンって――どうなんだよ、実際。
後、二十歳過ぎたばかりの女の好物が串カツってのも、プリン好きなオッサンに比べれば普通だが、ソレもどうなんだよ、と思うわけで。
「いや、何が好きでも構わないんだけどな、実際」
自室の冷蔵庫の中に、買い込んで来た食材を詰め込み終えて、俺は呟いた。
勿論、俺しか部屋には居ない訳だから答えが返ってくる事は無い。つまりは寂しい独り言――と、言う奴だ。
「――さて、それじゃあ、差し入れに行きますか」
言って、俺はプリンと串カツが入った袋を持って、部屋を出た。無論、向かう先はケビンの部屋――地下の研究室だ。

<SCENE049>――朝
地下研究室の扉を開くとそこは、いつもの光景をかなり変わっていた。
普段は、よく解らない機械がゴミの山の様に無造作に置かれ居る筈の地下の研究室が、綺麗に片付いていたのだ。
挙句、綺麗に片付いたその研究室の中央には、よくわからない大型の機械が置かれていた。
「……なんだこりゃ?」
しかも、何故かココに居る筈のケビンとセリアの姿が見え無い。
確かに、普段のこの地下研究室ではケビンは兎も角セリアが見つからないはずは無い――のだが、そのセリアの姿も無い。
と、言うか綺麗に片付けられている研究室には死角など殆ど無いから、どちらが見つからないのもおかしい。
ケビンにしたって、普段なら兎も角コレだけ片付いているのに見つからないなんてのは妙だ。
「ホントに何処に居るんだ、あの二人?」
と、呟いた瞬間、研究室の中央にあった、よくわからない大型の機械が煙の様なモノを噴出し、展開を始めた。
と、言っても貝の用に閉じ合わさっていたパーツの上方に設置されたパーツが持ち上がったに過ぎないのだが――
そうして――展開した大型の機械の中から、ケビンとセリアが現れた。
そう、それだけならよかったのだが……中から出てきたセリアは、妙なバイザーをつけていたのだ。
――いや、ケビンならまたいつもの「カッコイイから」ってな感じの理由で奇行に走ってるのは理解できるだろう。
だが、セリアがそんなモノも身に着けているってのはどういうことだろうか?
「なんてこった……セリアがケビンに毒されちまった」
「ちょっと、一体いつ私がケビンに毒されたって言うのよ?」
言いながら、バイザーを外してこちらに歩み寄ってくる。
「――って、言うかいつから居たんだ、ネス」
言って、セリアに続いてケビンもこちらに歩み寄ってくる。
「今さっきだ――つーかケビン達こそあの馬鹿でかい機械の中で何をやってたんだ?」
「いや何、アレが完成したんで操作の練習してるんだよ」
「あぁ、そう」
と、応える俺に向かって二人が近づいてくる――って、何でこんなに近づいてくるんだ? 別に話ならさっきの距離でも――って、そうか。
今更ながら、俺の持った袋の中に入っているモノの存在に気がついた。
――と、言うか俺は別にその存在について一言も喋って無いんだが、何で当然のようにソレを貰おうと近づいてきてるんだろうか?
更に言うと、何で自分からその事を言わないんだろうか。
差し入れ持ってきた相手にソレをくれって言うのは確かに失礼だけどさ、無言で近づいて来ながらそのオーラを発するのはどうなんだよ?
――と、心の中で人一通り突っ込みをしてから、差し入れの入った袋を持ち上げながら、近づいてくるケビン達へ言葉を投げた。
「――差し入れ持ってきたけど、食うか?」
「勿論だ」「ありがたく頂戴するわ」
俺が言い終わると同時に、ケビンとセリアはそれぞれの言葉を紡ぎながら頷いたのだった。

<SCENE050>――朝
「んでさ、結局セリアのあのバイザーは何だったんだよ?」
満面の笑みでプリンを食う三十代半ばのオッサン――ケビン――にそんな質問をした。
セリアはセリアで満足そうな表情で串カツを頬張っている。
「あぁ、結局二人乗りなんだけどな、アレ。火気管制はセリアに任せようと思ったんだよ」
――並列的に思考を処理できるセリアの能力から言えば、確かに火気管制を任せるのはよくわかる。
「それは解るけどさ……それじゃあ、何でバイザーつけてるのかって説明には一切なってないと思うんだけど?」
「そうだな――簡単に言うなら補助用の画面さ、セリアの頭なら情報を四つまで並列に処理できるだろ?」
言いながら、ケビンはプリンを食う手を止めて、串カツを食ってるセリアへ視線を移す。
「そうだけどさ、補助用の画面ってのはどういう事だ?」
「だから、通常と同じような火気管制にする必要が無いって事だ。あのバイザーの内側に残弾数やその他の情報が表示されるんだよ」
――今一よくわからない。バイザーの内側に表示される必要なんてあるんだろうか?
「まだ解ってないみたいだな……要するにだな、バイザーの内側にあれば、わざわざ視界を動かさなくても目に入るだろ?」
まぁ、ソレは当然だ、なにせ、バイザーに映像が写ってるんだから、視界から消える筈が無い。
「だけど、普通はそんな事しない。そんな事すれば、常に視界に入っている分、気が散るからな」
なるほど、普通なら気が散るようなシステムでも、思考を分割できるセリアなら、視界に入った情報を一つの思考で処理してしまえば――
「やっと解ったみたいだな――お前でこの調子だとケイジあたりは理解してくれないかもな……」
――ソレは、確かに言えるかもしれない。別に説明しなければいいだけなんだけど。
「ところでさ、ケビン」
言いながら、巨大な筐体――否、コックピットブロックを見つめながら、ケビンに問いかける。
「コイツを組み始めてるって事はさ――仕掛けるのは近いんだよな?」
その俺の問いに、しばらくケビンは押し黙って、それから静かに応えた。
「あぁ、予定は一月後だ――今夜のラビとケイジの仕事の分で、もう資金は必要ない、今後は依頼は全て断ってくれて構わない」
一月後、ソレが……その時が、俺が――僕が、自信に課した誓いを果たす日になるんだ。

<OATH=DREAM-8->
「まぁ……しばらく夢だと思っていればいい。だけど……終わらない悪夢を見続けることになる」
「じゃあ、何でケビンさんは生きてるの? 何で〇〇〇〇は殺されたったの? どうして●●●●は……僕も殺そうとしたの?」
「俺には俺の事しか答えられない。総括長が何を思ってあんな事をしたのか――俺には分からない」
真直ぐに、ケビンさんが僕の瞳を見つめながら、そう言った。
「じゃあ、ケビンさんはなんで生きてるの?」
「簡単な理由だ、あれは俺が作った自動人形だったってだけさ、つまり、そこで総括長に腹をぶち抜かれたのは俺じゃないって事」
あっさりと、答えを返される。
「じゃあ、ケビンさんは何であんなに凄い動きが出来たの?」
「それも簡単、俺の足元のコレ、あるだろ?」
そう言いいながら自分の足元を指差すケビンさんは、確かに両足に機械の様なモノを身につけていた。
「それが、どうしたって言うの?」
「コレをつければ、誰だって力を引き出せるって訳さ、もっとも、今の所これ以外に現物は存在しないけど」
でも、●●●●はそんなモノつけていなかったと思う。
そもそも、一つしかないならなんでケビンさんが着けてるのに●●●●はあんな動きが出来たんだろうか?
でも、あんな動きが出来たと言うことはきっとそう言うことなんだろう。
「ネ▲、お前は……コレからどうしたい?」
今までに増して真剣な表情で、ケビンさんが言う。僕にはその瞬間、言葉の意味が理解できず「――ぇ?」と呆けてしまった。
「お前はどう生きたいのか、って聞いてるんだ」
――どう生きるか?
「何を……言ってるの?」
嫌だ、何を言ってるのか解りたくない。だけど、無常にも――
「分からないのか? お前にはもう、帰る場所が無いんだ」
――現実が、突きつけられる。知っていた、●●●●が〇〇〇〇を殺した。其処から逃げた僕には、帰る場所なんか無い。
じゃあ、どうすればいい? 僕は何をすればいいの?
「何も無いなら――」
突然、ケビンさんが呟く。僕はただ、ソレを聞いている事しか出来ない。
「何も無いのなら……俺と一緒に……戦わないか? 復讐するんだよ……総括長に●●=●●●●●に!」
その言葉に、衝撃を受ける。復讐? ●●●●に? なんで?――決まってる。ケビンさんのお父さんは、●●●●に殺されたんだから。
「じゃあ――僕は何のために戦うの? 誰に復讐すればいいの?」
その問いに、何の迷いもなくケビンさんが答える。
「それは、お前が決めればいい。〇〇〇さんを殺した●●にでも良い、こんな研究の企画を立てた政府にでも良い――お前が決めろ」
僕は……僕は、●●●●も〇〇〇〇も好きだった。だけど――〇〇〇〇を殺した●●●●の事を許せそうに無い。だから――
僕は、〇〇〇〇を殺した●●●●を――この手で、殺す。
「――決めました。僕がどれだけ力になれるかわかりませんけど……一緒に戦いましょう」
その記憶から、その悪夢から逃げる様に、俺は何時だか名前を捨てた。その記憶に抗う様に、名を失くした僕は生く。
――ソレが僕の誓い。その誓いを守る為に――俺は今も……血で汚れた手で引金を引く。

――to be continued.

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