EternalKnight
肆話-2-<幻影>
<SCENE044>――昼
ケイジに向かって直進する――が、俺に向かってきていたケイジはその場で足を止め、右腕のバレルトンファーの銃口を俺に向ける。
瞬間――その銃口から、金色の光が放たれた。それは、ラビの《可変腕》が放つ光と同質のモノ――つまりは、エーテル光。
ケイジのバレルトンファーに内蔵された、エーテルを収束し打ち出す機構は、ラビの《可変腕》に内蔵されるソレに比べてかなり小型だ。
だがその威力は《収束形態》よりは流石に劣るが、《拡散形態》によって打ち出されるモノよりも遥かに強力になっている――らしい。
当れば、強化外装甲がかなり損傷するだろう。――故に、当る訳にはいかない。
銃口が向けられた瞬間から、既に回避するつもりで居た俺は、ケイジへと接近しつつ、右足を前にして半身でソレをかわす。
この時点で、ケイジとの距離は四メートル程度――一足で届く距離になっていた。
右足で地を蹴るようして、大きく前に踏み出す。そして、左足を前にして、半身でケイジの目前に立つ。
半身になったことにより、後ろに構えられた右手のブレードを、腰の捻りと右足を前に踏み出す動作とともに、一気に振り抜いた。
だが、ケイジがエーテル光を放ってから俺がブレードを振るうまでに要した時間はおよそ0.5秒。
――当然、その間ケイジは自由だった。それだけあれば、回避するには十分すぎる。
俺が振るったブレードは、体勢を低くしたケイジにかすることも無く空を斬る。
だが、それで構わない。元々当てるつもりは無かった。否、寧ろ、かわしてもらわないと困る。
振り抜いた刃を一瞬で逆手から順手に持ち変えて、左から右に向けて斜めに振り下ろす。
その刃は体勢を低くしていたケイジの頭部に向かって進む。
――だが、俺の予測どおり、ギリギリの所でケイジは上半身を左に捻る事でその刃をかわした。
ソレと同時に、ケイジは左の手首を返してトンファーを回転させて、捻った腰の元に戻す勢いを乗せて、左腕を振り上げる。
振り上げた左手が握るトンファーの長身部が、俺の顎に向かって直線の軌道で迫る――
寸前の所で、上体を後ろにそらす事によってトンファーの軌道から脱し、その一撃を回避する。
そして、トンファーを振り上げた事により、隙が生じたケイジの首元に、先程振り抜いた右手の刃を突きつけた。
――だが、俺が刃を突きつけるよりも一瞬早く、ケイジの右手に握られたバレルトンファーの銃口が、俺の腹に押し付けられていた。
実戦であったなら、俺は死にこそしないだろうが、相当な深手を負っていただろう。
何しろ、収束したエーテルの一撃を零距離で受けるのだ、強化外装甲を破壊され、俺自身も腹を抉られかねない。
ソレが解っているが故に、ケイジは撃たなかったのだろう。――つまり、この戦いはケイジの勝ちと言っていい。
「俺の負――「まだだ!」
敗北を認める俺の言葉を、ケイジが遮る。
「まだ、勝負はついてないだろ?」
言って、ケイジが不敵に微笑む。もう勝負はついた筈だ。少なくともケイジの勝利と言う形で、だ。
ならば、何故ソレを放棄する必要がある?――何故だ?
瞬間――頭上に感じる気配に悪寒が走った。ソレは、十年の間、戦い続ける事により磨き上げられた、戦闘者としての勘。
そうして、ケイジの不敵な笑みの理由を察した。ソレは、先程振り上げられたケイジのトンファーの存在。
トンファーが振り下ろされる――その瞬間、エリニュスを握っていた左腕が咄嗟に動いた。
左手は、その中に握られていたエリニュスを放し、トンファーを振り下ろすケイジの左腕を掴み、その動きを止めさせていた。
その状態で、俺とケイジの動きは止まり、一瞬――訓練場に静寂が訪れる。そして――
「……コレでやっと引き分けになった」
――と、ケイジが満足そうに言った。……どうやら、左手を使ってなかった事に気がついてたみたいだ。
そして、どちらからとも無く、体勢を崩し、少しだけ距離を取った。
「……気がついてたのか。否、それなら引き分けじゃなくてお前の勝ちだろ?」
結果的に俺は左手を使ったし、チェックを一度掛けられている、最後の一撃も、左腕で止めなければあれでチェックになっていた筈だ。
つまりは、左腕一本分のハンデがあれば、ケイジは俺よりも強い事になる。
もっとも、最初から左腕を使えば結果は恐らく全く違うものであったであろうが……
「最後の左腕使ったのは俺が止めればよかった話しだし、実際チェックはお互い二回だろ?」
「おいおい、俺はお前の首に刃立てたとき以外にチェックは掛けてないぞ?」
そう、決定的一撃――その一歩手前で留めるチェックを俺が掛けたのは一度しかない。
それも、ケイジの方がチェックを掛けるのが早かったような場面で――だ。
「ネスさん、あんたわかんないフリしてるだろ?」
「そのつもりは無い――が、それじゃあどの辺りがチェックだったのか言ってみろよ」
その俺の言葉に、ケイジは少し眉をひそめて言葉を紡いだ。
「最後の一連の動作のアンタの二手目だよ、一手目で振り抜いた逆手の刃を順手に持ち替えて斜めに振りぬいたよな、アンタ?」
「まぁ、その通りだな――で、ソレがどうすればチェックになるんだ?」
そう、あの一撃はケイジにかわされたし、アレ以上の速度や深い角度で打つのはあの状況では不可能だった。
「違う――あんたはあの場面でわざわざ持ち替えなくても、逆手に持ったまま刃を下に向けて振り下ろせただろ?」
「確かにそうだが、俺は結果的にソレを選ばなかったし、ソレをしたってお前に当るか解らないだろ?」
「いいや、もしそうされてたら、俺はかわせなかった。コレは絶対だ、そしてネスさん、あんたもソレを解ってた筈だ」
ケイジの眉間に皺が入る。まぁ、自分の負けを認めるような台詞は言いたくは無いだろう。
「でも、コレは模擬戦だ。仲間である俺達が殺しあう道理は無い。だから、アンタはわざわざ順手に持ち替えて、薙ぐ様な動きをしたんだ」
なるほど、まぁ、確かにその通りだ。――が、結果的にソレは俺の判断であり、チェックとは言えない。
「――まぁ、引き分けってお前が言うならそれでいいさ。俺としても負けよりも引き分けの方がいいからな」
「それじゃあ、引き分けだった事だし――もう一戦、今度は手加減無しでいい、俺と……勝負してくれ」
言って、ケイジはらしくもなく頭を下げた。
……まぁ、敗北の経験はできるだけ多く積んでいた方がいいだろうし――俺も暇だし、相手をしてやるか。

<SCENE044>――夕方
あの後、ケイジとの模擬戦を十数回こなし、互いに疲れ果てて自室に戻ろうとケビンの部屋を出た時には、既に日は暮れ始めていた。
勿論、片手で戦った初戦以外の戦いは、全て俺の勝ちで終わったのだが、思ったとおり、ケイジはかなり成長していた。
その成長速度は凄まじいと言えるだろう。実に俺の数倍近い速度で、ケイジは戦士として成長していたと言って良い。
だが、恐らくこれ以上の成長はしばらくは無いだろう。
それだけの成長速度を今も保っていれば、少なくとも今日の――先程までの――俺との模擬戦で、さらなる成長を遂げた筈だからだ。
ケイジ程ではないが、かなりの速度で成長した時期が俺にもあった。だが、ソレはあるレベルに到達した所で、唐突に止まったのだ。
ソレも、恐らく今のケイジと同じ程度の強さの時だったと思う。
つまり――ケイジが今居る位置から先の領域へ踏み込むには、自分と同等か、或いはそれ以上の相手との戦闘経験が必要になるだろう。
ソレについても、俺の時程相手に困る訳ではない。つまり、ケイジが俺やラビの居るレベルに到達する日は――近い。
それにしても、大きな戦力差が無いケイジの相手を何度もしたものだから、かなり疲れている――正直、早く部屋で休みたい。
そう思いながら、アパートの階段を上がり、自室に戻った。
――がしかし、午前中の掃除に為、珍しく綺麗な俺の部屋の中には――何故かラビが居た。しかも俺のソファー兼ベッドに座っているし。
「――なんでお前がここに居るんだ?」
「いや、久しぶりにお前と酒でも飲もうかと思ってね――どうだ? 今晩は私といつもの店で飲まないか?」
――確かに、最近飲んでなかったな……別に好きな訳じゃないが――久しぶりに飲むのも悪くは無いだろう。
「ちょっと疲れてるんだけど――折角だから飲みに行こうか」
「うん、ネスは話がわかるな。――セリアやケビンも誘ったんだが、あっさり断られてしまったのでね。忙しいだとかどうとかで」
――忙しいねぇ……セリアは兎も角、ケビンが忙しさを理由に、酒に誘っても来ないってのは珍しいな。
「ところで――強化外装甲を着ているのを見る限り、訓練場に居た様だが――ケイジの相手でもしていたのか?」
「あぁ――久しぶりに相手をしてやったんだが、恐ろしい程強くなってる――俺達にはまだ届きそうに無いけどな」
それでも、あそこまで鍛えこめば、旧型の機動兵器やバケモノ程度ならどうにかできるだろう。
「知っている。もう、私達に出来る事は、模擬戦の相手以外には残ってないと言う事も理解しているさ」
「ならいい――さて、流石にコレを着込んだまま出かけるわけにも行かないし、着替えるか」
言って、俺は部屋の隅に置いてあるタンスの引き出しを開け、その奥のボタンを押す。
それと同時に、部屋の壁が展開し始め、その奥にある武器庫が露出した。

<SCENE045>――夜
飲み干したグラスを机に置いて、上を見上げる。――当然、其処には天井しかない。別段見上げた意味も無い。
因みに、ここはラビとはマレに飲みに来るバーである。俺は酒に強い為、かなりの量を飲んだが比較的意識は保てている。
――が対するラビは、既に酔いつぶれていた……だが、別にコイツが酒に弱い訳ではないし、特に俺より飲んだ訳でもない。
飲んだ量は同じ程度だろうから、それだけ俺が酒に強い、という事なのだ。
「あー……ラビさんは酔いつぶれましたか」
と、この店のマスターが、俺達の元にやってきた。因みに、この時間ならば、普通は客がいてもおかしくない――が、この店は違った。
今は俺とラビしかいない。――と、言うかこの店に来て他の客と出くわす事は殆ど無い。
もっとも、この店を選んだのは俺なんだが――言うまでも無く理由は一つ、普通のバーだとラビが絡まれて、その挙句暴れるから――だ。
酔ってたら加減も忘れる可能性があるし、出来る限り人気の無い――と、言えばマスターに失礼だが――このバーを選んだのだ。
「どうしますか、ネスさん――もうお帰りになられます?」
「そうだな……じゃあ、ラビを連れて帰るとするよ――会計は幾らになる?」
言って、俺はポケットから財布を取り出した。

<SCENE046>――夜
そして、ラビを背負いながら歩いてアパートまで帰る。正直、ケイジとの模擬戦で疲れた体にはすこし重い。
重さにして約70キロな訳だし――まぁ、右手だけで20キロはあるので、仕方ないといえば仕方ないのだが。
まぁ、ラビと飲みに行くと決めた時点で、こうなる事はわかっていたし、仕方ないだろう。
会計は、割勘なのを立替で全額出したが、少し多めに回収しておこう。
そんな事を考えて、アパートへの道を歩いている内に、チャラチャラとした如何にも雑魚っぽい男達に囲まれていた。
人数は五人――全員ニヤニヤと、表情を歪ませてラビを背負った俺に詰め寄ってくる。
こいつ等も、どうせラビを女と勘違いしているのだろう。
まぁ、傍から見れば酔いつぶれた女を運ぶ男に見えなくも無いだろうし――
「おい、兄さん――アンタが背負ってる彼女さぁ……俺達に譲ってくんない?」
随分と直接的な表現だな、こいつ……所で、一番最初に声を掛けてきた所を見ると、この男がリーダーなんだろうか?
「それは断る……後、一応言っとくが俺の背負ってるこいつは男だぞ?」
多少疲れているので、一応事実を教えてやる。――相手をするのは面倒だし、コレで引いてくれればそれに越した事は無い。だが――
「そんな顔した男が居るかよ――てめぇ、適当な事言ってんじゃねぇぞ!?」
今度は別の男がそう言いながら俺に詰め寄ってくる。――はぁ、面倒だけど片すか……
そう決めて、背負っていたラビの体をゆすって起こす。
「……んぁ? どうふぃふぁ、ネふ?……なんでふぉ前がわたふぃをふぇふぉってるんら?」
――うん、呂律が全然回ってない……けど、まぁいいか。
「ちょっと絡まれたんでな――直ぐに片すから、お前は適当な所に居てくれ」
「――んぁ、ふぁかったふぁ」
言って、ラビは自分から俺の背中から降りて、少し離れた位置に腰を付けた。
「何が直ぐに片すだ――女の前で調子に乗ってんじゃねぇぞ、ゴルァ!」
言って、一番近い位置に居た二度目に話しかけてきた男が拳を俺に向けて打ち込んできた。
ソレを、当然の様に受け止めて、開いた手で男の腹に一撃を叩き込んだ。
その一撃で、男は「グァッ」と、一瞬声を発して、地面に沈み込んだ。
その様を見せ付けるように、残りの男達に誇示し、その後、一人ずつ順番にガンを飛ばす。
そして、止めのの一言のつもりで「……まだ俺とやるつもりかな、雑魚の皆さん?」と、言葉を放った。
が――思いのほか結束力が強いのか、残った男達は誰一人逃げずに、全員一丸となって、俺の元に各々武器を持ち出しながら向かってきた。
とりあえず、全員動けなくなってもらうか――などと考えながら、俺は腰に納まったエリニュエスを引き抜いた。
――が、その時。
「止めろ!」
と、静止の声がかかった――が、従う理由は無いし、相手がそんな言葉で止まる筈無い――事は無く、四人の男は全員制止していた。
そうして、俺は何処かで聞いた気がするその声の方へと視線を向ける――其処には、スーツ姿のオールバックが居た。
その姿を確認するなり「ア、アニキッ!」と、声を合わせて、男達はオールバックスーツの元に駆け寄っていった。
どうやらさっきの連中の兄貴分らしい。そして、ひとしきり男達の言葉を聴いた兄貴分が、俺に向かって歩いてくる。
――どうやら面倒な事になってきた。否、別に組程度にケンカを売られても恐くは無いが、正直な所は面倒事は避けたい。
三つ前の仕事で、とある組の組長を依頼されて殺ったんだが、その後の元組員の処理が大変だったのを今でも覚えている。
だが、近づいてきていた兄貴分は、俺との距離が10メートル程になったところで、ぴたりとその動きを止めた。そして――
突然引き返し、四人の男達全員を殴って、何か一言告げてから全員を引き連れて再びこちらに歩いてきた。
そして、俺の近くまで来た兄貴分以外の男達は全員その場で地面に膝をつき、一斉に頭を下げた。
俗に言う土下座――なのだが。一体どうしたんだろう。そして、並んだ四つのの土下座を眺める俺は、兄貴分に声を掛けられた。
「どうも、この間はお世話になりました、名無しさん――ウチの若い衆がちょっかいを出したそうで」
しかもこんな台詞である。俺は別に組の連中に知り合いは居ない筈――否、そういえばこの兄貴分の顔……ひょっとして。
「あー……三つ前の依頼人代理の人か、アンタ」
そう、この顔だ。あの厄介な仕事の依頼人は――って言っても、羽振りが良かったんでいい仕事ではあったが。
「はい、三ヶ月前の依頼の際はありがとうございました。おかげで我々もシマを守る事が出来ました」
「そんな礼を言われる事じゃないです、俺も仕事でやっただけですし、事後の元組員の処理も手伝ってくれたでしょう?」
本当に、相手側の元組員の処理ではお世話になった――顔見られてたせいで、しばらくずっと狙われてたからなぁ……
「いえいえ、我々は受けた恩を忘れないですから――ソレなのにウチの若い連中ときたら……ホント困ったものです」
「ホントに、気にしなくて結構ですから――それじゃあ、俺はコレで」
言って、兄貴分に背を向けてラビが待っている方を向く。後ろから色々説教してる兄貴分の声が聞こえるけど、俺には関係ない話だ。
そうして、座って待っていたラビに近づいて行く。――が、ラビの様子がおかしい。
目を見開き、信じられないとでも言いたげな表情で、先程出来て、既に散り始めているギャラリーの一点をひたすら凝視している。
そして、僅からながらその口元が動いている。その唇が紡ぐ言葉は――ココからでは聞き取れない。
その言葉を聞き取ろうと俺がラビに近寄ると、そこでラビの表情が元に戻った。
だが、近づいた時に、辛うじて最後の一単語のみ、聴き拾うことに成功した。その言葉は「ルア」だった。
恐らく人名だろう……などと考えていると「いや、見間違いか――髪の色も肌の色も違ったしな……」と、ラビは呟き、立ち上がった。
そのラビからは、既に酔いは感じられなかった。
一瞬でアレだけの酔いが抜ける程、ソレ程までに、その似ている人物とやらに驚いたのだろう。
と、決め込んで、俺は酔いの醒めたラビから立て替えておいた割勘約束だった酒代を半分より多めに巻き上げた。

――to be continued.

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