EternalKnight
肆話-1-<バレルトンファー>
<DREAM-4->
「ッ誰だ! 今すぐドアを締めろ!」
開いたドアに反応する様に、●●●●は背後のドアに振り向きながら叫んだ。
逃げるのなら、今しかない。だけど――一体何処に?。僕は何処に逃げれば良いんだろうか?
「その子から離れろ、総括長。貴様、〇〇〇〇〇〇に何をしたか、▲▲▲▲▲に何をしようとしているか分かっているのか!」
――ケビンさん? 響いたその声だけで、入ってきた人物がわかった。
ドアを開けて入ってきたのは、いつも一人でいる僕と、よく遊んでくれた、ケビンさんだった。
「そんな事は貴様如き言われるまでも無く分かっている! 良いからそこを閉めろ! コレは命令だぞ、不死科長!」
「うるせぇ! お前の命令なんぞ聞けるか! 俺は俺の信じる道を行く――こんな所、今すぐにでも辞めてやる!」
ケビンさんが叫ぶ、その手には……銃が握られていて、銃口は●●●●に向けられていた。
「何でも良い! 早くそこを閉めろ!」
「もう……てめぇの命令を聞く必要なんざ無いんだよ!」
「貴様……父親を見捨てるのか?」
そうだ、たしかケビンさんのお父さんの病気の治療費の為にここで働いてるって――
「しらばっくれんな! 親父を研究材料に使いやがったんだろ? 知ってんだよ、それくらい!」
――そんな。●●●●が……ケビンさんのお父さんを? そんな馬鹿な事が――
「……貴様は有能だったので殺したくは無かったが……この際だ、仕方ない……か。それに……貴様のせいで私の計画は台無しだ」
瞬間、●●●●が視界から消え、次の瞬間には十数メートルは離れたケビンさんの目の前居た。
そして〇〇〇〇を貫いたその黒い腕を、ケビンさんのお腹に突き刺していた。
「そんな……なんでそんなことするの、●●●●」
解らない。分からない。わからない。――どうして、●●●●はあんな事をするんだろう?
怖くて涙が出る。●●●●が僕から離れた今が真の意味で、逃げるチャンスなのに――恐くてピクリとも体が動けない。
逃げるなら、●●●●が少しでも僕から離れている今しかないのに、動けない。
――背後からドアの開く音が聞こえた。そして、何かが、金属で出来た軽い何かが転がる音がした。
瞬間、ホール全体が、強烈な閃光に包まれた。
過去の光景が――悪夢の破片――が、ゆっくりとスローモーションになり始める。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと――そうして、停止する。どうやら、今回の悪夢はここまでらしかった。
悪夢の記憶から逃れるように、僕は僕の名を捨てる。悪夢の記憶に抗うように、名を失くしたまま俺は生く。
停止した過去の映像は徐々に靄がかかる様に霞み始め、完全にその断片を認識できなくした所で、一気に暗転した。

<SCENE042>――朝
意識が――覚醒した。最初に見えたのは、いつも通りの自室の天井――光の入ってこない部屋は、相変わらず薄暗い。
ココ最近毎日の様にあの悪夢の断片を見る。――とは言っても、最近の様に続けて見る時期も今までにはあったので、別に気にはしない。
夢の中で起こるあの音とびはなんなのだろうか? アレだとまるで俺がヤツを恐れているみたいじゃないか――
いや、何処か深いところで、俺自身があの事実を受け入れたく無いと思っているのかも知れない。否、ソレも無い。
俺はヤツを怨んでいる。ヤツを殺す事が……俺の誓いだ。名前を棄てたあの日に、誰でもない自分と交わした――誓いなのだから。
「――って、今考える事じゃ無いか」
確か、今日は依頼の途中でも無かったし、何かやる予定も無い――つまる所、今日は暇なのだ。
否、そういえば一つだけ、今日やる事があったか――なんて考えながら、時計に視線を移すと、時計の短針は7と8の間辺りを刺していた。
「この時間だとギリギリ……かな? まぁ、暇だし一応聴きに言ってみるか」
そう思い立つと同時に、俺はベッド代わりのソファーから立ち上がり、また足場が無くなってきた部屋の外へ出る事にした。
薄暗い部屋から、太陽の光で照らされた外へと出た瞬間、視界が焼かれたように光に覆われた。
その光に、俺は数秒の間目を細める――そうしていると、直ぐに明順応し終わり、視界は見慣れたアパートからの景色となった。
そうして、階段を下りてケビンの部屋に入り、地下研究室への階段を出現させて、その螺旋階段を降りて、最下層の分厚い鉄の扉を開ける。
勿論、その先にあったのは見慣れた……ある意味見慣れない研究室だった。殆どケビンの趣味で改造してるからなぁ……この研究室自体。
っと――そうじゃない、今回俺がココに来たのはケビンに会うためじゃない。
この時間帯なら、まだ恐らくココで仕事をしているセリアに会いに、俺はこの地下研究室にわざわざ来たのだ。
そして、唯一殆どケビンによって改造されていない、コンピューターの有る場所――セリアの仕事場へと俺は脚を進めた。
案の定、仕事場では、キーボードを俺には考えられない様な勢いでタイピングしているセリアが居た。
そのセリアの前には三つのモニターが配置され、それぞれ俺にはやはり意味不明な文字列を表示していた。
見れば、キーボードも三つある――が、さすがに触っているキーボードは一つだった。
それでも、遠くから見ていると、三つのキーボードを順列など関係なく操作している様に見えた――と、言うか実際そうしているのだろう。
相変わらず、俺には想像も付かないような思考の分割とやらを使っているのだろう。
それでも、セリア本人曰く、四つまで思考を分割出来るらしいので、俺に対応する事も出来るだろう。
故に、俺はキーボードを操作するセリアに近づいて行く。勿論、気配を殺したりはせずに、いつも通りに――
そうして、直ぐに後ろまで近づいた段階で、セリアは作業の手を止めて、俺のほうに振り返り、眼鏡を外した。
「あらネス、何の用――って、そういえば貴方に頼まれてた仕事があったわね」
「あぁ、調べてくれたか?」と、その俺の問いに、セリアが若干表情を歪めつつ「えぇ、調べたわよ」と、返した。
そして、今度は厭きれた様な表情で言葉を続ける。
「黒い少年と聖具って言う装具品に関しては手がかりは全く無かったわ――これでも結構調べたんだけどね」
聖具……か、あの口ぶりから察すに複数存在してると思ったんだが、単なる思い違いか……
しかし、あの黒い少年について何も出てないとは思ってなかった――
セリアが探しても見つからない……か。つまり情報は全く出回って無い、って事になるよな。
それなら俺が知らなくてもおかしくは無い。――だとするとつまり……アレが最初だったのか?
面倒だという理由で相手を殺さない様なヤツだ。目撃者を皆殺し、という訳では無い以上、あれが最初の仕事だったとしか考えられない。
だが――あの、殺意と気配で……その上あの殺し方で仕事が初めてだと? ソレこそ信じられない。
――まぁ、実際どうだったにしろ、どちらもセリアが見つけられない情報を俺が見つけられるわけが無いし、忘れる事にしよう。
「そうか……悪かったな、無駄な時間を掛けさせて――」
さすがに、魔術については頼めなかった。――オカルトでよく使われる概念だし、ソレこそ情報は無限に近い程あるだろう。
「――さて、私はそろそろ休もうかしらね」
などと言いながら、座ったまま伸びをしてセリアは言い、立ち上がった。
「あぁ、ネス――そういえばアンタ、一昨日の仕事の疲れはとれたの?」と、立ち上がったセリアが唐突にそんな話を切り出して来た。
「一昨日の仕事の疲れって――ソレは昨日お前に調べてくれって言いに来た時には有る程度取れてたからな――今はもう残ってない」
実際問題として、俺があの仕事で受けたダメージはエストークとの戦いのモノだけしかないのだ。他は事実上無傷で勝ったと言っていい。
実質的な被害はダメージを受けた部分――背中と左腕、それから左脇腹。後は制限解除で負荷を掛けた右腕と左足くらいなモノだ。
「リーファブ社の本社ビルに乗り込んでソレなんだから、アンタって凄いわよね」
「おいおい、今更言う事かよ――否、今回はさすがに俺も何度か死ぬかと思ったけどさ」
本当に――特にエストークにはよく殺されなかったモノだと思う。
「うーん、でもまぁ……《牙》の双璧の片方がリーファブ社が相手で駄目だったなら、実際最終目標は絶望的でしょうけどね」
それは確かにそうだろう。リーファブ社は如何に巨大だろうと、所詮それは企業――財閥に過ぎない。
国そのもの――五聖天――の計画をぶち壊そうとしている俺達が、財閥程度に負けていては話にならないだろう。
「それじゃあ、私は今度こそ部屋に戻って休ませてもらうわ」
言いながら、セリアが俺の隣を抜けて、地下研究室の入り口へと歩き始めた。
その後姿に「ゆっくり休めよ」と、声を飛ばすと、セリアは片手を上げて「言われなくても休むって」と、応えて、歩いていった。
そうして、俺はコンピューターの前に一人取り残された。――これでホントに今日は予定がなくなっちまったけど……どうしようか?

<SCENE043>――昼
結局、部屋に戻って散らかり始めた部屋を片付けて、昼時だったので飯を食い終わったが、結局そこでやる事がなくなった。
そして時間を潰す為に俺は今――訓練所に来ていた。――そして今、目の前には得物であるトンファーを構えたケイジの姿が見える。
状況は至って単純――ケイジとの模擬戦だ。ココ最近、訓練所で鍛え続けているケイジの実力を見る試験と言ってもいい。
勿論、俺もケイジも強化外装甲を完全装備している、唯一の違いは俺の手に得物が握られていない事だろうか。
――握られていない、とは言っても腰にさしている状態なので、いつでも戦闘態勢に移れるのだが。
「さっさと構えなよ、ネスさん――俺はいつでも行けるぜ?」
と、対峙するケイジが俺に声を掛けてくる。そのケイジの言葉に俺は――
「ラビとやるのなら兎も角、お前見たいなクソガキとやるのに、わざわざ構えとく必要は無い――だろ?」と、当然の様に応えた。
その瞬間――「あぁ、そうかよ!」と、言葉を発したと同時に、ケイジが地を蹴り、こちらに一直線に迫ってきた。
この戦いは、ケイジの実力を見る試験であると同時に、自分を鍛える為の模擬戦である。
当然、いくら鍛えたからと言って、今はまだ俺と同じ領域に居るとは思っていない。故に――俺は自分自身の中でルールを作る。
左腕を使えないモノとして戦う――先ずは、それで様子を見ることにすると決めていた。
迫るケイジを目前に、右手でエリニュスを抜き、クイックドロウの要領でケイジに向けて銃弾を放つ。
――だが、その弾丸をケイジはトンファーで弾き、尚もこちらに近づいてくる。距離にして一歩――一瞬あれば十分な距離だ。
そして、トンファーの間合いとなる距離に踏み込まれる。――瞬間、ケイジは右腕をフック気味に放った。
ケイジの左フックの軌道を読んで、ソレをギリギリでかわせるように、俺は体の重心を後ろに下げつつ、一歩足を引く。
だがその瞬間、ケイジは手首を返すと、トンファーの長身部が遠心力によって回転し、その攻撃範囲が広げる。
勿論、その事を計算に入れていなかった俺は、増えた分の攻撃範囲内に居たままだ。
そして、フックの勢いと遠心力を持った鋼のトンファーは俺の体に命中した。かなりの衝撃を防御なしに受けたせいか、一瞬、体が揺らぐ。
その隙を逃がさないとでも言うかの様に、ケイジは右手を引き戻しながら左足を一歩踏み出し、今度は左腕を俺の腹部に打ち込んできた。
勿論、その左手にもトンファーは握られており、打ち出されたのは拳ではなく短身部だった。
だがしかし、油断の隙を突かれた先程と違い、今度は完璧にその動きに対応し、腹とトンファーとの間に右腕を差し込んだ。
そして――打撃によって生み出された衝撃が右腕に走り、その衝撃で握っていたエリニュスを落とす。
だが攻撃を防がれた事によって、ケイジに僅かな隙が生まれた。
――その瞬間を逃さず、半身になった事によりガラ空きになったボディに左ミドルキックを打ち込んだ。
その一撃で、ケイジは前のめりになりながら体勢を崩すも、両足で踏ん張って、そこから地面を大きく蹴り、後方に跳躍した。
後退したケイジを追わずに、俺は落としたエリニュスを未だに若干感覚がぶれる右手で拾いなおし、ケイジと対峙する。
「俺はこの間からずっとココで鍛えてるんだ――いつまでもアンタにガキ呼ばわりされない為にな!」
そう言いながら、ケイジは先程と同じように構えを取る。
「なるほど――俺は少しばかりお前を甘く見てたようだ……」
言って、俺は左のエリニュスを引き抜き、両手に収まるエリニュエスを構える。
――に、しても……ケイジのヤツ予想以上の速度で成長してやがる。得物も使いこなせてるし、判断能力も悪くない。
こりゃ左手一本分のハンデなんかつければ勝てるどうかわからねぇな……もう少しハンデがいるかと思ったが……これだけで十分だな。
さすがに、エリニュエスを構えてないと手を抜いてるのがばれそうだしな――使わないにしても、左手にもエリニュスは持っておかないと。
「それじゃあ――俺も少しばかり本気でやるかね……」
そして、互いに構えを取った俺とケイジの視線が交差し――
瞬間――俺は右手のエリニュスの銃口をケイジに向けて、トリガーを引いた。
エリニュスから吐き出された弾丸がケイジの脳天を目掛けて飛ぶ。
その弾丸をケイジは当然の様に右手のトンファーで叩き落し、トンファーを持った左腕をこちらに向ける。
と、同時に――無数の銃声が響いた。
弾丸を吐き出したのは俺の腕に収まるエリニュスでは無く、ケイジの左腕に収まるバレルトンファーだった。
弾丸はそれぞれ一直線に俺の元に飛んでくる――だが、同じ距離からの銃撃をケイジが打ち落とせたのだ、俺に対処できない道理はない。
迫る弾丸を右足に重心を移動させつつ地面を蹴って移動する事によって回避して、右手のエリニュスの銃口をケイジに向けて引金を引く。
無数の咆哮を響かせて、左腕のエリニュスは弾丸を次々と吐き出し、その弾丸がケイジの元に飛来する。
だが、それらの弾丸が辿りつく前に、ケイジはその場を移動する事によって銃弾をかわし、同時に俺との距離を詰め始める。
――銃撃じゃどっちも当る前に回避できる上にどちらも弾切れが無い以上、その判断は正しい。
だが、武器の性能上、接近戦ではあちらの方が戦いやすいと言わざるを得ない。
先端が分子単位の厚さしかない俺のブレードは、切れ味が良すぎるのだ――下手をすれば腕や首を切り落としかねない。
対して、ケイジのバレルトンファーは基本的には打撃用の武装だ。当たり所が悪くさえなければ、相手を殺すような事にはならない。
だが――接近戦でなければ決着がつきそうにない以上、そうする他無いだろう。
ケイジと距離を取るように移動しながら、右腕の装甲を展開させ、その手のエリニュスを腰に収める。
そして――装甲の展開によって現れたブレードを左手に握り、そこで移動の方向を真逆――ケイジの向かってくる方向――に変える。
こちらからの攻撃が出来ない以上、勝利条件は一つ……チェックメイトをかける事のみ。ならば――やってやるさ。

――to be continued.

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