EternalKnight
参話-3-<デュアルトリガー>
<SCENE029>――朝
セリアの話を聞いた後、昨日は部屋に戻ってソファーに転がったが、眠る事が出来なかった。
部屋の壁に掛かった時計を見るに、時間的には既に朝と言っていいが、殆ど光の入らないこの部屋は未だ薄暗いままだ。
「ふぅ……」
そして、昨日の――時間的には今日のだが――夜中の事を思い出す。セリアの推測は俺が考えてもおかしくは無いと思う。
リーファブ社の現状やその他の情報から察せば、セリアの推測が最も的を射た形だと言えるだろう――否、恐らく正解そのものだ。
デカイ仕事だから当然なんだが、やけに羽振りのいい仕事だと思ったら……俺を利用しようとしてたってか?
「はっ! 面白ぇじゃねぇかよ――」
俺を利用しようとした馬鹿な計画――折角だ、余さずまとめてぶっ壊してやるさ。契約違反は向こうが先だ――何も遠慮する必要は無い。
「俺を怒らせたんだ……命の覚悟ぐらいしてるよなぁ、バルロクス=リーファブさんよぉ?」
ターゲットは変更だ――セリアの情報だと馬鹿は元の標的と同じビルに居るらしい。
――大方、俺が抵抗しなければ危害を加えないと知ってるんだろう。
だが、無駄だ。無抵抗だろうがなんだろうが――俺は、俺を怒らせた人間と、ターゲットの人間に容赦などしない。
さぁ、目的は決まった、武装も……必要最低限でいいだろう。さて、今日は寝ていないし――夜まで眠って体力を蓄える事にしよう。
そこで俺は、長時間握ったままだった意識を手放して、眠りの闇に沈んでいった。

<SCENE030>――深夜
「さてと――いよいよか」
見上げる先は六十階立ての高層ビル。このあたりでも抜きん出て高いビルだ。周囲のビルはあっても三十階程度。
まぁ、周囲と言っても四方には空間があり、隣のビルまではかなりの距離があるのだが。
ビルの構造、と言うより使用状況を思い出す。三十階までは一般人も住む――と、言っても金持ち連中だが――居住区。
そこから五十階までは企業……様々な分野を手広く行なっているリーファブ社の使用するスペース。
五十一階から六十階までは降りることが出来ず直通になっており、六十階は展望台になっている。
つまり、五十二階から五十九階の八階層はメインのエレベーターを乗り換え無ければ入ることが出来ないのだ。
そして、バルロクス=リーファブは確実にその何処か――恐らく五十九階の自室――に居るだろう。
展望台は深夜でも上れるようになっているので、進入自体は容易だ。
しかし、五十一階から上はそれなりのセキュリティもある故に簡単には上がれない。まぁ、ソレも工夫次第でどうにでもなるのだが――
そうしてそのまましばらくビル屋上を見上げ、視線をビルの入り口へと落とした。
「まぁ、出来る限り死人は出さ無いように――やりますか」
身に纏う黒のコートが、夜風に吹かれてなびく音に掻き消される程に小さく呟いて、俺はビルへと向かって脚を踏み出した。

<SCENE031>――深夜
閉鎖空間――俺しか乗っていないので勿論狭くなど無いが、エレベーターの中はそう呼ぶに相応しい。
ココに至るまで無論障害はゼロ――加えて、このエレベーターはじきに五十一階、目的のフロアに着くだろう。
この仕事――最早仕事とは呼べないが――を成功させる上でやらなければいけない事を脳内でシミュレートする。
状況に応じて対処しなければいけないのはわかるが、それでも完遂の為には確実にしないといけ無いことが2〜3だけある。
ソレをしなかった場合、最悪逃げられる可能性も出てくるからなのだが。
もっとも、バルロクスは自身が狙われている訳じゃないと言う気持ちから警戒心が低い筈なので、ソレさえ抑えればどうにかなるのだが。
それも、機動兵器よりも機密度の高い特殊能力者とやらに俺が負けなければの話ではあるが――
エレベーターの階数を表す電光掲示板が50の数字を超えた。――もう少しで、後数秒で51階に到着となる。
特殊能力者……そんな奇天烈な相手とは戦った事は無い。それ故か、妙に落ち着かない。――が、誰であっても負ける気はない。
電光掲示板の文字が51に切り替わり、エレベーターそのものが減速して行くのがなんとなく解かる。
そして、停止――程無くしてドアが開く。その向こうには警備達――恐らく警備員だが――が二人居た。
まぁ、このくらいのことは予想してたさ。何たってココから上は特別区画だしな。
そして、ドアの前に居た警備員の一人が口を開き、事務的な口調で語りだす。
「失礼ですが、ココからは特別区画となっております。IDカードの提示、或いはお約束が無い場合は、この階で降りる事は出来ません」
その言葉に続いて、もう一方の男も口を開き、これまた事務的に言葉を紡ぐ。
「IDカードの提示、或いはお約束があられる場合は、御相手の御名前とあなたの名前をお教えください」
そうだな……一応楽が出来るかも知れないし、試しては見るか――
「バルロクス=リーファブとの面会に来た。向こうはこちらの本名を知らんのだが……ネームレスと言えば通じるだろう」
まぁ、ココでもし俺を通した場合、エンヴィフィトを殺すのに成功すれば怪しまれるのはバルロクスなのだから応じる筈は無いが――。
――が、もしそうであっても、警備が確認にでも行けば、確実にココに居ると言う存在証明が成立する訳だが。
「はぁ……ネームレス様ですか? 解かりました、社長に確認を取ってみます」
と、言って、警備の片方がエレベーター入り口の前から離れる。その内に、視線を動かし目標のポイントを探す。
確かセリアに見せてもらった見取り図では――よし、あそこか。直ぐさま目標のポイントを発見して、視線を他に移す。
エレベーター入り口の前に立つ、もう一人の男は、俺と会話をする気は無いらしい。別に構わないが――
しばらくして、確認に行った男が小走りでこちらに戻ってきて、口を開く。
「すいません、社長は既にお休みになられたようです――」
寝てたか……まぁ、大方予想通りかな。それ自体は問題ない……寧ろ当然そうなる筈だと踏んでいた。
そして、俺はわざとらしくその男の言葉に俺は「時間が時間ですしね」と、相槌を打ちつつ、高速で腰に収まるエリニュエスを引き抜いた。
一瞬、それ以上の時間は掛からなかった。それだけの時間で、俺は目の前に居た警備員二人の両足を打ち抜いた。
エリニュエスの咆哮がフロアに反響して、一瞬の間を置いて、やっと両足を打たれた警備員は地面に崩れた。
足を撃っただけなので死にはしない。しかし、倒れている警備員達は『痛い』と言う言葉だけを紡ぎ、腰に挿した銃を俺に向ける気配ない。
まぁ、警備員なんて唯の見張りなんだし当然といえば当然か。
そう言えば……倒れている警備員達の足からはそれなりの血が流れている筈なのだが、特有の血の臭いの変化を感じない。
まぁ、だからどうしたと言う訳でもないんだが……俺自身血の臭いに慣れすぎてしまっているから、普段は特に意識もしてないしな……
――などと考えながら、右腕のエリニュスのトリガーを強く押し込み、握り続ける。その銃身の先は先程見つけた目標のポイント。
――デュアルトリガー機構。エリニュスにつけられた機能で俺がケビンに依頼した、破壊力を増大させる為の機構。
銃のトリガーを二段式にし、普通に引く力で一段目のトリガー、更に強く握る事で二段目のトリガーが引ける様になっている。
一段目は今まで俺が使ってきた銃と同じ様に引きっぱなしで連続で弾丸を排出する機構。
二段目は引いている間にNMにより特殊弾丸を生成する機構で、引き続ける事で精製した弾丸にエーテルを圧縮注入――
トリガーを離す事で排出され、チャージ時間に応じて内部のエーテル量が増す為、破壊力も増大する仕組になっている。
もっとも、安全面から十秒がチャージの最大時間になっているのだが――それ以上は押し続けてもチャージされないようだった。
それでも、試射を行なった限りでは、威力としては十分な事を確認している。
銃声は響いたし、どうせ援軍――今度は訓練受けた警備兵が――来るだろう今更少し派手な事やろうが同じだ。
そんな事を考えて、俺は十秒ほど押しっぱなしだったトリガーを握る指を離した。
瞬間――エリニュスの咆哮と共に一発の弾丸が銃身から吐き出され、目標のポイント、少しデザインが奇抜な柱に向かって飛んで行く。
そして、打ち出された弾丸が着弾する。瞬間――爆音が轟き、金色の光が視界を多い尽くした。

<SCENE032>――深夜
金の閃光が収まり、視界に入ったのは跡形も無く崩れ去った標的――柱だった。否、それどころか、周囲の壁すらも粉々になっていた。
ソレを確認してから、俺は五十二階以降の階に上る為のエレベータの元へと走り出した。勿論、場所は把握している。
ところで、もう形が残っていないので柱と呼ぶ事すらおかしな話だ。――否、そもそもアレは柱ではなかったのだが。
走りながら、どうでもいいことを思考する。勿論、周囲――特に曲がり角など死角になる部分への注意を殆ど削がずにではあるが――
アレはエレベーター入り口。そうは見えないが、このビルの五十八、九階と五十一階を繋ぐ緊急用のエレベーター。
勿論言うまでも無く、襲撃された折に脱出に使うモノである。侵入者が五十三、四階で戦っている内に逃げ出す為の脱出口だ。
普通の侵入者はビルの柱を壊そうとはしない。バランスを計算されて作られたビルの柱を破壊する事は、そのビルの崩壊を意味するからだ。
その点で、もしも何らかの反動で柱に危害が加わろうとも、それが頑丈に作られてることに誰も疑問など抱くまい。
重要な部分が簡単に壊れる筈はないと、勝手にそう思い込み、脱出口の存在に気が付かせない。
良く考えられているが――事前に情報を持ち合わせている相手にそんなまやかしは通用しない。――がそのための頑丈さでも有るわけだ。
故に、解かっていても破壊できない場合が多い。それだけの情報を持つ者――否、ここに殴りこみに来る相手が多いと決して思わないが。
しかし、エリニュスが持つ最大威力での一発――それで十分だった。
ただそれだけで、機動兵器の外装と同等、或いはそれ以上の強度を持つ非常用エレベータ出入り口の外壁を跡形も無く粉砕したのだ。
――凄まじい威力。その言葉がこれほど似合う武装もそうは無いだろう。――チャージに時間が掛かるのが難点では有るのだが。
そうこう考えている内に上階へと繋がるエレベーターの元にたどり着いた。そこで、無駄な思考を止めて、現状を考える。
ココから先は、本当に無駄な事を考える余裕はないだろう。この階層で、最初の警備員以外の敵とは遭遇しなかったのだ。
防衛機構は幾らかあったが、位置を把握し、それぞれの機能を把握している俺には突破する事などたやすい事だった。
ソレはさておき、俺が警備達と遭遇しなかったのは何故だろうか? 先程の轟音を考えるとまず気づいていない事はありえない。
ならば、考えられる理由は一つ、待ち伏せ――だ。
つまり、ココより上の階――否、場合によってはココに来るであろうエレベーターの中すらも、敵で溢れ返っている事だろう。
この階層に警備兵達が集まらないのは、より多くの数で敵を迎え撃つ為だと考えれば自然だ。
ココに挑んでくる以上、それなり以上の腕を持つ事は確かだ――故に、質に量で立ち向かおうとするのはかなり有効な戦術だと言える。
――なるほど、良く教育されている。否、有能な司令塔が居る、と考えた方が妥当か……
エレベータのドアのが開いた折に内側から死角となる部分に、エリニュエスを構えて待機する。
程無くして、エレベーターのドアが開いた……が、中から人の気配は感じられない。何かが妖しい……が、もたついていてはドアが閉まる。
一瞬、躊躇してエレベーター入り口から死角になる他の地点に向かって跳躍する。無論、移動の折にエレベーター内部が見えるように、だ。
その結果は、エレベーター内部には誰も居なかったし、何も無かった。
エレベータには定員は有るのだし、上の階で待ち構えていた居たほうが良いのだが――全ての戦力を一点に集約させる必要も無いだろう。
今回は持ち込んでいないが、ケルベロスでもあれば一気に殆ど全員始末できるしな……まぁ、ソレだと殺す事になるんだが……
否、1対200程の戦いで誰一人殺さずに屠る事など不可能に近いだろう。
少ない数を確実に行動不能にして数を減らすつもりだったんだが……
どちらにしろ、エレベーターが機能していては目標――バルロクス――に逃げられる恐れがある。
バルロクス本人が例え自分がやられないと勝手に確信していても、一人だけに逃げないのは目立ちすぎるしな……
まぁ、何でアレ、このエレベーターを破壊することに違いは無い。右手のエリニュスのトリガーを強く押し込み、チャージを開始する。
チャージを始めてから――トリガーを深く沈みこませてから――およそ五秒程が経過したところで、俺は引金を離した。
そして、放たれた一撃は先程よりは規模の小さい、されど十分過ぎる程眩い金の閃光と轟音を生み出した。
閃光が晴れる――無論、開けた視界に移るのは原型を留めないほど崩壊したエレベーターの姿だった。
「コレで進路も退路も階段しか残ってない筈――だよな」
今この瞬間より、ココより上の階層は、上るも下るも階段を使う以外の方法が無いわけだ。――床をぶち抜く程の武装があれば話は別だが。
故に、俺が階段から攻め上がる以上、目標を取り逃がす事はまずありえないのだ。
後はただ、五十九階の社長室――バルロクスが居るであろう部屋――を目指して進む、ただそれだけだ。

<SCENE033>――深夜
さて、進入ルートが階段しか無いことが向こうにもわかっている以上、階段に幾らか警備兵が居ると思っていたが――
ここにも、全く警備兵は居なかった。……いくら量で攻めるつもりとは言え、コレはおかしい。
200人が200人同時に俺に攻撃できる訳では無い以上、今を持って全く警備兵が居ないのは非常に不可解だと言える。
――それでも油断など出来るはずも無いのだが……そうして俺は階段をゆっくりと、周囲に警戒しつつ確実に進んで行く。
階段を上って行くが、周囲に気配ない。次のフロアまで、残りはおよそ十段程――なのだが、そこで気配を感じ、悪寒が走った。
上階……恐らく五十二階のフロアから、巨大な気配が感じられた。――無論、ソレは数による物などでは無い。
――そして、人間から感じられる気配だと、俺には到底思えない様な、そんな気配。ソレはただ、歪み狂ったおぞましい気配。
そして俺は……俺には――この気配に覚えがある。この気配は……悪夢に見る黒いバケモノの放っていたソレと、殆ど同質のモノ。
耐える事が出来なくなり、俺は遂に十段あった残りの段差を二歩で駆け上がり、五十二階のフロアへたどり着いた。

――to be continued.

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