EternalKnight
<十三日の金曜日>
7月13日金曜日
<SCENE001>・・・夕方
ついてない、まったく『13日の金曜日は不吉』とはよく言ったものだ。
――と、言うよりありえない。
目の前にいるのは、何だ?
二足歩行
銀の髪に赤く輝く眼。
全長二メートルはあろう黒い巨体。
そして両の手足についた研ぎ澄まされた爪。
極めつけに銀の髪の隙間から鋭い角が一本の生えていた。
そう……今、俺達の目前に存在するソレは――
何処からどう見てもバケモノだった。
「何なんだよ、こいつは……」
「お兄ちゃん、何なの? これ」
後ろから、妹の真紅が話しかけてくる。
俺の服を掴むその手は震えていた。
先程まで重そうに持っていた買い物袋は、落としたんだろう。  
「真紅……大丈夫だ。お前は俺が守ってやる」
正直、守りきれる自信なんて欠片もない。
それどころか体の震えを抑えるだけで精一杯だった。
でも、俺が守らなきゃいけない。
今、そんなことを言っても真紅を怖がらせるだけだ。
「うん……」
――とは言ったが、どうすればいい?
必死で回らない頭を回して考える。
しかし、考えがまとまる前に、バケモノが動いた。
――その鋭い三本の爪が振り上げられる。
逃げなきゃ、殺られる。
ソレが分かっていても体が言う事を聞かない。
いや、仮に動いた所で後ろには真紅が――
俺の最後の肉親が……妹がいる、どうする!?
――《死》が振り下ろされる。
「くっそぉぉぉおおぉぉ!」
「きゃぁぁぁ!」
[ズガァン!!]
咄嗟に真紅を抱きしめて、真横に飛ぶ。
生きてる、何とかかわす事が出来たみたいだ。
「大丈夫……か?」
「私は大丈夫……だけど」
真紅の視線が動く。
その先の俺の肘は擦り剥けていた。
「このくらい、なんともないさ」
真紅の次の一言を待たずに、俺はバケモノと向き合う。
いったい何なんだ? こいつは?
いや、今はそんな事はどうでもいい。
「真紅! お前は逃げろぉ!」
「でも!? 私は……」
「いいから早く!!」
「う……うん」
真紅が逃げるまで、時間を……
何とかそれだけでも、時間を稼がないと……
とにかく、あれは一発でも当たれば終わりだ。
威力は分からないけど、本能がそう告げている。
いや、先程の一撃の痕を見れば一目瞭然か――
道路のアスファルトに穴が開いているのだ。
そんなのが当たって、生きている人間なんていないだろう。
どっちにしても当たらなければいいんだ。
とにかく、こんなところじゃ死ねない……死にたくない。
だから何も考えるな……今は生き残る方法だけを考える!
その筈なのに、頭の中では今日の記憶が思い出されていく。
必要も無いのに、まるで走馬灯のように……

<RECOLLECTION-7/13->・・・昼
[キーン、コーン、カーン、コーン]
この日最後の授業の終わりを告げるチャイムの音だ。
「ふー、やっと終ったよ」
いつものように机の上にだれる。
「だれんなよ紅蓮、もうチョイしたら夏休みだろ?」
話しかけてきたのは幼馴染の西野聖五(にしの・せいご)だ。
「そうよ、頑張りなさいよねぇ。春樹じゃないんだから」
とかぼやいているのは三瀬冬音(みせ・ふゆね)。
「授業中に爆睡してる奴に言われたくない」
ついでにアイツと一緒にされるのも不愉快だ。
「なんですってぇ! 紅蓮、あんた言ってくれるわねぇ」
そうそう俺は一宮紅蓮(かずみや・ぐれん)だ。
――って何を改まって考えてるんだろうか?
「まぁ、事実だしなぁ、冬音が寝てるのは」
聖五が俺の援護する。
「そんなぁ聖五、あんたまでぇ、私デリケートな女の子なのにぃ」
「おまえに女の子など名乗る権利などない!」
とりあえず一言で切り捨てる。
「私は彼氏がいる立派な女の子よ、一人身とは違うんだから!」
「別に、可愛い子がいないだけだ、お前を含めて……」
微妙に論点がずれてる気がするが気にしないことにしよう。
「なんですって! あんたは妹好きなシスコン野郎なだけでしょ!」
「誰がシスコンだと!」
「あんたの事よ!」
「あのさぁ……二人とも」
小さめの声で聖五が言う。
「何だよ!」「何よ!」
二人で聖五をにらみつける。
「いや姉・・・っじゃなかった、先生もう来てるぞ?」
「「へ?」」
「気づくのがちょ〜っと遅いなぁ……ふ・た・り・と・も♪」
笑顔で青筋うかべてるんですが……
「いや、翔ねぇ? 怖いんだけど……」
「翔子先生、ちょっと落ち着いて、ね?」
なんだかどんどん翔ねぇの顔が怖くなっていく……
あ……俺がNGワードを言ったからか――
「学園で《翔ねぇ》と呼ぶなとぉ、いったでしょうが!!」
――と、気付いた時には遅かったらしい。
[スパーン!]
高速で振り下ろされたハリセンが脳天に直撃した。
どこから出してきたんだよ……いや、いつもの事だけどさぁ……
「ってぇ!!」
今、脳天に一撃をくれたのは幼馴染の《翔ねぇ》
――もとい担任教師の西野翔子(にしの・しょうこ)。
学園で翔ねぇと呼ぶとハリセンの餌食になってしまう。
その名前からもわかると思うが聖五の姉でもある。
「わかったぁ? 紅蓮君♪」
とりあえずもう一撃受けたくないので素直にすることにした。
「わかりました……」
「じゃHR始めるねぇ〜♪」

<RECOLLECTION-7/13->・・・昼
で、HR終了したわけだが――
「さって、帰るかな〜。」
今日は真紅の買い物に付き合うことになっている。
「まぁ俺はいつもどうり部活だから。」
「私は今日補修だしねぇ、テストが悪すぎたから♪」
笑いながら言うことか? 冬音……。
「んじゃ俺は部活行ってくるから、また明日♪」
「おう、また明日なぁ」
「じゃ〜ねぇ」
聖五は教室から出て行った。
さて、真紅も待ってるし俺もさっさと行くかな。
「あんたはどうせ真紅ちゃんと一緒に帰るんでしょ?」
「まぁ、そうだけど?」
「やっぱシスコンじゃない」
「まだ言うか!」
「ええ何度でもね♪」
ほっとこうか、疲れるし。
俺は冬音を無視して教室を出ようとするが――
「あら逃げるの? 逃げるのね?」
そのセリフにうんざりしながら振り返る。
「はいはい、さっさと行きなさい」
「気に食わんな」
自分から『逃げるの?』とか言い出しておいて……
「待ってるんじゃないの? 真紅ちゃんが」
「まぁ、待ってると思うけどさ」
「早く行ってあげなさい……じゃ、また明日」
「おう、明日な」
俺は教室を出て真紅の待つ校門前に移動した。

<RECOLLECTION-7/13->・・・昼
「もぉ、遅いよお兄ちゃん!」
校門の前で妹、一宮真紅(かずみや・しんく)が手を振っている。
「待たせてワリィな、真紅」
「悪いですんだら警察はいらないよ?」
頬を膨らませながら文句をたれている。
「すまんって」
かるく頭を下げた、まぁこんな掛け合いもいつもの事だ。
「で、今日は買出しの荷物持ちだったよなぁ?」
「そうだよ?」
一緒に買い物に行ったりするからシスコン呼ばわりされるのか?
ふと、そんなことを考える。
「お兄ちゃん、嫌だった?」
「そんなことない」
「じゃあ、行こ! お兄ちゃん!」
「はいよ」
俺は先を行く真紅の後を追いかけた。

<RECOLLECTION-7/13->・・・昼
「到着〜」
いつもの買い物場所である商店街に着いた。
「何を買うんだ?」
「んっと三日分ぐらいの食事の材料だよ? 土日はお昼も要るしね」
たしかに明日と明後日は半日と休みだから家で飯食うしな。
「今日の夕飯は何にするんだ?」
「そうだなぁ、お兄ちゃんは何がいい?」
「うまいモノ」
「答えになってないよ? お兄ちゃん」
また真紅が頬を膨らませる、我が妹ながらなかなかに可愛い。
……やっぱ俺、シスコンなのかなぁ?
「結局、何がいいの?」
別段食いたいものってないしなぁ。
「ん〜、何でもいいぞ、俺は?」
「じゃあねぇ……カレーでいい?」
「何で?」
「作り置き出来るから♪」
ああ、なるほど。
「カレーでいい?」
「もちろんOKだ」
「じゃあ、カレーの材料買っちゃお♪」
真紅は早足で店に入っていった。
ちなみに俺はカバン持ちだったりする。
「そんな急がなくてもいいだろに……」
俺も真紅を追って店の中に入っていった。

<RECOLLECTION-7/13->・・・夕方
「たくさん買ったね♪」
ちょっと重いな……まぁ持てない重さでもないけど。
「じゃ、帰ってカレーを作ろうかなぁ」
「うまく作ってくれよ?」
「もちろん! 任せてよお兄ちゃん♪」
頼もしいセリフをありがとうマイシスター。
「じゃ、さっさと帰るか?」
「そうだねぇ、ちょっと遅くなっちゃたし」
真紅はケータイを開き時間を見る。
「5時10分かぁ、まだ明るいのになぁ」
「そうだな」
「日が沈んじゃう前に家に帰らなくちゃ」
そういって真紅は走り出した。
「チョイ待て走るな、俺は荷物持ってるから走れネェーって!」
「そうだったね、じゃあ私も持つよ」
「ありがと、じゃあ一袋持ってくれるか? 後、お前のカバンも」
「はーい、まっかせて♪」
「重いぞ?」
そう言いながら三つの袋から一つを真紅に手渡した。
――ついでに真紅の鞄も。
「むぅ、結構重いなぁこれ」
「さっき言ったろ? まぁ、俺はさっきまでその三倍持ってたんだけどな?」
「お兄ちゃんは男の子だからいいの!」
まぁそのとおりだけど。
「じゃ、帰るか」
「うん、行こ♪」
俺達は帰り道を歩き出した。

<RECOLLECTION-7/13->・・・夕方
家への帰り道……
「もうすっかり夕方だなぁ、夕焼けがきれいだ」
「お兄ちゃん似合ってないよ? そのセリフ……」
「酷い事言うな、まったく」
笑いながら冗談を言い合う、そんないつもどおりの帰り道。
【き――るか?】
ん?一瞬何か聞えた気がする。
「真紅、なにか聞こえなかったか?」
「え? 何のこと?」
真紅には聞こえてない、空耳かな?
「どうかしたの、考え込んじゃって?」
「いや別になんでもない、ただの空耳だろ」
「じゃあいいけど、それにしてもあと一週間だね♪」
「もう少しで夏休みかぁ、海にでも行こうか、みんなでさぁ?」
「それいいね♪ 海かぁ、新しい水着買わないとなぁ」
「去年も買ってなかったか?」
そう言うと真紅が顔を少し赤くしながら――
「だって成長してるし……」
あぁ――なるほど
確かに去年の夏と比べると出るとこが出てるようになったと思う。
ってどこのエロ親父だよ、俺は!?
「まぁ、別にお前が買いたいと思うならかまわないけどさ」
「買いたいって言うより、買わないと……」
「あぁ、もう! その話題はなし!」
「じゃあ何の話する?」
俺達は二人とも黙り込んでしまう。
話題がなくなっちまった。なんか話題ないかな?
「ってちょっと待てよ、終業式って20日だから今日は・・・」
13日の金曜日じゃねぇか、まぁ別に気にしないけど。
「13日の金曜日……えっと○ェイ○ンだったけ?」
「ジ○イソ○って、まぁどっちにしても不吉って言われてる日だ」
「そだね……」
再び沈黙。
なんか話題を……
「もうすぐ着くな」
「そうだね」
[ピシッ]
? 何の音だ、また空耳かな?
[ピシッ、ピシピシッ]
音が次第にはっきりと聞こえてくる。
「お兄ちゃん、今の何の音?」
今度は真紅にも聞こえるらしい。
真紅がぴったりとくっついてくる……
俺は音の聞こえる方に視線を向ける、そこには――
「お兄ちゃん何なの……あれ?」
俺が聞きたい所だ、あれは一体何なんだ?
どうして《何も無い》空間にヒビ(?)がはいっているんだよ……
[ミシッ、ミシミシッ!!]
ヒビが広がっていく……
そして何も無かったはずの空間から《何か》が現れた――

<SCENE002>・・・夕方
そして、現在に至る訳だが――
どうする、真紅が逃げてまだ一分ほどだ。
まだ、このバケモノをひきつけておく必要がある。
【―――が、我――――と――モノか?】
こんな時にさっきの空耳?
いや……空耳じゃないのか? なら一体何なんだ?
バケモノの振り下ろす爪がまたも頭上から迫る。
何とか攻撃をかわして次の一撃に備える。
力の無い自分に腹が立つ。
攻撃をかわせても倒せなきゃ意味が無いんだ。
倒せなければ逃げても追ってくるだけだろう……
回避できる安堵からか先程までの恐怖は消えている。
【貴様が、我が主となる者か?と聞いている】
「何?」
何の声だ? さすがにあのバケモノの声ではない事は分かるが。
それなら、一体何の声だ?
【再度問おう。貴様が、我が主となる者か?】
「どういう意味だ!」
何処にいるかも分からない誰かに向かって叫ぶ。
【ふむ、言葉どうりの意味だが?】
「それじゃぁ、わかんねぇだろ!」
またも頭上からの一撃……それを横に飛んでかわす。
さっきから凶器を振り下ろしてばかりいる、頭が悪いのか?
【我と契約する者か? と聞いている】
「契約?」
訳の分からないことを言う。それ以前に未だに姿を見せない。
【そう、契約だ】
「そんなことして何になるんだよ!」
【少なくとも……あの階位の魔獣なら瞬殺出来るであろう】
「本当か!」
ソレが事実なら今すぐにでも契約をしたいところだ。
【事実だ……しかし、素質のある貴様に声をかけたのは我だが――】
「一体なんだよ! 俺はコイツを倒さなきゃいけないんだ!」
【契約をする前に聞いておく……貴様はなぜ力がほしい?】
理由なんて決まってる。
【生きたいからか?】
ソレも無い事はないけど違う、俺が力を求める理由は一つ。
「俺は、妹を……真紅を守れるだけの力が欲しいんだ!」
【そうか……純粋な、そして強い意志を持った願いだな……】
「で……結んでくれるのか? 契約とやらを?」
【分かった、ここに契約を結ぼう。】
【我が主となる者よ、我が名は《創造》、汝の名を告げよ】
「俺は紅蓮、一宮紅蓮だ!」
【では紅蓮よ、我は今より汝の刃となろう。契約はここに成立だ】
《創造》がそう言い放つと瞬時に銀の光が俺を包み込んだ。

to be continued・・・

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