‡小説‡
『その腕の中の幸福』(5)
ボフンッ!!!
爆発音と共に、目の前が白煙に包まれる。
その白煙が晴れると、見慣れた(十年前の)綱吉の部屋にいた。
「帰って来たのか…?」
ホッとしたような…、どこか残念なような、もっと色々話したいことや聞きたい事は沢山あったハズなのに……
(「とゆーか、最後に何か、スゴイ事をされた気がする…」)
(「…額が熱い…」)
と考えを巡らせていると、
バタンッ!!!
勢い良く開けられたドアの向こうには、先程まで話していた綱吉よりもずいぶん幼い表情の、自分が良く知る綱吉が、大きな瞳をさらに見開きながら佇んでいた。
その腕には、何故か救急箱が抱えられている。
「じ、十代目!!?
お怪我でもされたのですか!!??」
ガコンッ!
先程まで綱吉の腕に大事そうに抱えられていた救急箱は宙を舞い、次の瞬間、今にも飛び付かんばかりの勢いの獄寺より先に、その体は小さな細い腕に抱き締められていた。
(「えっ…?
ナニコレ??
デジャヴュ???」)
真っ赤になりながら、出した手を右往左往させていると、獄寺の胸に顔を埋めていた綱吉が甘えるように擦りよってくる。
途端に、面白いくらい跳ね上がる獄寺の心臓と脈拍。
「じ、じじじじ、十代目ぇ???
(なんだコレ!なんだコレ!!
このままでは理性が保てん!!!)」
獄寺が1人ワタワタしていると、獄寺の胸に顔を埋めていた綱吉は、大きく息を吸って、大きく吐き出すと、顔を上げた。
その頬には、涙が流れた筋があり、未だ涙を溜めたままの瞳で獄寺を見つめていた。
『プチンッ!』
獄寺は頭の隅で何かが切れた音がした。
「十だ「獄寺君!!!」」
何かが切れた音と共に力一杯綱吉を抱き締めようとした獄寺の腕は、より大きな綱吉の声に阻まれる。
「獄寺君…」
「は、はい。十代…目…」
綱吉の、そのあまりに真剣な瞳に見つめられ、獄寺は思い出す。
(「俺は、この瞳を知っている…。」)
先程まで、自分が魅了されていた琥珀色の瞳を思い出していると、少し腕を緩めた綱吉が不安そうに声を発した。
「獄寺君…、ドコも怪我無い?」
「は…?
えっ?ええ、お陰様で、元気過ぎるくらい元気ですが…」
「…そっか、良かった!」
大きく溜め息を吐くと、満面の笑みを零し、獄寺から腕を放す綱吉に、勿体無さを感じながらも、獄寺は渋々ながらに腕を下ろした。
2人は、先程放り投げた救急箱を片付けていた。
綱吉はフと「10年後の獄寺君に会ったよ」と話し始めた。
「10年後の俺っスか」
「うん!
なんか、背も高くて……か…格好良かったよ///」
「(カァァァ///)
そ、そうっスか!」
(「…しかし…、あんまり10年後の自分ばかり誉められるのも面白くない……
…が…
頬を赤らめながら、一生懸命に俺に話してくれる、十代目が…
…か、可愛い…!!」)
綱吉の話を聞きながら明後日の方向に考えを巡らせていると、先程まで忙しなく動いていた綱吉の手がピタリと止まり、動かなくなった。
「じ、十代目…?」
「あのね、獄寺君…。
これは、きっと俺のワガママなんだけど…
でも…」
「…?」
「俺に、『隠し事』はしないで」
獄寺は再び、強い琥珀色の瞳に射抜かれて動けなくなった。
「もし…
もしも、何かツライ事があったり。
何か…怪我とか…したり…。
そういう事…隠さないで欲しいんだ…」
そう言うと綱吉は、ダイナマイトや喧嘩で出来た火傷や傷だらけの獄寺の手を取り、大事そうに両手で包み込むと、祈るように自分の額に持っていき、
「『キミを大事に思っている人間はいるんだよ。自分を大事にしてね』」
と、祈るように囁いた。
獄寺は眼を見開いた。
それは、先程確かに10年後の綱吉に言われた言葉だった。
(「この人は、10年も…こんな気持ちを自分に持ってくれているのか…」)
途端に、色んな感情が込み上げて来て、獄寺は空いている腕で、綱吉をスッポリと包み込んで抱き締めた。
「十代目…。
ありがとうございます、十代目。
俺は貴方にそんなに想って戴いて…。
本当に、本当に倖せ者です。
俺にとっての倖せは、貴方の傍で、貴方を御護りする事。
この腕の中に…
俺の世界に貴方が存在している事が、俺にとっての一番の倖せです。」
獄寺は、しっかり握り締められて放される事の無い綱吉の手に、柔らかい口付けを落とした。
「俺と出逢ってくれて、ありがとうございます!十代目!!」
照れた顔で、いつものように笑顔を向ける獄寺に、綱吉も安心したように、花の咲くような満面の笑顔を向けた。
(「……獄寺君……
10年後の君が、俺に怪我を隠そうとしてた事、気付いてたんだよ。
…だから……
10年後の俺が、君の怪我を気付かないワケないんだ。
…だから…
『隠し事』なんてしないでよ。
どんな事でも、俺はちゃんと受け止めるからさ!
この腕だけは、絶対に放さないよ!!」)
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