[携帯モード] [URL送信]

‡小説‡
『その腕の中の幸福』(4)





(「…え〜っと…、
この状況は…いったい……」)


普段は無駄に良い頭も、今のこの状況の中、上手く機能してくれない。


(「…なんだ…?
何だか心地良いのは…分かる。
何だか…安心するというか…ホッとするというか…

…イイ匂イガ…スル…?」)


少し視線を落とすと、自分の前で交差されている白い腕。


そして、自分の頬を擽る…柔らかな琥珀色の髪……?




そして、やっと理解する。

自分が綱吉に後ろから抱き締められている事を!


「じ!じじじじじゅぅだいめぇーー!!!」


「はぁい?」


綱吉は、そんな獄寺に構わず今度は獄寺の頭を撫で始める。


まるで、ぐずる子供を宥めるように…


こんな、小さな子供の様に扱われている恥ずかしさだったり、綱吉に抱き締められている現実を認識してしまった事にワタワタと慌てていると、

だんだんとその触れ方が、子供を扱っているソレとはまた違う何とも言えない優しさが籠もっている様に感じ始めた。


「じ、十代目?」


綱吉の表情を伺おうと振り返った獄寺は、綱吉の顔のあまりの近さに驚き、顔を真っ赤にさせる。


すると、楽しそうに笑う綱吉は、


「そういうトコだよ」


と、優しく言うと、獄寺の美しく輝く銀の髪を鋤きながら話し始めた。










「10年後のキミはさ…やっぱりマフィアなんだよね。

仕事上、表情だったり、情報だったり…隠さなきゃならない事も、色々増えてくる訳だよ。

それは、ちゃんと分かってるし、それでも、大事な話や内容は、きちんと話してくれるし、仕事も期待以上にこなしてくれるけど………」


「………」


ふと黙り込んだ綱吉が心配になり、獄寺が声を掛けようとした時、今まで優しく自分の頭を撫でていた手が急に放れていき、次の瞬間、獄寺の両肩に『バンッ』という音と共に、重い衝撃が走った!


(「ぐぁっ!!」)


「…ケド……本当に……
…オレを何だと思ってるんだか…!
10年後のキミは!!
…大事な…1っっ番!大事な事を隠すんだよっ!!!」


(「い、いたっ!痛いっス!十代目ぇ!!」)

綱吉は、獄寺が痛がっているのには構わずに続ける。


「本っ当に!

キミは!!
怪我とかしても、言わないんだよ!
隠すんだよ!俺には!!

後から、リボーンや、山本や、良平さんから聞かされて、気が気じゃないコッチの身にもなれ!って言うんだよ!!

それだけならまだしも、部下まで知ってるのに、オレが知らされてないなんてー〜っ!!!!!」


あまりの剣幕に、獄寺は恐怖に固まるしかなかった。

10年後の自分を怨みながら…。




しかし、次の瞬間。綱吉は再び両腕で獄寺を抱き締めると、今まで力の限り掴んでいた獄寺の肩にそっと額をのせ、


「………怪我の心配くらい…させてよ……」


と、淋しそうに呟いた。




その『音』は、獄寺が今まで聞いたことのない声音だった。
あの10年前の彼からは想像出来ない。
それより何より、今まで自分に向けられた中でも、聴いた事の無い『音』だった。

それは聴いているこっちの方が、痛いような…、苦しいような…、哀しい…泣きそうな………。




自分にそんな声を掛けてくれる綱吉に対して、申し訳無さだとか、嬉しさだとか、切なさだとか、

……愛しさ……

色んな感情が入り混じって、自分を未だ固く抱き締める綱吉の腕に、そっと手を置くと、それが当然のようにその上に綱吉の手が重ねられ、優しく撫でられた。












暫く獄寺の手を撫でていた綱吉は、小さく

「…ゴメンね……」

と呟くと、その手をポンッと叩いた。


「実は、今日はね。久しぶりに獄寺君に会えるハズだったんだ」


「えっ!?」


「10年後の、ね」


獄寺が振り返ると、そこには10年前の面影を残したままの、悪戯っポイ笑みを浮かべた綱吉がいた。

その瞳には、先程の哀しみの色は残っていない。


「今回は、ちょっと長期の仕事に出てもらっててさ、それがやっと終わって、今日帰って来る予定だったんだよ。」


「そ、そうなんですか…」


哀しみの色は無くなったが、未だ獄寺に重ねられた綱吉の手は放されない。
綱吉の話を聞きながらも、獄寺は自分に重ねられたその柔らかな感触に慌てていた。

その時、フと思い出す。この部屋に入ってまず気になった、自分以外に用意されていた2脚のカップ。

「…あの…カップ…」


その時の事を思い出す様に呟くと、綱吉は再び「フフフ」と嬉しそうに笑う。


「だから言ったじゃない、あれは『獄寺くんのだよ』って」


「そ、そういう意味だったんスか!!!?」


やっと合点がいったと納得した獄寺は、もう1つ大事な事を思い出す。

あの時…


自分がこの部屋の前で受けたあの『殺気』。
今までマフィアの世界で生きてきた自分でさえも感じた事のない、強烈な『殺気』。




もしも、10年後の自分が帰って来る事が分かっているのなら、あの『殺気』は…いったい…誰に向けられたものだったのか……


「キミだよ」


「っ!!!!」


「何だか、だんだん思い出してきた?」


「ごめんね」と言うと、綱吉は申し訳無さそうに苦笑する。


「うん。あの『殺気』は、キミに向けたものだよ。

でも、あれはキミも悪いからね。

仮にもマフィアのボスの執務室の前で爆発音がして、そのままドアのノブに手を掛ける気配がするんだから、警戒するのは当たり前でしょ?」


(「そ、そりゃあそうだ!!!」)


「とんだ失態だ」とばかりにうなだれていると、さらに追い討ちをかける様に、


「本当はさ、今日は帰って来た獄寺君に1番に『おかえり』って言いたかったのなぁ〜。
ドアを開けたら10年前のキミがいるんだもん。びっくりしたよ。」


と可笑しそうに笑う綱吉に、いよいよ涙目になった獄寺は、とうとう土下座でもしそうな勢いだったが、それはしっかりと抱き締められている腕に阻まれる。


「いやいや、でもキミに会えて良かったよ。10年前のキミに会えて嬉しかった。」


綱吉は再び獄寺の頭を撫でると、獄寺の顔を上に向けさせる。
そして、優しさや力強さを込めた瞳で


「忘れないでね。キミを大事に思ってる人間はいるんだよ。自分を大事にしてやってね」


と言うと、獄寺の額に柔らかな感触を落とした。



[*前へ][次へ#]

4/6ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!