‡小説‡
『その腕の中の幸福』(3)
そっと顔を上げた獄寺は、自分の顔を目を細めて愛おしそうに見つめている優しい瞳と目が合い、その琥珀色の瞳に吸い込まれるような錯覚を覚えた。
そして、目の前の綱吉は、静かに
「フフッ」
と笑うと、
「君は…そのままでいてね…」
と、少し淋しそうにポツリと呟いた。
「えっ………」
獄寺は驚きに目を見開いた。
(「どういう…意味だろうか?)
綱吉の言っている言葉の意味が理解出来なかった。
いや、理解できない訳ではない。
『理解したくない?』
言葉の意味を理解しないように、心が拒絶するように、耳から上っ滑りするかのように、その言葉が頭に入っていかない気がした。
(「じ、自分はどこか変わってしまうのだろうか…
どんな風に…?
いったいどうなってしまうのだろう…?」)
先の見えない恐怖。
自分は自分ではなくなってしまうのだろうか……
(「もし…もしも…
十代目を哀しませる…
十代目が望まない…
自分が望まない、そんな自分に……?」)
しかし、自分が変わってしまう事よりも…
何より、綱吉を哀しませる事になるかもしれない……
綱吉にとって、必要の無い…寧ろ疎ましく思われる存在になるのでは……
それが一番、獄寺にとっては恐怖だった。
そんな不安を感じ、考え込んでいると、それを察した綱吉が慌てて声を掛ける。
「ご、ごめんね獄寺くん。
違うんだよ、別に深い意味じゃなくて…」
「す、すみません!十代目!!
決して十代目を謝らせたい訳では…」
どんどん落ち込んで謝り続ける(10年前の)獄寺が、自分の話を聞かないのを綱吉は良く分かっていた。
軽くため息を吐くと、綱吉はソファから腰を上げ、ゆっくりと獄寺の後ろへ回り込んだ。
そして、
「獄寺くん」
と、優しい声音で呼ぶと、
「は、はい!」
と、ソファで姿勢を正す獄寺を、
後ろからそっと抱き締めた。
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