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‡小説‡
『還るべき場所』(7)









「じゃあ、お疲れさん!これは、預かっとくぜ。

……お前も少しは休めよ」


「…はい…。失礼します。」






書類を渡し、軽く一礼した後、背を向けてうなだれて歩く男の後ろ姿を見送ると、






「………ふぅ…」







手渡された書類の束に、重苦しく溜め息を吐いた。







先程、俺に書類を渡しに来たヤツは、獄寺の部下だ。


獄寺に渡すハズの書類なのだが、「獄寺が見当たらない」と、俺の所へやって来たのだ。










『あの日』……







『あの日』以来、全てが変わってしまった。




俺達を取り巻く空気…

それに伴い、ボンゴレ内に漂う空気…






中でも、獄寺の憔悴の仕方は尋常ではなかった。


部下も畏れ、近付けない程に殺気立っている日さえある。





『あの日』以来、獄寺はまともに眠れていないようだ。


自分ですら、酷く憔悴しているのだから、獄寺が荒れるのは仕方が無い事なのかもしれないが……





何にしろ、このままの状態が続けば、ミルフィオーレどころの問題じゃなく、ボンゴレは崩壊しかねない。



『こんな時』…


『こんな時』だからこそ、俺達『守護者』がしっかりしなけりゃいけないんだが……







『パサッ』




「ぉおっと!」




ボーっとしていたせいで、書類を数枚落としてしまった。



書類に並んだ歪なイタリア語を見て、また1つ溜め息を零す。













『本当…困るんだよね』






(「はは…全くだ」)




こんな時だというのに、自分の口から笑いが零れた。







そういえば、以前…ツナがぼやいていたっけ…

























「本当…困るんだよね〜」


「ん?どした?」




ボンゴレ日本支部のアジト。


ボンゴレ10代目ボスの執務室だというのに、山本はコーヒーを啜りながらフカフカなソファで寛いで座っていた。





目の前には、重厚な机の上で頬杖をつきながら拗ねた様子で唇を尖らせ、持っていたペンの柄で頭を掻く、ボンゴレ10代目ボスがいた。




成人男子にしては華奢なその青年の可愛らしい姿からは、彼を知らない人間からしてみれば、彼がイタリア最大級のマフィア、ボンゴレファミリーの10代目ボスだなんて事は想像もつかないだろう。




しかし、この愛らしい表情の青年が、一度戦闘となると凄まじい炎を纏い、力を発揮するのだから恐ろしい。
ファミリー内の人間であっても、未だに驚きと恐怖で腰を抜かす者さえ居る。





(まぁ、腰抜かして動けなくなるようなヤツが居たら、獄寺から「邪魔だ!!」と、強制的に戦線離脱を申し渡され、蹴り出されるんだが…)





「そんで?何を困ってるんだ?ツナ」




ボンゴレ10代目ボスの名をこんな風に呼べるのは、自分が彼の守護者であると同時に、彼の10年来の友人だからだ。


自分にとっては10年前から当たり前だったその関係−。

そんな自分の立場を羨む者さえいるのだから滑稽だ。


(「ツナが俺の友達で、俺がツナの友達なのは、当たり前の事なんだがなぁ…」)


そう言って、綱吉の肩に自分の腕を掛ける度に、獄寺に激怒されていたわけだが−。




「…うぅ…、見てよこの書類…」


綱吉は、未だ頭を掻きながら睨み合っていた書類を山本の目の前に差し出す。


ソファから腰を上げた山本は、その書類を見ると首を傾げる。






「なんじゃ、こりゃ?」


「でしょう〜!俺も人の事は言えないけど、読めないんだよ〜!コレ!!」


「オレも、人の事言えねぇけど、こりゃヒデェな!」




眉をハの字に曲げて苦笑する綱吉に、山本は書類の文字を見て大爆笑する。




歪に歪んだイタリア語らしき文字で書かれた書類を山本から受け取ると、綱吉は盛大な溜め息を吐いた。




「途中までは、解読したんだけどなぁ…」


再び書類に目を通しながらペンの柄で頭を掻く綱吉に、山本は笑いながら話しかける。




「なぁ、ツナ。獄寺は?」


「は?」


「獄寺の書類ってどんな感じ?
あいつ、字ィ綺麗だろ?」


暫し逡巡した後、優しく顔を綻ばせた綱吉は


「うん。獄寺君のは、読みやすいよね」


と、嬉しそうに笑った。



「ははは!そっか!!
でも、思い出して欲しかったのは、『獄寺の書いた書類』であって、『獄寺の顔』じゃなかったんだけどな!」



ずっと、眉間にシワを寄せていた綱吉が、『獄寺』という単語でこれほどまで簡単に笑顔になるのが可笑しくて、少し意地悪く切り返すと、



「う?えっ!?な、ななな、何言ってんのー!!?」



顔を真っ赤にしながら怒る綱吉が可笑しくて、山本はまた笑った。



『コンコンッ』



すると、お約束通りに、お約束通りの人間からのノック音。


「10代目、獄寺です」


「っ!!! …〜!!」


ますます顔を真っ赤にさせてワタワタする綱吉が、可笑しくて、

山本は更なる悪戯を仕掛ける。



「おぅ!入って来いよ、獄寺!」


「なっ!?」


「……。」




暫しの沈黙の後、「失礼します」という言葉と共に、部屋のドアが開かれる。



「…山本…」


「よっ!獄寺!!相変わらず、機嫌悪いのな!」


眉間にシワを寄せたまま、不機嫌さを包み隠さず、獄寺が山本を睨みつける。



「なんで、てめえに入室許可されなきゃいけねぇんだよ…」


「え〜、だってツナが中々返事しねぇから〜」


「なっ!」


「ぅえ!?オ、オレのせい???」


「じ、10代目ぇ〜!?」










そんな2人のやり取りを見ているのが好きだった。





「あはははは!!じゃあ、邪魔者は退散するぜ!

獄寺!ツナが可愛いからって、ムチャすんなよ!」



「んな!!何言ってんのー!!////

ちょっと!なに黙ってんのさ!!
獄寺君も、否定してよね!/////」


「…えっ?…いや、ヤツも目賢くなったなぁと…」






山本がドアを閉める時に、

『バシーンッ!!』

部屋には、軽快な音が響き渡っていた。















俺達には、3人で居る事が『普通』で、

3人で過ごす事が、当たり前な『日常』だったんだ−。








なぁ……ツナ……

お前は、俺達に何をさせたいんだ?




お前は、何をしたかったんだろうな…










再び、歪に並んだイタリア語の文字を見て現実に引き戻された俺は、深いため息をつくと、


毎日、綱吉の柩の元に通う獄寺の姿を思い出していた−。





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あきゅろす。
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