‡小説‡
『還るべき場所』(2)
「10代目…」
(「何?獄寺君。」)
「10代目…」
(「ご、ごめん!獄寺君。この書類…手伝ってくれない?」)
「…10代目…」
(「なぁに?隼人?」)
「…10代目……」
(「………」)
「…10代目……」
「……じゅ…う……」
どこに居るんですか?
『コンコン』
『コンコン』
彼の人の部屋の前。
いつも起きられる時間に立ち寄り、扉をノックする。
『コンコン…』
「………」
返事を貰えない事は分かっている。
なんだか、頭が重い。
ああそういえば、ここ数日ちゃんと寝ていなかったか…
でも、仕方ない。
ベッドに入って、横になってみても。
キツい酒を煽ってみても。
気分が悪くなるだけで、一向に眠くならない…。
『コンコン』
「10代目」
『ガチャッ!ガチャンッ!』
ドアのノブを回してみても、堅い音が響くだけで扉は開かない。
そうか…
そういえば、あの日10代目は出掛けられる前に鍵を掛けて行かれたんだったか…。
『ガチャ!ガチャッ!!』
「なんで開かねぇんだよ!!!」
「おい!獄寺!!」
扉を壊すような勢いでノブを回していた獄寺を、山本の声が制する。
「…んだよ!!」
相手を殺すかの勢いで睨んでみたが、睨まれた本人に、怯んだ様子はない。
いつまでも扉のノブを掴んで放さない獄寺の腕を強く掴むと、山本は静かに声を発す。
「…あのな。この部屋の鍵が無くなったらしくてさ、なんだかこの扉、開かないらしいんだわ」
「……で…?」
「うん…。ツナ、さ。どこに持ってったんだろうな」
「………」
「開けて欲しく…ないんかな…」
「っ…!!」
お前に何が分かる!
と睨もうとして山本の顔をみると、そこには自分と似て非なる焦燥感を纏った瞳が揺らいでいた。
あぁ、そういえば。
10代目にとって、こいつも大事な存在なのか…。
そして、こいつにとっても…。
俺達は想いは違えど、各々の想いを持ち、あの方を見護って来たのだ。
「…くそっ!!」
扉のノブから手を放すと、力無く山本の腕を振り払った。
それに抵抗する事無く、山本も獄寺の腕を放した。
その場から立ち去ろうとする獄寺に、山本は声を掛ける。
「おい、獄寺」
「………」
返事をする代わりに立ち止まると、
「お前…大丈夫か…?」
答えなんて分かりきっているだろうに、それでも声を掛けずに居られない。
振り返る事無く立ち去る獄寺の背中に、山本は胸の中の重みを吐き出すように、溜め息を零した。
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