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暖めてねよう(TF3二十代)

その事を知ったのは本当に偶然で、その事実に驚きと戸惑いを覚えながらも、心の中の何処かでは「あぁ、やっぱしな」と納得した自分が居たのは確かだった。だから、隠していた事に憤りも淋しさも悲しみもなく、簡単に受け入れていられたんだ。






「ほら、辛いんだろ?」

顔を青白くを通り越して、死人みたく真っ白に血色の引いた今にも倒れこみそうな表情で教室の壁に寄り掛かる水鶏の肩に手を回す。目は虚ろで呼吸も浅く早い。脂汗が滲んだ額からは幾筋もの汗が蟀谷を伝い、整った顎先から垂れる。よくこんな状態で立っていられると呆れを通り越して尊敬を抱くが、それよりも早く休ませなくてはと肩に回した手に力を込めれば、予想よりも細い肩の線に驚いた。
でもよく考えれば当たり前で、ブルーの制服を纏い、常に成績がトップを歩き女子に人気だろうと、こいつは――……


「じゅう、だい……?」

「ん、保健室まで歩けるか?」

「……あぁ、なん、とか……」

「辛かったら言えよ?運んでやるから」

悪いな。そう弱々しく微笑む顔は、男にも女にも見える。水鶏のファン(結構多い)は中性的な其処が良いと誉め讃えるが、俺もその意見には賛成だ。(まぁ、少しはらしくなっても俺はいいと思うけど)
授業の終わった放課後。退屈な授業が終了したその時間帯、卒業模範デュエルが開催された今、残っている生徒は少ない。その殆どは最終戦に残る為にデュエルに勤しみ、学校の外で戦う賑やかな声が静かな校内にこだます。
朝から調子の悪そうだった水鶏は翔やヨハンに心配されながら教室に現れ、授業中も具合が悪そうにしながらも、律儀にクロノス先生の声に耳を傾けていた姿は俺も見習うべきだろうか。だが生憎と講義よりも実践で覚えるタイプなので、成長しても其処は変わらず怠けている。退屈な授業が終わり、漸く解放された俺が水鶏の方を振り向けば、心配する翔やヨハン、明日香や剣山に心配ないと全く信用出来ない笑みで、各々のパートナーの下へと追い出す水鶏が居た。今回俺達は面白い程、普段のメンバーとタッグを組まなかった。それは互いと戦いたいからと云う考えからだが、こんな時はタッグを組んでおけば良かったと心底思う。
十代も行ってこい。翔達が後ろ髪引かれる思いで教室を後にした後、未だ残る俺に水鶏はそう笑った。
俺のパートナーは一年のブルー寮生。水鶏のパートナーは一年のイエロー寮生。皆は水鶏に、明日その分を取り返せばいいんだから今日は休めと寮に促したが、水鶏の事だ。少しでも調子が戻れば待っているパートナーの下へと行き、島中を回るに決まっている。その証拠に、未だパートナーに連絡を入れていない。俺が行ってから連絡すると言いだしそうだから云わないが、そんな朝から今まで全く回復した兆しすら見せなかった状態で少し戻るなんて、それはどんな状態なんだって云うんだ。
苦笑いを浮かべる水鶏に辛かったら呼べよと携帯を指差し、小さく頷いたのを確認すると、俺は水鶏だけが残る教室を後にした。










「悪ぃ、今日急用があって無理なんだ。……悪いな、あんたも」

互いのパートナーが同じ学年で良かった。教室を後にした俺が真っ先に向かったのは、自分のパートナーの下。水鶏の様子が心配でデュエルどころでなくなるのは分かり切っているので、悪いが今日は無理だと断りを入れに来たんだ。まさか其処に水鶏のパートナーも居るとは思わなかったが、まぁ、同じ一年なんだから、教室が同じなのも頷ける。
断りの言葉を当たり障りのない事にしたのは、水鶏の事を考えて。下手に心配されるのが嫌いな質なので、怪訝な顔をされるのを承知でそう云えば、案の定水鶏のパートナーはしかめっ面を張り付かせて納得は出来ないと表にありありと出しながらも、頷いてくれた。まぁ、パートナー本人から断りを云われなく、水鶏の友達とは云え、他人に云われたんだ。気に食わないのは分かるが、こちとら先輩でもあるんだ。その明ら様な態度はどうかと思うぞ。

「そう、ですか。分かりましたと雲雀先輩に伝えて下さい。……でも、遊城先輩は分かりますが、雲雀先輩はどういった用件なんですか?」

俺なら分かるって、喧嘩売ってんのかてめぇ。水鶏の手前(あと一応俺のタッグパートナーの為)、顔面の筋肉をフル活動させて苦笑を作っているが、頬の筋肉は若干限界が近い。
それは何か、俺が厄介事を撒き散らしているから急用があっても驚かないが、水鶏は違うから心配だとでも思っているのか?……はぁ、まぁ強ち間違ってないからそれ程苛立ちはしないが(でも怒ってるって?)(当たり前だ。こんな一年もアカデミアに居ない餓鬼に俺の事が分かってたまるか)、水鶏に対するその考えは改めた方がいいぜ(丁寧に教えてやる気なんかねぇが)。

「卒業後の進路相談だろ。あいつ、まだ決めかねてるみてぇだから」

「えっ!?そうなんですか?俺はてっきり天上院さんと同じ、教師になるとばかり……」

驚く水鶏のパートナーに、俺の方が驚く。あいつ、そんな事微塵も言ってなかったぜ。つか、なんで明日香と同じ教師?
水鶏の性格を考えれば、憧れと羨望を抱く従兄のヘルカイザーと同じプロか、新しい可能性を見つける為にとか言って、大学に行きそうだ(なら俺と共に旅に出ないか)(なんて、人外になり果てた俺には言えない)
あいつはデュエルは好きだが、何処か三沢と同じシステム開発の方に興味を示していた。三沢が冗談だか本気だか分からないが、ライディングデュエルの定義を楽しそうに話していた時、一番に食い付いて盛り上がっていた記憶があるから。

「そうなんですか。すみません。俺達は全然平気ですので、雲雀先輩には気にしないで下さいと伝えて下さい」

「あぁ、伝えとく」

俺を疑って済まなかったのか、水鶏の伝言を伝えに来た俺への礼なのか。
どちらか分からないが、取り敢えずこのイエローの寮生とは気が合わないだろうと云う事は、分かった(敬語で下から目線だが、敵意の交じった目が気に食わない)











一年の教室から三年の教室に戻り、水鶏が居なければ保健室かトイレ(今にも吐きそうだった)だろうと憶測を付け、静かに教室のドアを開ければ、

「っ水鶏!」

覚束ない足取りで頑張ったのか、入り口近くの壁に立ってはいるが上半身を預けた状態の水鶏が居た。遠目からも分かる程に先程よりも状態は悪化し、起きているのが水鶏の意地かプライドか分からないが、そんなものとっとと捨てて気を失ってしまえば楽になれるのにと、俺は血の気が引いた水鶏に慌てて駆け寄った。

「…悪ぃ。最近、寝不足、でさ……」

嘘付くな。そう一言で切り捨てて、本当の事を水鶏の口から直接聞きたい。なんでこんな状態なのか、俺は本当は分かっている。翔やヘルカイザーは勿論分かっているから、こんな時どんな対処でどんな言葉を掛ければいいのか分かって、凄く悔しい。
内にいるユベルなんか、「そんな気遣いなんて捨てて、的確な対処すればいいんだよ」と、俺に呆れた声を上げている。
そうしたい。本当はそうしたいが、それは水鶏の意志に反する。水鶏がどうして『男装』してこのデュエルアカデミアに入学したのか分からないが、それは何らかの理由があったから。なかったら、女子として入学している。それは多分、水鶏にとってとても重大な事だから、俺が易々とそれを暴いてはいけない。何時か(それこそ卒業した後もないかもしれないが)話してくれるまで、待つしかないんだ。


「水鶏君!?」

「鮎川先生。すみません、今朝から水鶏の様子が……」

「えっ、…あ、……うん、そう、そうだったわね。有難う、十代君」

開いている清潔なベッドへと水鶏を横たわせると、鮎川先生は薬品の並んだ棚から一つの薬瓶と水をコップ入れ、蹲る様にして毛布に包まる水鶏に差し出した。

「うん、もうこれで大丈夫よ」

「……」

「まったく、調子が悪くなったら直ぐに来なさいって昨日言ったのに……。あっ、えーと、実は水鶏君、ちょっと風邪気味で……」

「風邪だったんですか?あー、それに寝不足が重なって悪化したと。――ったく、水鶏の奴、俺や翔には口煩いのに自分はどうなんだよ」

「仕方がない子よね。さぁて、水鶏君は私に任せて大丈夫だから」

錠剤を二粒口に含み、水と共に飲み干すと、余程調子が悪かったのか、直ぐ様目を閉じて寝る態勢に入った水鶏。それを見届けると、鮎川先生にそれとなく出ていけと雰囲気で押された。まぁ、素から水鶏を保健室に届けたら出ていくつもりだったからいいが。最後に水鶏の柔らかな髪を撫で上げ、俺は保健室から出ていった。







「女の子って、大変なんだな」

『しょうがないよ。それが"母"になる為なんだから』

改めて、女の苦労を再認識させられた。






※まぁ、生理痛って辛いよね。って話

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