格好良いイトコ(TF3翔) 僕にはお姉さんがいます。(お姉さんと云っても従姉で同い年だけど)お兄さんの様に頭が良くてデュエルも強い、同じデュエルアカデミアの一年生。お兄さんよりも黒に近い藍の髪に、黒灰の瞳の可愛いというより格好良い人です。 「う…、全然分からない」 閉じられた目蓋にでかでかと黒目を描いて寝ている十代の横で、翔は説明される錬金術理論に頭を押さえた。卑金属から貴金属を精錬、人間の肉体を構築する人体錬成。一般的な人が知る錬金術の話から、専門的な難解な用語を用いた錬成方法。これらの一部は現代化学でも実現可能ですが、大半は倫理的にも理論的にも実現は不可能だにゃ―。なら授業しないで下さい。そう大徳寺先生に言えたら、どんなに楽だろうか。 「水鶏ぁ、教えて〜」 「ん?何処が分からないんだ」 十代とは反対側、自分の左隣に座る水鶏に翔は情けない表情で小さく助けを求めた。分からないのなら、分かる人に聞く。聞いても理解出来るかどうか怪しいが、もう直ぐテストなのだ。最悪テストが終わる迄、覚えていたらいいや感覚である。それが分かっているらしい水鶏は苦笑を浮かべながらも、軽く翔に体を寄せて広げられたノートに視線を移し――固まった。 「この図面、なんだ?」 「え?あ、うん、これは昨日の授業中にデッキの構築してて……。でもこんな手じゃこういった時、このカードがなくちゃ手札事故起こしちゃうから……あぁ、もう、全然駄目なんだよ」 「久しぶりに真面目に授業受けていたと思えば」 苦笑いから呆れに。仕方がないじゃん。全然授業分からなかったし、新しい手を考え付いたんだから。 そう非常に情けない愚痴を零した翔に水鶏は柳眉を潜め額に左手を添えると、盛大にため息を吐き出した。 ――ため息吐きたいのは僕の方だよ。 優秀な兄に、同じく優秀な従姉。なのに優秀ではなく、落ち零れの中の落ち零れの自分。なんで従姉で、実の兄弟でこんなに差が出るのか。昔から優秀な二人に、凡人な自分は自分なりに努力をした。二人の隣に立ちたいから。 他人から見たら努力した部類には入らないかもしれないが、それでも自分は出来る精一杯の努力をし、このデュエルアカデミアに入学した。入学してもレッド寮生と云う下位の生徒だが、それでも頑張っているんだ。 「……なぁ、翔」 「……なに?」 眉を潜め、普段よりも低い声で返す翔に水鶏は軟らかい笑みを浮かべると、難しい問いを掛けてきた。 「金を錬成出来ると思うか?」 「金、を?……出来ない、と、思うけど」 昔の、錬金術師の最終目標の一つ。道端に転がっている石から金を生み出す錬金術。人体錬成などよりも実現しやすいとは思うが、実際に成功していれば金の時価はかなり安くなっているので、成功はしていない。と、思う。 というか、そんなの錬金術の簡単な授業すら分からない自分に分かる筈もないもん。そう怒りにも似た感情で吐き出す様に答えれば、水鶏は甘いなと右の人差し指をちっちっと振った。 「錬金術じゃないが、化学で金は作れるんだよ」 「えっ、本当!?」 「しっ」 驚きに声を大きく起ててしまい、慌てて訝しげにこちらを見る大徳寺先生に頭を下げて何でもないと返す。 「水銀にガンマ線を浴びせれば出来るんだ。まぁ、金の時価と金が出来るまでのコストを考えれば、儲からないみたいだけどな」 「そうなんだ」 「うん。そして更に驚く事に、錬金術が過程で生み出した成果を取り込んで生まれたのが、科学で化学なんだ」 凄いなぁ、錬金術って!今までよく分からないけど多分凄い事だって思ってたんだけど、本当は普通に凄いんだ。今の化学の基礎は錬金術でもあるって事か。 「へぇ、錬金術ってすげぇんだな」 「あれ?アニキ起きてたの?」 「んにゃ、今起きた」 なんか話し合ってるから寝た振りして聞いてみたら面白い話ししててよ。 笑いながら零れた欠伸を隠す事もせず、堂々と晒す強者。(流石アニキ) 十代は授業中でも相も変わらず、小声で話す翔と水鶏に半身を乗り出して加わると、笑った。 「つまりはさ、頑張れば夢は叶うって事だろ?」 「え、なに、その唐突な回答?」 「十代って頭が悪いのか良いのか分からないよな」 誉めるなよ。と照れる十代に誉めてないっスよと教えてあげる。が、一体今までの会話の何処に夢の話があったのか分からない。首を傾げて水鶏、十代と視線を移してどういう意味なのかと問い掛ければ、十代に些か乱暴に頭を撫でられた。 「確か錬金術は等価交換が原則だろ?努力と云う対価に見合う結果が表れる。なにかで見たぜ」 「お前それジャンル違うから」 「ま、気にすんな。そんな事が言いたかったんだろ、水鶏は」 「言いたい事は合ってるが、何かが違う。……翔、授業を受けるのも確かに大切だ。だが、受けたからってそれをただ『聞いた』だけでは意味がないんだ。『理解』して初めて意味を成す。翔はデュエルを強くなりたいから頑張ってる。成果が出ないからって、自分を卑下してどうするんだ。結果は直ぐには出ない。少しづつ努力が実って、初めて成果が出る。なにも俺や亮兄も始めから強かったって訳じゃないんだぜ。努力して強くなったんだ。諦めず折れずに突き進め」 ……まぁ、デュエル云々はともかく、授業を真面目に受けろってのは、変わらないんだけどな 何やら用事があると、午前の授業が終了するなり教室を出ていった水鶏。このデュエルアカデミアでエリートの証たる、ブルーのコートをはためかせて教室を後にしたその背を眺め、翔は揺るまる頬を隠しもせず、にんまりと笑みを浮かべた。 「どうしたんだ、お前。にやけて気持ちが悪いぞ」 「うふふっ、万丈目君には分からないよ」 怪訝に眉を潜めて近寄ってくる万丈目に、その気持ちの悪いと言う笑みのまま笑う。すれば若干引いて、翔の隣で同じく笑っている十代に目線。机に頬杖を付いて楽しそうに翔を見ていた十代はそれに、 「にいちゃんのカイザーといい、『従兄の水鶏』といい、格好良い兄貴ばかりで羨ましいって話」 「アニキ!僕、絶対アニキより強くなってみせるッス!」 「へへっ、俺もそう簡単には負けねぇからな」 「……話の展開が全く見えんのだが」 僕にはお姉さんがいます。(お姉さんと云っても従姉で同い年だけど) お兄さんの様に頭が良くてデュエルも強い、同じデュエルアカデミアの一年生。お兄さんよりも黒に近い藍の髪に、黒灰の瞳の可愛いというより格好良い、デュエルアカデミアに男装して入学した、ブルー寮生です。 [次へ#] |