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とある魔術(上条)
※痛い厨二設定で書きたくなったので。








確かに聞いた事はある。上位の念動能力者は分子の質量さえ変える事が出来ると。だが、これも念動能力で出来る所業なのかと疑問を感じてしまう。公園の階段と排水溝の間の溝に落ちたなけなしの五百円玉を取ろうと躍起になっていた所に通り掛かった女の子。濃い藍の髪と瞳が強く印象的な容姿で、全体的に細い線が一瞬性別を不明に見せている。まるで昼と夜の境に広がる一瞬の色彩を宿した女の子は、情けない表情で溶接された鉄の蓋と格闘中の自分を不思議そうに覗くと、次に底に見える五百円玉に視線を移し、

「助けた方がいい?」
「ぜっ、是非お願い致します……ッ!」

まさに天からの助けを申し出てくれたのでございます。本当、有難うございます!事故と盗難を防ぐ為、正確に設計し設置された学園都市のあらゆる公共物は利用者が誤って怪我をしない様にとの考えから、出来うる限り段差や溝がない様な造りになっている。安全思考万歳なのは分かるが、もし自分みたいな小銭を落とす間抜けな人間が居たらどうするつもりなのだろうか。……いや、まさか誰も、自動販売機から十メートルも離れた排水溝に落とす馬鹿なんて居ると思わないか。そんな公園の入り口なんかで財布を出さないよな。

「ん、じゃあ、ちょっと待って」

女の子は自分に離れてる様にと指示すると腰を屈め、鉄で遮られた排水溝に触れた。空間移動系の能力、念動系の能力、電磁系の能力、どれか分からないが、排水溝に落ちた小銭を取る能力なんて限られている。溝を外すのか、小銭を浮かすのか、小銭を引き寄せるのか。ビリビリ中学生なら磁石を生み出して取り出すんだろうなぁ、なんて親切な女の子の好意に何度もお礼を述べながら見守っていたれば、信じられない光景が目の前で起きた。女の子が触れた鉄の蓋が、まるで砂の様にさらさらと崩れ落ちていく。それに色はなく、一昔にあった出来の悪い物が溶けるCGの様に、空間に溶け、消失していった。

「発火能力……じゃ、ないよな」

熱による融解でない。高温によって鉄が蒸発したとも思えるが、女の子の手の平からはそんな痕跡は見えない。それに発火能力なら触れた箇所以外にも融解しているが、それもない。綺麗に切り取られた様に、まさに『消失』している。空間移動系も、また、違うと思う。それなら蓋自体を移動させた方が早い。なら念動系……コレも小銭を浮かせた方が早い。

「はい、五百円玉」
「あ、有難うございます!本当に助かりました!」

女の子の能力に思考を奪われていれば、落とした五百円玉は既に救出され、にこりと、どっちかと云えば格好良い笑みで五百円玉は自分の手の中に戻ってきていた。なんでお前は勝手に俺の財布から転がり落ちるかな!?これはアレか!?今日の晩ご飯に卵は出すなって神のお告げか!!?
ちなみに五百円玉は今日の夜と明日の朝のオカズである安売り特売卵の資金である。Lサイズお一人様一つ限定で50円はもう価格破壊。続いてお米、肉類も価格破壊して欲しい。切実に。

「えっと、本当ならお礼の一つでもしたいんだけど、その恥ずかしながら全財産はこの五百円玉だけでありまして……はい」

何が悲しゅうて、オカズの救い主たる親切な人に心からの礼しか出来ないのか。肩を小さくし、申し訳なさに何度も頭を下げれば女の子はただの親切心だからと気を使い、遠慮してくれたではないか。

「いや、でもそれじゃ俺の気が収まらないからさ、次俺を見掛けたら声でもかけてくれ。ジュースか何か安い物で悪いけど奢りたいから。な?」
「……じゃあ、奢って貰う」
「サンキュー。あ、俺、上条当麻って云うんだ。逢った時に名前が分からないんじゃ、呼びようがないもんな」
「私は名前。名字名前。名前呼びでいい」
「名前か。本当に助かった、有難うな」

にこりと笑顔で返してくれた名前との最初の出会いがコレ。この二日後に無事再会を果たすのだが、やはり不幸属性は伊達ではなかったとその隣に立ちこちらを睨む人物を視界に入れ、世界は狭いと嘆かずにはいられなかった。






次は白い人。白い人夢、の予定?

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あきゅろす。
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