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折原臨也には気を付けろ(臨也)



「平和島、麗司さん、ですよね?」

今日も今日とて、弟に喧嘩を売って勝てなかった他校の生徒が悲しく虚しく屑らしく、弟――静雄の兄である自分にお礼参りに来た。馬鹿だろ。静雄みたいな奇跡的な腕力は持ち合わせていないが、こちらとらそれを補う程、喧嘩を売られた回数半端ないんだからな。ちなみに特技はカウンターと飛び回し蹴り。まだ一番下の弟、幽に被害が及ばないのは百歩譲って許せるが、それでも可愛いもう一人の弟に喧嘩を売る馬鹿共は許せない。静雄が何したってんだ。それに、喧嘩売った相手の身内や知り合いに矛先を向けるなんて下衆以下、蛆蟲以下の存在だ。………あ、蛆蟲といえば、最近静雄が蚤蟲蚤蟲煩い。同じ来神高校に入学出来たはいいが、入学から早々三日目にして上級生、つまりは自分の同級生に喧嘩を売られたのだが、其処で蚤蟲と出会ったらしい。静雄が嫌悪丸出しで罵る相手など珍しかったので聞くと、どうやら新羅の友人らしく、その一言で全てが理解出来る辺り、自分の新羅に対する認識が分かり切っている。――あぁ、面倒臭そうな奴なんだ。

「あ?」
「本当、シズちゃんにそっくり!あ、この場合は麗司さんにそっくりだと言った方が正しいかな?」

にこにこと、爽やかな笑みを浮かべて敵意がないと示す様に両手を広げ、ゆっくりと近づいてくる詰め襟の男。口調も穏やかで、足元に転がる無数の男達がいなければただ話し掛けてきた様に見えるが、その柔らかな言葉や物腰とは逆に、こちらを見据える目は冷たい。なんかムカつく。いや、生理的に受け付けない。相手を推し量り、見下している様な雰囲気が有りありと見て取れ、殴りたい。全力で。

「お前、誰?」
「あ、挨拶がまだでしたね。俺は折原臨也といいます」

丁寧に頭まで下げ、尚も近づいてくる『おらはらいざや』は伺う様に下からこちらを見上げると、にっこりと笑った。

「麗司さんは、仲良くしましょうね」
「………ッ!」

細めた目蓋から覗く瞳が一瞬、挑発する様に光り、考える前に体が無意識に動く。前屈みになっているその体躯目がけ、予備動作なしの蹴り。足の筋肉だけで振り上げた右足は『おりはら』の体を捕らえる事なく空間を空振りし、軽やかに後退した『おりはら』は一見危険で無礼なその行動に苛立つ訳でもなく、肩を竦めただけ。幼い頃から静雄絡みで喧嘩を売られていた賜物か、自分は理性よりも本能で動く時がある。頑丈でない体を護る為に、最小限の怪我で済む様に、危険を察知すると体が勝手に動くのだ。そのお陰で今まで大きな怪我などなく、こうして生きてきたのだが、まさかそれが発揮されるとは思わなかった。やや唖然としつつ、無意識に重心を移した体に合わせる為、思考も合わせる。『おりはら』が誰で何の目的があって自分の前に現れたか知らないが、

「『シズちゃん』と仲良く出来ない餓鬼とは、俺『も』仲良く出来ねぇな」
「あれ?シズちゃんから既に聞いたんですか?」
「いーや、名前までは聞いてねぇが、何となく一目見て思った。『気に入らねぇ』って」

だから、静雄もそうだと思ったんだよ。そう続ければ心から楽しそうに顔を嬉々と染め、倒れている男の一人の背を踏み締めると、表情とは正反対に苦々しく吐き捨てた。

「残念、麗司さんとは仲良く出来ると思ったのに、やっぱりシズちゃんのお兄さんか」

あぁ、そうか。確信もなく、また、考えもしなかったのだが、この会話だけで理解する。本能が嫌うのも、警戒するのも、無抵抗に見えるこの男に攻撃したのも、こいつが静雄が嫌悪していた『蚤蟲』だからだ。第三者からの断定も断言もないので確定は出来ないが、自分の中の何かがそうだと肯定している。兄弟だと好き嫌いの好みが似てくると聞くが、これもそうだと思える。静雄が苦手だと思う相手を自分も苦手とし、自分が友だと仲良くしていた友人には静雄や幽さえも懐いていた。だから何となくだったが、それは正解の様だ。こいつが静雄が苦々しく吐き出していた男。

「蚤蟲、か」
「え、なにそれ。シズちゃんみたいな事、言わないでくださいよ。麗司先輩。臨也って呼んでくれて構いませんから」
「いやだ」
「もう、照れちゃって。お兄ちゃんは恥ずかしがりなんだから☆」
「ぶっ殺す」

猫撫で声で品を作る『おりはら』と、奇しくも、静雄が初対面で織り成した『殺し合い』を再度、熱演したのだった。




お題:魔女のおはなし

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あきゅろす。
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