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やっぱり兄弟だ(来神メンバー)


今日も今日とて、校内中に怒鳴り声が響く。ただ、唯一違っていた事といえば、それに続くに破壊音がしない事だ。

「珍しく静かだな」

そう、ぼそりと呟いた門田にクラスメイトも槍でも降るのかとでも言いたげな、処刑までカウントダウンを聞かされた死刑囚の様な表情で頷く。それ程この事態に皆、驚いているのだ。いや、恐怖の方が近いか。あの『平和島静雄』が『折原臨也』相手に暴力を奮っていない事に。

「おい、門田。お前、なに落ち着いてだよ!あの平和島が校舎壊してねぇんだぞ!?」

いや、それが普通だから。可笑しな方向に慣れ始めた日常に、何だか平常こそ異常の様な気さえしてくる。慣れとは恐ろしい。楽しげな笑い声に続き響く罵声に、皆、一様に廊下側から離れる。キレた静雄が廊下を破壊しながら折原を追い掛けるので、下手にそちら側に居たら余波をもろに食らい、過去には何人もの人間が病院送りとなっているので、必然と喧嘩というか殺し合いが始まったら離れるのが、これまた日常となっている。今日も何故か破壊音がしないものの避難していれば、颯爽と春風でも背負った様な笑顔でクラスの前を折原が駆け抜け、続いて『茶髪』の静雄がその後を閻魔大王さえ裸足で逃げ出す様な形相で追い掛ける。………茶髪?

「あれ、今のもしかして麗司先輩じゃね?」
「え、俺、見てなかった」
「あぁ、金髪じゃなかったから麗司先輩だな」

髪の色で判断するってのも可笑しいが、実際兄の麗司と弟の静雄は背格好が良く似ていた。若干、麗司の方が背が高いが、鋭い目尻もニヤリと歪めた笑みに走る恐怖も整った顔形も、流石兄弟と思わざるを得ない程に。声は口数が少ない静雄とお喋りな麗司では中々分からないが、こうして低く地獄から這い出てきた悪魔の様な怒鳴り声は、やはり似ている。嵐が通り過ぎた後の様に、遠くになった何時もと少し違う『日常』に数人が廊下を覗き見ていれば、その合間を縫うように見慣れた眼鏡が笑顔で手を振っていた。

「やっほー、ドタチン」
「ドタチン云うな。……新羅、なんで麗司先輩が折原の奴を追い掛けてんだ」
「あぁ、昨日のバトルをお兄さんが臨也に説教したんだけどね、臨也ったら『嫌です』とか語尾にハートマークでも付きそうな爽やかさで即答してね。それにキレたお兄さんが本気で臨也を追い掛け始めたんだ」
「………あの馬鹿は何やってんだ。つか、静雄の奴はどうした?こんな騒ぎになってんのに一向に姿見せないが」
「静雄なら新しく仕立てて貰った制服取りに行ってて、遅刻。まぁ、そろそろ登校するだろうけど」

にこにこと窓枠に腕を掛け、『ほら、噂をすれば』と指を差した校門に目を向ければ、気怠げな表情で真新しい制服に身を包んだ破壊神が降臨。騒がしい校内を訝しげに見上げていたが、ただでさえ気に入らない折原と大好きな兄の特徴的な声が耳に入らない訳がなく、次第に眉間に皺が寄り、

「おにいちゃーん、そんなに怒らないでよぉ」
「気色悪ぃ呼び方すんじゃねぇえ!!」
「あはは、麗司さんこっわーい!あ、なら、ア・ニ・キ。なーんてどう?キャ!」
「キャじゃ」


「いぃぃざぁやあぁぁぁぁぁあ!!」


ねぇよ。その悪寒を堪える様な苛立たしげな声よりも、更に腹に響く怒鳴り声がびりびりと校舎を震わせた。悪魔、降臨。そんなタイトルが生徒の脳裏には浮かんだ。蟀谷に青筋を浮かべ、肩に掛けていたカバンを無造作に投げ捨てるなり、閻魔も逃げ出すあの形相で校内に消えていく。こちらから静雄の姿が校舎の壁に消え見えなくなるが、数秒と待たずに耳を塞ぎたくなる様な破壊音。閉められた出入口のガラス扉を殴って入ったのだろう。土煙と共にキラキラとした粒子が風に乗って校庭へと舞い落ちる。普通に開けて入ってこれねぇのか。そんな常識も静雄を目にしてしまえば非常識となる。渡廊下を挟んで向かい側の校舎で悲鳴が上がり、怒鳴り声と笑い声に『破壊音』が加わる事によって、今日も何時もと変わらぬ日常が訪れた。

「お兄さん、怪我とかしないかな?静雄とどう違うのか調べたいんだけど」
「それ、静雄の前で言うなよ。殺される」







※上の続き

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