6000ヒットお礼


「はぁーあ、堅っ苦しかった…」

見るところ、身なりがとても綺麗で、一般人では手に入りそうにない着物を着ている少女――年は15、6にみえる――が江戸の街を歩いていた。

(それにしても、すごい賑わい。買い物なんてできるかしら)

彼女は後ろに潜む人影なぞ知らないまま人の間をすり抜けていった。

どうします、兄貴、と人影が言った。
その後ろにいる浪人崩れのような男はすっと腕を組んだ。ひとけのない場所に出てくるまで辛抱だ、と男は答えた。

彼はにやりと笑って後のことを人影に頼むとどこかに消え去ってしまった。


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少女は店を回っているとき、あるものが目に入った。

(かんざし…そういえば、最近は買ってない)

彼女はそう思うといよいよ目の前にあるかんざしがほしくなってしまった。

懐には父親からもらったお金がある、それも今目の前にあるかんざしを買っても十分に余るほどだ。

しかし彼女には今頃になって密かに抜け出してきた罪悪感が、頭をもたげてきたのだった。

(買って使っていたらいつ買って来たんだって言われそうだし…今頃心配してるかな)

結局彼女は何も買わずに店を出て、人混みからも出た。
しばらく少女が歩いていると彼女はふと立ち止まった。

(道――どっちだっけ)

目の前には先程と同じような十字路があった。

しばらく考えていたが、少女はこの土地に始めて来たのだし、しょうがないと彼女が歩きだそうとしたときだった。

「どうかなさいましたか」

後ろからやって来た壮年の男が人の良さそうな笑みを浮かべて少女を見ていた。

「あ…はい。道に迷ってしまったようで…」

「左様で。江戸というまちはなにかと入り組んでおりますからね」

そういうと男は少しだけ声を出して笑う。

「それでお嬢様はどちらに行かれようとお思いで?」
「はい、藩邸に」

藩邸に、と男ははえていない髭を撫でるように顎を撫でた。

「すると藩主の姫君でございますか」

はい、と少女は謙遜気味に言う。その時下を向いた彼女には目の前の男の異様な笑みと、物陰に隠れていた人へ投げ掛ける視線に気付かなかった。

物陰に隠れていたものは男の視線に頷くと静かに姿を消した。

「では、ご案内致しましょう。お一人でさぞ心細かったことでございましょうに」

はい、ありがとうございます、と少女が頭を下げて男の顔を見たときには、男の顔は元に戻っていた。
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藩邸では騒ぎになっていた。

少女の失踪がやっと気付かれ、その供をしていた者が藩主に呼び出されていた。

ナルト、サクラ、と藩主は目の前にいる少女の供の者に呼び掛けた。

「お前達、何のためにれんげの側近をつとめていると思っておる」

「申し訳ございません」

二人は同時に頭を下げた。

「しかし…忍の者の目を盗んで逃げ出してしまうとは、れんげもなかなかやるのぉ」

藩主が声を出して笑っていると、慌ただしく女中がやってきた。

「殿…!たった今これが裏口に…!」

「何?」

女中は息を切らしながら手に持っていた文を渡した。

「なっ…なんだ、これは」

「どうかなさいましたか」

不振に思ったサクラが藩主に問う。

しかし藩主はしばらく口を開かず、文を凝視したままだった。文を持つ手がわずかに震えている。

「殿?」

サクラがもう一度問うと、やっと藩主は声を出した。

「れんげが…さらわれた」


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