05.1
「れんげ、大丈夫?」
重吾が何事か心配してくれたらしく、あたしを覗きこんでいたが、あたしはただ笑った。
「んー?別に何もないよ」
「本当に大丈夫か?顔が少し赤い気がするが」
香燐が言い、そうかな、とあたしは自分の頬に触れてみる。
なんとなく温い気がしたが太陽の当たりすぎだろうと思い、別に気にもしなかった。
・・・・・・・・・・
しゃっと勢いよくカーテンが開けられる音がして、あたしはぼんやり目を覚ました。
窓の方を見るために顔を右に傾けると額に乗っていた何かがずり落ち、外の太陽の眩しさに目をしばたいた。
「起きたか」
「んん…?サスケ?」
彼はあたしの近くに来ると落ちてしまった何かを額に直した。ひんやりしていて、気持いい。
「何…どうしたの。香燐は」
「薬を買いに行った」
薬、とあたしが疑問に呟くと、れんげのためだ、と言った。
「あたし?」
「…自分の体調くらい分かっておけ」
聞くとどうやら熱を出しているらしい。なるほど、頭がぼぅっとするわけだ。のどもわずかに痛い。
香燐は朝起きるといつもあたしを起こしてくれる。
いつも大概のことをすればなんとか起きられるのだが今日はあたしが起きなかったらしい。不審に思った彼女がよくよくあたしを観察してみると熱っぽかったようで、実際に熱があったということらしい。それですでに起きていたサスケにあたしの看病を任せて薬を買いに行った、というサスケ話だった。
「そっか。ごめん、迷惑かけて」
眩しい光に背を向けて、あたしは、頭が熱を持っているのでぼけっと、それに加えて寝起きでまだ眠けが抜けきっていないのとで瞼を閉じた。
するとすぐにドアのノックする音が聞こえ、薄目を開けると、香燐が入ってくるのが見えた。
おかえり、と小さな声で言っても気付いてくれたらしく、具合いはどうだ、と彼女は訊いてきた。
「んー…眠いし、だるい」
「最近急に寒くなったからな。れんげの体には対応しきれなかったんだろう」
ずっと檻の中に入れられていたから。
そんなことを言われている様な気がして、あたしは僅かに震えた。しかし香燐が気付くはずもない。
「薬を飲めばよくなる」
サスケが子どもをあやすようにあたしにそっと触れた。きっとこのことも香燐は気付かない。
「宿の人にお粥を頼んであるからとってくる」
そう言って香燐はあわただしく今開けた扉をまた開けて出ていった。
あたしはとてつもなく眠たかったのでさっきと変わらない姿勢で目を瞑った。しかし太陽のまばゆい光は瞼をも通り抜けて暗闇を照らしだす。
(――今までこんなことなかったのに)
2、3日で激変してしまった身の周りの環境にあたしは今だ戸惑いながら、やわらかにあたしの額に触れてくるサスケの手にひどく安心した。
サスケにこうやって触られるのは、あの男に比べて、不思議と抵抗を感じない。
重吾の時もそうだ。まぁ、彼に変な気はないということがはっきり分かっているからだろう。水月には――半端ない抵抗を感じるが。
サスケのおかげで安心しきってうとうととしていると、がちゃりとドアが開いた。
「れんげ」
そっと優しくサスケに起こされてあたしは目を開けた。
「起きて食べられるか?」
返事をする代わりにあたしはゆっくり起き上がってトレイに乗せて持ってきてくれたお粥を受け取った。
なんとも嬉しいことに、真っ白なご飯だけじゃなく、切り刻まれた野菜がふんだんに入っていた。
「おいしい」
あたしはそのままぺろりとお粥を平らげ、薬を飲んで布団に潜り込んだ。
寝る前にしっかりカーテンを閉めるように言って。
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