05.1
目が覚めると朝とは違う薄暗さが部屋にぼんやりと浮かんでいた。
カーテンからは光がなく、申し訳程度に壁が白くなっている。
サスケは居なかった。
しばらく混沌とした意識の中ぼーっとしていたが、とりあえずトイレに行こう、と起き上がった。
トイレはどうやらこの宿共通で使わなくてはならないらしい。だるい体に少しだけめまいがしてふらついたがなんとか堪えてドアに向かった。
少し立っているとなれるものだが、きびきびとした感じでトイレを出るとどんと誰かにぶつかってしまった。
「すいません」
前を向いていたはずなのにと悠長なことを考えていると、お前は、とぶつかった人が驚いたように言った。
その人はあたしとあまり変わらないような見た目で、男のようだ。
「お前は――れんげ…!?」
「…あたしのこと知ってるの?」
忘れたのか、と彼は顔を歪めてうなる。
「お前のせいで一族は笑い者だ」
「な…によ、それ…どういう――」
「黙れ!こうなったら父の仇、ここでうたせてもらう!」
訳が分からない。あたしがいない十数年間、里で何があったというのだろう。
知らないものを考えてもラチがあかない。こんなことよりも目の前にいる男が本気であたしを殺そうと戦闘体制に入っていることをどうにかしなければならない。
だが、こんなところで風邪の力を発揮して、頭がぐらぐらして、自分が今立っているのか分からないほど、何も考えられなかった。
周りの人たちがあたしたちの事を気にし始めたのだけは冷静にみながら、あたしはどうしようともせずつっ立っていた。
すると男はクナイを取り出し構えてあたしに襲いかかった。
あたしがなにもできず、彼がもう手前まで来てしまったと思った時、あたしの目の前に誰かの背中が現れた。
それは大剣で相手のクナイを受けとめ、さらにそのまま勢いで相手を押して距離をとらせた。
「水、月…」
「具合いはどう、れんげ」
彼はあたしの方を見ずにしかし神経をあたしの方に集中させて訊いているようだった。
「全く、風邪をひいて少し静かになったと思ったらこれだからな」
何したんだよ、と彼は言った。
あたしが喧嘩をふっかけたことになってる…?
「お前は水月…?なぜこんな所に」
「それはこっちのセリフだよ。れんげに何か用?」
水月は隙のない体制を保ちながらさりげなくあたしをかばう様に動いた。
「あぁ、話がある」
相手も隙のうかがえない状態だ。
「なら普通に話し合おうよ」
あたしは自分の体に鞭打ってチャクラを練り、それを頭を働かせるために集めた。すると、ふらふらした感覚がなくなり、状況がはっきり分かってくる。
「さっきの、一族が笑い者ってどういうこと?」
水月から少し離れながら言うと彼はちらりとあたしを見た。――牽制されたってやりたいことはやるからね。あたしは目でそう返した。
「――、別に話さなくてもいいだろ、これから死ぬ奴なんかに――!」
言うや否や、男はこっちに向かって走り始めた。あたしは人だかりになり始めた人々の間をぬって出口を目指し、足にチャクラをためて宿の壁を駆け上がる。
「おい、れんげ!」
水月のことなんか無視をして、後ろをちらりと見るとしっかりとあの男はついてきていた。
屋上に着くとあたしはわずかに息を荒げていた。風邪一つぐらいでこんなに弱ってしまうのは本当に情けない。
すぐに男が駆け上がってきてあたしの目の前に立ちはだかった。
男はにやりと笑う。あたしが弱っているのはばれてしまっているようだ。
あたしは笑った。
「忘れた?あたしは蒼黒れんげよ」
あたしは素早く印を結ぶ。
「黒霧――」
止めろ、と追い付いた水月があたしの腕を掴んだ。
「じゃま。どいて」
「殺さなくていいだろ」
「何よ水月、あんたが殺したいの?」
違うよ、と彼は言い手を離す。
だが相手の方はやる気のようで、水月が背を向けているのを良いことに、襲いかかろうとした。
「なにやってんだ、れんげ!」
しかし突然現れたサスケに気絶させられ、同時に現れた香燐と重吾があたしのところに来た。
「熱があるんだろ、寝てなきゃだめだ」
ぐらりと傾いたあたしの体を支えながら重吾は言った。
「水月!!れんげの様子をみるんだったらしっかりみとけ!無理させるなよ!!」
香燐はそう言って水月に掴みかかったがサスケに止められていた。
水月は少し服を整えながら、仕方ないだろ、と言った。
「急に走りだすんだ、止められないよ」
あたしは落ち着くことなく、逆にだんだんと息が上がって立っているのも精一杯だった。
「ほんとに大丈夫か」
重吾はそう言ってくれ、あたしは大丈夫だと返事したが、しかし体の方は持たないようでついにあたしは倒れこんだ。
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