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Accesses The Reality Cruelty
螢の記憶

 もう少し、生きていたかったかなぁ
……みんな、悲しむのかな。そうなるとこっちも悲しいけど、少し嬉しいとも思える
 螢は……大丈夫だよな
もう俺がいなくても。7年、頑張ってきたんだから
 さてと、俺はこれから、みんなを見守るとでもしようかな……
 さよなら……また、いつか


「……」
 霊介は、死んだ
俺の親友は、もう死んだんだ
「……行こう」
 もう振り返るな
振り返ったら、前に進めなくなる
「リリィに全ての事情を説明し、俺たちはこの地域を去る。……水の都ミルノスを、目指す」
 感傷に浸ってる暇なんかない
俺は霊介に……全てを任されたのだから


「……りょうすけ……?」
 私はコウタという少年から全てを説明してもらい林の中の、木の一角まで歩いてきた
「……霊介」
 ……なんでだろう
凄く、悲しい。会ってまだ、2日しか経っていないのに……
 霊介は、木に寄りかかって目を閉じていた
その顔は、笑っている
 それを見て、余計に悲しくなってくる
目から近づいて、いっしょに座る
 その目に流れる涙を拭ってあげようとした
そのとき
「……あ」
 ーー記憶が……
7年より前の記憶が、記憶の全てが戻ってきた
「にい……さん……?」
 兄さんだ
いつも、ずっと私に優しくしてくれた……
いつも、ずっと私を守ってくれてた……
 いつも笑っていて……楽しそうで……
私の大好きな……兄さん
「……ごめん、なさい」
 不意に、その一言だけが口から漏れた
そのあと言葉を紡ごうとしても、嗚咽が邪魔をして言うことはできなかった


『痛いよぉ……』
 まだ幼かった私は、道に迷ったまま帰る道もわからなくなった
 空も、暗い
それだけでも怖かったのに、転んで膝を擦りむいてしまった
 もう歩くことができない
家にもう一生帰れないかもしれない
 まだ幼かった私は、そんなことを思っていた
涙が流れてきて……痛くて悲しくて……
 そんなとき、兄さんは必ず私の前に現れてくれた
まるでヒーローみたいだった
 その私だけのヒーローは、走ってきたのか肩を揺らしながら、言う
『大丈夫か! 螢』
『あ……兄さん?』
『……あー、ったく……毎度毎度心配させるなー、螢は』
『……痛い。痛くて歩けない』
『ん? ……膝、見せてみろ』
『うん……』
『あー、こりゃあれだ。早く治療しなきゃやばいな、うん』
『う……ほんと?』
『あぁ。だから、早く帰るぞー。ほら、おぶってやるから』
『……うん』
 いつもと違う必死な態度で、私は笑みがこぼれた
『なによ』
『兄さんはやっぱり優しいなーって』
『んなことはない』
『いつもはぽけーってして、ぼやーってしてるよー』
『クラスのやつらからは無愛想って言われるがな』
『違うよ。兄さんは優しいよ』
『……言ってて恥ずかしくならないのか』
『そうなるのは兄さんだけ』
『ごもっともだな』
 兄さんはそう言って、歩く速度を早める
『早く家に帰って、お父さんとお母さんを安心させてやろうな』
『うん』
 私はお父さんもお母さんも……兄さんも、大好きで
みんなでいっしょにいることが、なによりの幸せだったんだ

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