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Accesses The Reality Cruelty
記憶喪失
「どうしたの、クゥ」
 無言の空間を断ち切ったのは、ルーだった
「……コウタさん」
「……なんだ、クゥ」
「ほたるって、誰なんですか……」
「?…………っ!? クゥ、おまえ……!?」
「そうですか。やっぱり、そうなんですね」
 ……いったい、どうしたんだろう
「……やなぎ、ほたる」
 クゥはそう呟いて、また虚空を見つめ始めた
もう私たちの言葉は、聞こえていないようだった


人はいなくなった
 俺は洞窟の奥の、部屋になっている場所へと招かれた
リリィ以外の人は全員ここに近づかないようにしたみたいだ
 エミアも、だ
「座ってもいいですよ」
「あ、あぁ」
差し出されたイスに座って、机を隔てて向かい合う
「……記憶喪失って、どういうことなんだ」
 俺はまず始めに、それを聞いておくことにした
「私には、7年以上前の記憶がないから。私はその7年を、エミアと生きてきた」
「……7年」
 ……わからない
やっぱりこいつは、螢じゃないのか?
「でもそれだと、どうして電車やあなたのことを知っていたか、になりますよね」
「……」
 それなんだ
俺が引っかかっていたのは、それなんだ
「最近、よく同じ夢を見るの」
「ゆ、夢……?」
「電車という乗り物が爆発して、私は病院というところに運ばれる」
「!?」
「そして外国にある病院に送られて……そういう、夢」
「そ、それは……」
 あのテロの、螢の様子?
「そのとき私は螢という名前で、霊介というお兄さんがいた」
「っ!?」
 間違いない
こいつは、螢だ
「でもこの夢には、続きがないの。飛行機という乗り物で外国という場所に行く……そこで、夢は途切れる」
「……まさか」
 1年前から現在に至るまで、螢の情報はなにひとつとして送られてこなかった
つまりそれは、どこかへ消えたということじゃないのか?
そしてそのどこかとは……この世界
 それなら全てに説明がつく
元の世界での1年は、この世界の7年だ
だからリリィ……いや、螢が7年前からこの世界にいる理由にもなる
 記憶喪失というのは……もう手遅れかもしれない
でも、生きていた。元気になっていた
「……はは」
 俺は顔に手を置いて、聞く
「なぁ、これから螢って呼んでいいか?」
 嬉しかった。悲しかった
いろんな感情の渦巻きの中で、俺は聞く
「え……わ、わかった。いいよ」
 だけど、俺のたどり着いた結論は伝えない
こいつにはもう、新しい生活と友達がいる
 もう俺は、見守るだけでいい
涙を必死に螢から隠しながら、俺はそう思っていた



















……だけどこの物語は、そんなに感動的なものじゃなかったんだ
 次に語られた話は、俺たちとクゥにとってただただ残酷な現実だったんだ
そして俺は決断する。してしまった
 俺は螢と共に、バルハルトを……クゥの母親を、殺す
それしか、俺が下せる選択はなかった





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あきゅろす。
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