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叶夜さま(35000Hits)
※ガクリン25歳 数学教師
※ひめのん16歳 花の女子高生
※幼馴染み設定
※先生と生徒





title:ヨ ク シ ン



ずっとずっと傍に居いてくれた幼馴染のお兄ちゃん。

女手一つで私を育ててくれるお母さん。忙しいお母さんの代わりに私の面倒をみてくれた人。

血の繋がりなんてない。
私たち親子がたまたま、ガクリンの家の隣に引っ越しただけ。
たったそれだけの繋がりだった筈なのに、ガクリンが私に与えてくれたものはたくさんある。


そうして、ガクリンの傍が世界で一番安心出来る私だけの居場所になった。












「…ひめのん?」

ボゥッとして動かなくなった私の顔をガクリンは覗き込む。
見慣れたはずのガクリンの顔なのに、心臓がドキリとして私は急に息が上手に出来なくなる。

「ガ…じゃなくて、犬塚先生、あだ名で呼ばないで下さい!」

ここは数学準備室。
私とガクリン以外は誰もいない。

「…はい…えーっと、じゃあ…桶川。どうした?調子が悪いの?」

ひんやりとした手が姫乃の額に触れた。

「ガ…先生!セクハラです!」

「セクハラ…っ!」

私とガクリンの間ではこれくらいのスキンシップは日常茶飯事だった。それなのに今は頭がおかしくなりそうな程、動揺している。

ふぅと、ガクリンが珍しく溜め息をついた。

「ひめ…桶川、ここにはおれ達以外誰もいないよ」

「駄目なの!ケジメがつかなくなっちゃう」

ガクリンが笑う。

「ひめのんのほうが先生みたいだ」

「だって!」

「大丈夫、おれを信頼して?皆の前じゃボロは出さない」

どこからそんな確信が涌いてくるのか分からないけれど、ガクリンは自信たっぷりにそう言った。

「……それに、」

「…それに?」

「幼馴染みだってことくらいがバレたって、何も問題はないよ。…疚しいことは何もないんだし…だから、ひめのん。全く喋らないのは寂しいよ。せっかくこうやって一緒の場所で過ごしているのに」

「うん…」

高校に入学してから、ガクリンとは距離を置くようにしていた。
新入生が、いきなり先生と親しくしていたら周りから変な目で見られてしまうと思ったから。


ガクリンが傍にいるのに、話せない日々。

初めて見た、お仕事をしている時のガクリンの表情。

ガクリンを遠くに感じたこの数週間。


モヤモヤとした日々が続いていたのは寂しかったからなんだ、とガクリンが紡いだ言葉を聞いて気が付いた。


「ひめのん?」

視線を落とした私の顔をガクリンが覗き込む。

「…ひめのん?」

ガクリンの優しい眸とぶつかった。

小さい頃みたいに、ガクリンの首に飛びついてしまいたい衝動にかられる。

「…“疚しい”って…?」

私の言葉に、ガクリンは少し驚いた表情をして、また笑った。

「改めて訊かれると難しいね」

「こうやって…」

「ん?」

「こうやって…二人だけでこっそり会ってお話しするのは…疚しくないのかな…?」

「…ひめのんは、“疚しい”って思うの?」

「わかんない…わかんない、けど…さっきから心臓がドキドキして、息が上手くできなくて…立っているのがやっとです…」

こんな訳の分からないことを言っても、ガクリンなら、いつもみたいにまた笑ってくれると思った。

「……ガクリン…?」

真っ直ぐに見つめてくる私のガクリンの表情。

「なんで、ドキドキしているの?」

低いガクリンの声。

「え…?わ、分かんないよ…」

理由の分からない緊迫した空気が狭い数学準備室を包む。

「そう…」

「ガクリン?どうしたの?」

私はガクリンを見上げる。きっと泣き出しそうな表情をしていると思う。

「ごめん、なんでもないよ。大丈夫」

いつもの柔らかい声と表情でガクリンが言った。
途端に、緊迫した空気が解ける。

「うん…今までずーっと待ってたんだ…まだ待てるよ。君が気付いてくれなければ意味がないんだ」

「え?どういうこと?」

「ないしょ」

ガクリンがいたずらっ子のように笑う。

釈然としない私の頭に大きな手が触れる。

私が口を開きかけたとき、準備室の扉をコンコンと叩く音がなる。

ガチャリと扉が開くと、「犬塚先生いますかー?」と女子生徒達の声が聞こえた。

「はい…じゃあ桶川、もう質問はないな?」

先生の顔のガクリンになる。

「はい、先生ありがとうございました」

私も生徒の顔を作って、ガクリンの横を抜け、準備室から出る。

その時に、「あー!女の子と狭い部屋で二人きりは先生ヤバイでしょー?」とからかう生徒の声が後ろの方から聞こえた。

「お前らも質問があるなら一人で来い、煩いから」

「あはは、先生やらしい!ウチと二人きりになりたいって」

「ハイハイ…で、質問は?」

ワイワイと賑やかな声が響く。

振り返って、チラリとガクリンを見る。

私の視線に気付く筈なんかないと思っていたのに、ガクリンは気付いてくれた。
女の子達に分からないように、こっそりと笑みを返してくれる。



それだけで、心が暖かくなれる。



私だけの場所。





end.
2008/08/08




*********
アトガキ

叶夜さま

大変お待たせいたしました!
ガク姫パラレルでほのぼのした話です。

…ほのぼの…してますよね?
ドキドキ

素敵なリクをありがとうございました。
実はこの設定で、ガク姫マンガを描いていました。
(まだ完成していませんが…)
なかなか愛着のある設定なので、こうやって作品にできて幸せです♪
ありがとうございました♪

また書きたいなぁ♪

ではでは、これからもよろしくお願いいたします♪



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