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記念物

【アンバー視点】

愛し子と過ごす日々は、とてもとても楽しいものだった。
いつ、どこに現れるとも知れない、私の絶対的唯一を待ち望んだ永い年月。
目に入れても痛くないほど可愛らしく、愛おしい…。



そういえば先日、念願叶ってユータと想いが通じた。
恥ずかしげに、好きですという声と姿にもう…っ!
想いが通じた私たちは、寿命を同じにする儀式を行った。
いわゆる婚姻というものだ。
ユータに私と同じ永い命を。
私の逆鱗をユータに飲ませることで、ユータ自身が私の一部となるのだ。
お互いに思う事は言わずとも、知ろうと思えば知ることができるようにもなったが、ユータの口から想いを聞くことの方が好きなので、知ろうとは思わない。
ユータも同じようだ。



そんなある日のことだった。
抱き潰してしまったユータが眠る側にいたら、王宮から使者がやってきた。
煩くされて、ユータを起こしたくなかったので屋敷内に通すと、王が私を呼んでいるという。



今の王は、私のことを…竜卿という地位を軽んじている。
この国は伝説のドラゴンであり、国の始祖、そして守神の私たちの血族がいることで成り立っている。
そして、竜卿は伝説のドラゴンの血族を指す。
つまりはこの国の真の王とも言える。
しかし、私たちは王という座を人のものとした。
なぜなら、私たちの血族がこの地を守る理由が別にあるからだ。
私たち血族はこの土地でしか唯一を得ることができないのだ。
いつ、どこの異界に生まれても、この土地に私たちが居さえすれば、こちらの世界に引き寄せられる。
この国を守っている、というのはそれだけの理由で特別この地の人間が愛おしいわけでもなんでもないのだ。
しかし、私たち血族がいることで得る恩恵は人には大きいらしい。
だからこそ、崇められ、敬われている。
だが、今の王は私が単に竜卿と言う地位にいるだけで、伝説のドラゴンの話をおとぎ話だと思っているらしい。
だから、本来なら王が出向く所を使者なんぞを遣わすのだ。



「作法も知らない若造が…。まぁいいでしょう。私も王宮に用事があるのでたまには出向きましょうか。」



だって…ねぇ?
愛し子、ユータを傷つけた罪は償ってもらわなければ。



王宮に人間の姿で赴くと、喧しい人間がゴミに集るハエのような感じで様々な人間に囲まれていた。
おやおや、王と神官までいるとは…。
私を見つけるなり、喧しい人間が走り寄る。
あぁ、なんて醜いんだろう。
愛し子とは比べ物にならない。



「人間の王よ、何か用か?」

「あ、あぁ。神子の話だが、名前をアレンという。」

「あなた様にお逢いしたいと強く望むものですから、失礼ながら赴いてもらいました。」

「これは神子なんかではない。」



人間たちは恩恵の代わりに、唯一を神殿の地下に現れるようあの神殿を造った。
あの神殿がない頃は、現れる場所が国のどこか、というとんでもなくテキトーだったらしい。
人間は唯一のことを神子と呼ぶ。
そして私の唯一は既にそばにある。
つまり、この者たちがいう神子は偽物。



「私が欲しかった唯一はもう手に入れた。…が、人間に酷いことをされたようでね。」



青褪める王と神官。
喧しい偽物だけが、空気も読めずに未だに自分が本物であるという。



「さて、唯一は我が逆鱗…」



激昂色の紅い瞳に変わった私に、必死に赦しを請う王と神官。
だが最早、耳にその声は届かない。
逆鱗に触れられた竜は、その怒りが静まるまで制裁を止めることなどない。



私は異界から来た偽物以外を、元の世界ではない異界へバラバラに飛ばした。
どんなところかまでは知らないが、幸運を食らってしまったので、幸せな生き方はできないだろう。
偽物は誰もいない、どこの世界にもつながっていない本当に孤独な箱世界へ閉じ込めた。
彼は人間を狂わせる災禍を負っている。
どこまでいっても、人を不幸にするという性質はある意味、稀なる魂ではあるが、転生して再び害を与えないとも知れないため、転生のできない箱に閉じ込めてしまった。
薄暗い無限に広がる誰もいない世界で、生きていくことになるだろう。
最後に、王と神官への罰として私の子が唯一を得たいというまでは、この地を離れることにした。



屋敷へ戻り、寝室へ行くと目覚めたばかりの愛し子が恥ずかしそうにシーツを慌てて体に巻きつける。
そんな姿すら愛おしくて、優しくシーツの上から抱きしめた。



「おはよう、ユータ…」

「お、おはようございます…アンバー。あと、お帰りなさい?」

「もしかして出て行く時、起こしてしまったてた?」

「寝ぼけてたけど…何しに行ってたんですか?」

「後片づけ。ねぇ、ユータ…」

「?…はい??」

「幸せにしてあげるね。」

「っ!…はい。」



少し頬を染めて、それでも確かに幸せにしてほしいというユータだけがそばにいればいい。
私は静かに自分の住処をこの世界から切り離し、その入口を閉ざした。
ユータと過ごすのに、私以外はいらない。
ユータを見ていいのも、触れていいのも私だけだ。
愛し子が幸せであるためならば、どんなことでもしよう。



そっとユータの頬を両手で包んで、その柔らかな唇に、私の唇を重ねた。


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