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記念物


目が覚めると、地下のような場所にいた。
雷に打たれた気がしたんだけど…。



「うっ…」

「い、稲次くん!?」



暗さに目が慣れてくると、生徒会メンバーと、不良、バスケ部の人、担任も倒れていて各々体を起こし始めていた。



「っつ…ここはどこだ?」

「地下、のようですが…」

「水も、ある…地下水脈?」

「誰かに拉致られたとかぁ?」



生徒会メンバーは、自分たちの今置かれてる情報を組み立てようとしていた。
その力はかつて学園をまとめていた素晴らしい生徒会の姿で、少し悲しくなった。
転入生が来るまでは、憧れていた人たちだったんだよ。



「こ、こは…はっ!おい!優太!!お前何か知ってるんだろう!!?」

「し、知らないよ…」

「嘘つくな!親友に嘘つくなんて悪いやつだな!!」

「ほ、ほんと…うわっ!?」



稲次くんに激しく揺さぶられていると、間に黒い影が入りバシャリと薄く水の張った地面に体が叩きつけられた。



「アレン!無事か?どこも怪我ないか?」

「大丈夫だ!」



また、担任によって突き飛ばされたのか…。
わらわらと稲次くんの周りに集まり、囲んでいつもの様子を作り出す。
ここがどこであるかなんて、彼らには些細なことなんだろう。
すると急に、グイッと顎を掴まれて上を向かせられた。
僕の目には、銀の長髪と青い目をした美貌が飛び込んできた。



「この醜いのが神子か?…否。」



汚いものを投げ捨てるように、また僕は水の床に突っ伏した。
誰だかわからないその人は、稲次くんの方へ向かい言葉を交わしていた。
その人は白いローブを着ていて、RPGに出て来る神官のようだと思った。



その後、僕たちは神官に連れられて、地下…もとい神殿の儀式の間から王宮へ案内された。
その道すがら、森の中にこの世の存在とは思えないほどに美しい人がいるのを見かけた。
月明かりの中、捉えられたのは長いウェーブがかった髪と、とても綺麗な紫の瞳だけだった。
その人は、ゆるりと笑みに目を細めると森の奥へ消えてしまった。
…夢か幻でも見たのだろうか?
そう思うほどに現実離れしていたのだ。

案内された王宮は豪奢な作りをしていて、ヨーロッパにあるお城のようだった。
ここは異次元なのかもしれない、と1人考えながら、目の前で繰り広げられるいつもの空気に、こっそり溜息を吐いた。



「よく来た、我が神子!…と、言いたいが、誰が我が神子だ?」

「この方です。王よ。」



玉座に座る威厳ある男は、神官によって僕たちより一歩前に立たせた稲次くんを紹介する。
別の世界へ行きたいと願ったけれど、今回も僕は彼に巻き込まれただけなのか。



「ほう!これは愛らしい。名はなんと申す?」

「聞いたほうから名乗るのが礼儀だろ!」

「ほうほう!これはまた面白い!気に入ったぞ。そなたを私の側室としよう!」



あぁ、いつものパターン。
話はトントン進んでいく。
一緒に来てしまった、僕以外の人たちは稲次くんの側近兼客人に収まることになったようだが、僕は別のようだ。



「して…その醜い方は?」

「これは手違いのものでしょう。アレン様のお側に置くのも考えものですし…。」

「オレはやだぞ!優太はオレの親友だ!離れるなんて絶対ダメだ!!」

「…ほう?アレンはそう言うが…」



お前はどうしたいのか?
無論、そばにいる気など無かろう?



そう目で言ってくるのが嫌でもわかった。
けれど、ここで離れることを選択すると稲次くんに何されるかわからない…。



「おそれながら、王様。これは小間使いとしてアレンのそばに置けばよろしいのではないでしょうか?」

「っ!?」

「ふむ…ではそのようにしよう。今宵は下がるがよい。またな、アレンよ。」

「おう!ありがとな!!」



な、んで…?
会長は何でそんなことを言ったんだろう?
ちらりと見れば、見なければ良かったと思う笑みを浮かべていた。



それからの僕の生活は学園にいた時より悲惨なものになった。
逃げ込める寮という場所はなく、小間使いとして働かせられ、わざと転ばせられたり、失敗させられたりして、その度に罰と称して殴られ、蹴られ、ご飯を抜かれた。
増える痣は色を重ねて、自分で見るのもおぞましいくらいになってしまった。
アレンを溺愛する王様や神官たちにも、嫌がらせを受けている。
だから、まともな治療も受けられないし、ご飯が自分の分だけない事なんかもしょっちゅうで、貧弱な体はもっと貧弱になっていった。



「優太!オレお腹すいたからお菓子持ってきてー!」

「うん…待っててね。わっ!」

「あはは!何こけてんだよ!鈍臭いなぁ!」



最近、体に力が入りにくくなっている。
なんとか体を起こして、厨房へお菓子を取りに行く。
その道すがらだった。
正面から神官と王様が歩いてきたから柱の陰に隠れた。
きっと稲次くんのところへ向かっているのだろう。



「…それは、本当か?」

「はい。何度やっても同じでした。」



なんだか深刻そうだ。



「まさかあの醜い方が真の神子とは…。」

「いかがなさいますか?」

「まだ、アメジストス竜卿の耳にこの事は届いておらんな?」

「はい。ですので、このままアレン様を神子とし、本物の神子であるユータとやらは、一度死んでもらい神殿へ幽閉しようかと。」

「竜卿の庇護がなければ、我らの国は滅んでしまう…。万が一、竜卿の寵姫となる者に知らなかったとはいえ危害を加えていたとしれたらまずい。」

「わかっております。竜卿の寵姫…神子は私たちが厳重に保護していた、という体を取れば良いのです。そのためにアレン様という形の神子が必要であったのだとすれば、お怒りなさらないでしょう。」

「そうだな。くれぐれも頼むぞ。」

「御意。」



僕が本当の、神子?
それを隠すために一度死ななければならない?
あまりの事に頭がうまく働いてくれない。
このままでは死ぬかもしれない。
都合よく扱われて、都合よく命を…。
……そんなの、嫌だ!!



僕は王様たちが通り過ぎると走り出した。
今、誰の目も僕に向いていない。
この最悪な場所から…せめてこの場から逃げるんだ!
火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか。
弱った体のどこにそんな力があったのか、走る僕の体はいつもより軽く感じられた。



「おい!お前どこへ行く!!」



王宮の衛兵に見つかった!
それでも逃げるために走った。
ピィィィイッ!と笛が鳴り、僕を追いかける衛兵たち。
何とか城を抜け、無我夢中の足が向かったのは、あの美しい人を見た森だった。



森深くに隠れよう。
そこへはきっと、誰も追ってこない。
僕なんかを探し出さなくてもいいだろうし。



どこまで走ったのかなんてわからなかった。
気がつけば体はもう限界で、木の根に躓くと同時に意識も飛ばしてしまった。
けれど、体を打ち付ける痛みはなく、薄れる意識の中ジャスミンのような甘い香りが僕を包んだ気がした。


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