記念物
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同僚たちにお土産を渡していると、そう言えば新入りが入って来たのだという。
これがかなり優秀で、目立つ容姿をものともせずに活動してるというのだ。
さらに、クロユリと渡り合うくらい度胸も座ってるとか…。
いやいや、待て。
嫌な予感しかしないんだが。
「キーロ!お帰り!!」
「…ヒイロ様、何故ここにいるのですか?」
抱きついて来たその人物は、嫌な予感ほど当たるもので。
「ふふ、僕も国家諜報員になったんだよ。公爵家潰しちゃったし…。」
「公爵家はなくなったんですか?」
そんなはずはない。
あの上司は優秀なものは使う派だ。
アカガネ公爵家など国政に最も関わっている。
真っ黒な事実があろうと、いきなり潰すとは思えない。
やるならじわじわと力を削いで、代わりのものを育成してからだ。
それに公爵家でも優秀なヒイロ様をみすみす諜報員などという裏の仕事に回したりしない。
するとデジャブの様にまたヒイロ様から離された。
もちろん口はガードしたので、手のひらに唇を受けただけに留まったが。
「チッ…」
「これはこれは、死神さん。」
「ふん…アカガネの坊ちゃん、国王がお呼びだぞ?」
「まだ僕はキーロとの再会を噛み締め合ってないんだ、もう少しくらい良いだろう?」
「あいつとの約束だろ?公爵としての立場で呼ばれたらすぐに行く。」
「………。」
「2度と会いたくないなら、今を噛み締めてもらって構わないが?もちろん邪魔はさせてもらう。」
「…はぁ、仕方ないね。それじゃまた会おうね、キーロ!」
「あ、はい。え…」
去り際に触れるだけのキス。
「キーロったら隙だらけだね。」
「殺す。」
「クロユリ!」
「あぁ、そうだ死神さん。僕はキーロを諦めた訳じゃないからね?隙あらば…」
ーーー拐っていくから。
「そんな事してみな。即行で首を落としてあげるよ。」
私がいない2ヶ月間。
どうやらとんでもない刺客が、諜報員に紛れ込んだらしい。
「…キナリ、」
「なん、んぅっ!?」
「お前は俺のものだ。」
ギラついた目で、私にキスをし熟知した様に体に手を滑らせるクロユリに、仕方ないと早々に諦める。
「私はクロユリのものです。」
「よくわか、」
「ですが、」
ーーークロユリも私のものです。
そう耳元で言えば、クロユリは珍しく固まった。
まぁ、このぐらい言えば今日1日くらいは大人しくしてるだろ、う…あ。
「良いね、それ。」
…なんでだろう。
クロユリの事となると選択ミスばかりするのは。
うっとりとした表情で、どろりとした色を孕んだ目が私を映す。
「お前は俺のもの。そして、俺はお前のもの。…最高だね。」
その日、私が任務ができたかというと、そんな訳はなく休暇明け早々に、休むという失態をおかしてしまった。
その後も、ヒイロ様が絡んでくるたびに、クロユリに連れ去られ休むことになる日を何度か繰り返した。
その怒りが爆発した私が上司に直談判して、ヒイロ様を国家諜報員から抜けさせるまで2ヶ月もなかった。
クロユリには、1ヶ月接触禁止令を出してもらった。
もし接触したら、去勢すると脅したら早かった。
アカガネ公爵として執務をこなすヒイロ様からは相変わらず熱烈なアプローチを受ける。
もちろん、私の心を落とした人物が既にいるので靡くわけもないのだが、その度に一々嫉妬するクロユリの対応を思うと、捨ててやろうかとも考える。
それでも私が選ぶのは、おそらく…。
「キイロ、またあいつと話しただろう?」
「誰と話そうが、私の勝手ですよ。」
「もう誰とも関わらない様に閉じ込めてしまおうか?」
「まったく…そんな事しなくても大丈夫です。」
「大丈夫な訳がない。キイロは」
「私は、」
ーーー私は、ただ1人しか愛せませんから。
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