記念物
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あの日から暫く…。
私は闇オークションの商品が収められている公爵邸の地下に閉じ込められた。
…言っておくが、バレたわけではない。
汚れを知らないと思い込んでいるヒイロ様を大切に思う使用人たちに妬まれて、奴隷用商品として出す事になったようだ。
ヒイロ様には、私が急に辞めたと言うらしい。
奴隷用焼印は、オークション当日に公開で押すとの事で、幸い殴打以外の傷が付いていない。
痛いことに変わりはないがな。
そんなオークション前日の夜だ。
あいつが来たのは。
「それにしても、お似合いだな。」
「どこから入ったんですか、クロユリ。」
「暗殺者をなめてもらっては困る。」
適当な柱に鎖で繋がれた私の前に立つ死神。
明かり取りから注ぐ月明かりに、しばらくぶりに見る顔が浮かぶ。
相棒の烏の羽根も美しい黒だが、それ以上に艶やかな黒の髪が懐かしく感じた。
白皙の肌は月明かりのせいか青白く見え、この世の人ではない美しさをかもし出す。
全く私とは正反対な存在だ。
「鎖に繋いで逃げられない快楽に喘いでいた日を思い出すよ。」
「黙れ変態が。」
本当に本気でやめてくれ。
あの例の1ヶ月で、痛みより快楽の方が何倍も苦しいと学んだからな。
今思い出しても軽く遠い目になるからな。
「けれど良かったよ。」
「何がですか?」
「奴隷印、まだ押されてないんだろう?」
「明日公開焼印だそうですよ。」
「そうか。でも、もし捺されてたら、俺が落札してあげるから安心していいよ。」
「お前とは恋人にはなっても、奴隷になぞならん。」
「勿論。けれど外に出さない言い訳になるだろ?」
「…本当、悪趣味。」
クスクスと楽しそうなクロユリをじとりと睨みつける。
そんな私に気づいたのか、気づいていないのか自然な仕草でキスをした。
「血の味がするな。」
「あぁ、執事に殴られた時にでも口の中を切ったのでしょう。」
「…執事、殺す。」
「明日には全て終わります。どうせ貴方が来るのでしょう?存分にやってくださいね。」
「当たり前だ。俺のものに手を出した報いも受けてもらう。」
「ふふ、それは怖い。」
「あの次男に触れられたお前もお仕置きだからな?」
「は?あ、ちょ!!」
不穏な言葉を残して、去ったクロユリに青褪める。
…いやいやいや、任務なのだから納得してもらわなければ困るんだが!?
仕置とか想像したくないが、悲しいかな…。
クロユリをよく知ってる自分が恨めしくなるほど、何をされるのか想像できてしまってその夜、私はいかに逃れようか頭を回転させることに努めた。
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