[携帯モード] [URL送信]

記念物


アカガネ公爵家。
代々、有能な文官を出すことで有名。
現在の当主も大臣を務めているが、かなり黒い噂が絶えない。
裏取引、麻薬の密売、人身売買、国家機密情報売買…。
常に公爵家へ流れ込む富が膨大なため、妬んだ者たちが流した噂だともいうが、どうせならそんな芽は摘み取った方が良いだろう。



「キーロ!ただいま!!」

「お、お帰りなさいませ、ヒイロ様。あ、あの私のようなものに抱きつかれては、お召し物が…」

「だーいじょうぶだって!今日もキーロはお日様の香りがして落ち着くなぁ…。」



…絶賛、アカガネ公爵家次期当主の弟、ヒイロ様に懐かれ中。
なぜだ…。
懐くなら、一緒に入った新しいメイドの女性に懐けば良いだろうに。
私の今の身分は、小間使いだ。
顔面偏差値の高い使用人に比べ、劣る私は蔑みの対象となっていて立場がかなり弱い位置付けにある。
…にも関わらず、ヒイロ様にはかなり良くしてもらっており、ヒイロ様が帰宅している間はほぼ彼専属の使用人だ。
正直、目立ちたくないし動きづらいから迷惑である。



潜入して見えたアカガネ公爵家の実態は、ヒイロ様を除き使用人に至るまで黒だった。
あまり驚かない私でも、びっくりするくらいの黒さ。
おそらく新しく来たメイドも、次の闇オークションで手を染める事になるだろう。
もしそれを拒めば、メイド自身がオークションの商品として加工される。
そういう仕組みなのだ。



とりあえずは、報告だ。
諜報活動の相棒である烏に、報告書を持たせて飛ばし、小間使いの仕事に戻ればヒイロ様に紅茶を持ってくるようお願いされた。



「失礼致します、ヒイロ様。紅茶をお持ちしました。」

「どーぞ、入って!」



紅茶を乗せたワゴンを押し、部屋の中へ入るとヒイロ様が難しそうな顔をして書類と睨めっこしていた。
当主にはならないが、兄を支えるためと仕事をしている、本当に健気な方だ。



「まーた、おかしいんだ。」

「え?」

「ううん、たぶんミスなんだろうけどさ…。そうなんだろうけど、おかしいんだ。」



パサリと書類を職務机に投げ出し、ソファに座る彼へ注いだ紅茶を出した。



「美味しい…。」

「いえ、そんな!」

「美味しいよ、キーロ。…ねぇ、キーロ。」

「はい。」

「僕の家族は、僕に何かいつも隠してる。愛してくれているって、わかるんだ。守ってくれているって。…でもさ、」



ーーー寂しいんだ。



悲しげに言うヒイロ様に、彼以外のアカガネ家が持つ隠し事のことを思う。



ヒイロ様は、亡きアカガネ公爵夫人の忘形見だった。
兄は公爵に似たが、彼は夫人に似た。
穏やかで陽だまりのような雰囲気と、肖像画て見た夫人の面影を強く残す、優しげな顔立ちは時折女性のように見える。
その容姿のため、汚いものから遠ざけようと全員が働いたのだろう。
穢れなき存在として、そこに在るように…。



けれど、彼は女性ではなく1人の男だ。
何も気づかない、無垢な少女ではない。
そして聡く、おそらく隠し事のことも深くは知らなくとも気付いている。
その証拠に、チラリと見た目は悲しみの色よりも深く、決意の先を見据えていた。



もしかすると、アカガネ家は近く1人の男によって国が動かなくとも断罪の日を迎えるのかもしれない。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!