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記念物


歴史の流れは常に暗殺と諜報の2つで、裏から操られている。
私はそのうち、諜報の方で使われている。
目立つ事のないどこにでもいそうな顔立ちは、こういう仕事でとても役立つ。



そう、目立たないはずなのにどうやら目をつけられていたらしい。
とある人物から…。



死神、クロユリ。



国で抱える認定暗殺者であるクロユリは、男も女も魅力するほどの男だ。
中性的な顔立ちの美麗なその人は、冷たい顔に時々ひどく酷薄な笑みを浮かべる。
国認定という首輪がつけられる前は、フリーで暗殺をこなし、息をするように対象者の命を奪っていたために、出会ったら最期死から逃れられないと恐れられていた。
諜報員として会う事は数度あったが、他の人間が思うようにそばにいたいとは思わなかった。
巧妙に隠された殺気が、口から涎を垂らして潜んでいる人間のそばになど安心していられるわけもない。



そのクロユリに私は目をつけられたのだ。
いかに空気のような存在であった、他に埋没するような私でも逃げられなかった。



久々の長期任務から帰国し、上司に報告後労いの言葉をもらい1ヶ月の休暇をぶん取った私は、クロユリに拉致られた。
そりゃもう手際よく。



そこから1ヶ月間、只管恐ろしいほど攻め喘がされ、体を陥落させたとなると、半ば脅しのような形で付き合うこととなった。
晴れて年齢=恋人いない歴だった私にも、恋人が出来たわけだ。
全く嬉しくなかったが、恋人関係を続けるうちに心までも見事に陥落させたものだからすごい。



現在は、上司…まぁ国王なんだけど、その人公認の恋人になっている。



「キナリ、任務開け早々悪いがもう1件頼まれてくれ。」

「それは構いませんが、クロユリに殺されぬよう気をつけてくださいね。」

「こ、怖いことを申すな!!ゴホン…アカガネの内部を探って欲しい。どうも、金の流れがおかしいのだ。」

「アカガネ公爵家ですか?…あの家は黒い噂が絶えませんからね。では、この任務が終わりましたら2ヶ月は休み頂きますよ?」

「2ヶ月もか!?」

「クロユリに刺されたくなければ。」

「うぐっ…わかった。クロユリにも1ヶ月の休みを与えよう。」

「よろしく頼みますよ。では、行ってまいります。」



上司から2ヶ月の休みをぶん取れたのだ。
1ヶ月はクロユリに当てるとして、もう1ヶ月はしばらく羽伸ばしの旅にでも出よう。
諜報員の仕事は、性に合っているがやはり気疲れするからな。



私は上司から粗方の情報と、今回潜入するアカガネ公爵家での身分などを打ち合わせ、早速公爵邸へ向かった。
クロユリに会いに行く時間がないのはまぁ仕方ない。
これも仕事だ。
…拗ねないといいのだが。


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