記念物
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頭がグラグラ茹だる。
身体が熱い。
いっそこのまま体温が上がり続けて、身体の機能が失活すれば良いのにと思う。
そう思いながら、一体何日が過ぎたのだろう?
そう経っていないのかもしれないし、かなり経っているのかもしれない。
絶望の中で一つ気がついたこと。
それは、いつの間にかオレにとっても、神咲のそばが安心できる場であったという事実。
それが示すことは、神咲のことが好きだという事。
本当に笑えるよ。
悲劇どころの話じゃない。
喜劇だ。
好きになったのは、拒絶する相手だなんて…。
思い浮かべたあいつの姿に、身体が浅ましくも反応してしまい、また絶望感に押し潰される。
いっそ何もわからなくなるくらいに、発情フェロモンを使って犯してもらおうか?
ぐちゃぐちゃにして、ついでにこの息の根を止めてくれるのなら有難い。
そんなイカれた事を考えていると、ふとドアが開く音が聞こえた。
きしり…と軋むベッドの端に腰掛けた人物の姿を捉えた。
けれど茹だる頭ではまともな思考すらままならない。
それもそうだ。
抑制剤を飲まなかったのなんて、生まれて初めてだ。
襲い来る熱は恐ろしいほど、身体の自由も思考も理性すら奪っていく。
とろけた思考が、本能に喰われんと必死で抵抗してるのに、鼻に届いた香にぶん殴られた気分になった。
「…本当に、Ωなんだな。」
「み、さ…」
本能のままに欲を満たそうと疼く体を、ギリギリで抑えつけた。
「薬、飲んでないのか?」
「出てってくれ…。じゃないと、余計惨めになる…」
「アヤ、」
ギリギリなんだよ。
お前にとってこれ以上、嫌な自分になりたくない。
オレが、お前に触る前に…出てって欲しい。
そう思って、フラフラと動き出しそうな体を制して反転させ、神咲に背を向けた。
それなのに、神咲が襟に指をかけてきたんだ。
クンッと軽く引っ張られ、できた隙間に指を差し込まれると、スン…と匂いを嗅がれた。
「なにす」
「首輪も付けずに無防備だな、綾世…」
ぞくんっ…と肌が泡立つ。
間近に感じた吐息と、噎せ返るαの香り。
そして、αが番にするようにうなじを噛まれた。
首の契りを交わしたαとΩは離れることは出来なくなるというのに…。
「んくぅ…」
間抜けな声が出てしまうが、仕方がない。
オレはΩだから。
αから受けるものは、全て快楽となる。
「噎せ返るようだな、アヤ」
「やめ、やめ…てっ…」
同じ思考回路かよ!?と突っ込む冷静な自分がまだいた事に驚いたが、すぐにその思考も神咲によって掻き消される。
「アヤ、綾世…はぁっ、」
ーーー俺の番だ。
耳に吹き込まれた声に、ビクンッと反応する身体。
そして、呼吸の自由すら奪うように唇をオレの唇に重ねてきた。
濃くなるαの香り…いや、これは神咲の香りだ。
噎せ返る。
吸う息も吐く息も、この身体に運ばれる酸素全てに神咲の香りが入り込んで、身体の内側までも侵食される。
そして、オレの理性も神咲の熱の籠った、獣の眼差しに飲み込まれて食われた。
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