記念物 ・ すごくまずい…。 まずいのに、怖くて声が出せない。 「あ、あの…」 「うるさいですよ。息を吐かないでください。」 それは無理です、副会長様…。 「そうだ!そうだ!!いくは呼吸するな!!」 「でも、」 「いくは俺の大切な人を騙してるんだから、そんな権利ないんだぞ!」 「だ、騙してなんか…」 「騙してんだろ?その淫乱なケツ振ってよぉ?」 親友だと言う最近新しくクラスメイトになった子と、風紀委員長様にまで言われる始末…。 逃げたくてたまらないのに、出入口をしっかり守ってる無口な書記様がいて、逃げる隙もない。 泣きそうだ。 そもそも僕がこんな事になってるのは、晴翔…あ、会長のことなんだけど、えっと…晴翔と一緒にいる所を転入生に見られてしまったのだ。 いや、見られた場面も恥ずかしかったんだけどね…。 なんで人前でキスなんかするかなぁ…。 恥ずかしいからやめてほしい。 噂だと転入生は晴翔に恋してしまったみたいで、それでキスを見た転入生が、僕が晴翔のことを騙してるって言うんだ。 もっと言えば、転入生が来てから生徒会の晴翔を除くメンバー全員と風紀委員長を落としたみたいで、いつも連れ歩いてる。 だから毎日引き回されてる僕は、えらい目にあってて脚とか腕とかアザだらけなんだ。 脚は主に生徒会メンバー様と風紀委員長様で、腕は転入生のせい。 けど、は、晴翔には言えないし…。 今はそんなことで手を煩わしちゃダメだし。 それに、転入生が好きなら僕や晴翔に構わなくていいのに、何故かこうして囲まれてしまっている。 「晴翔を騙したお前なんか、どっか消えちゃえよ!!みんな、そう思うだろ!」 「そうですね。」 「親友なのに騙すとかサイテー。」 「仕置きしなきゃだなぁ?」 「いく、」 ーーー汚れろよ。 転入生が醜く笑うのが見えたのと同時に、3人の手が僕に伸びてきた。 「ひっ!!いやぁっ!!!」 「泣いても叫んでも誰も来やしませんよ…」 「だって、あいつ今、書類とご熱心に向き合ってるもんね〜。」 「これで2度と俺たちの目の前に現れんなよ?平凡くん」 体を這い回る6本の手が気持ち悪い。 中途半端に脱がされて、腕と脚が拘束されて動けない。 怖くて声が出せない。 助けて…助けて、晴翔っ!! 助けなど来やしない。 そんなことわかってる。 晴翔は書類に追われてて、生徒会室からでる暇なんてない。 おまけにここは視聴覚室で、外から中の音は聞こえない。 それでも求めずにはいられない。 大好きな、大好きな大切な人の名前。 「はる、晴翔…晴翔っ!!」 お願い。 早く来てっ!! [*前へ][次へ#] [戻る] |