商い物 2 縁側に座っても、離してくれない。 どうしたもんか…。 「話、しないの?」 「し、します。しますよ…。喋りにくいんで、せめて少し離れてくれません?」 「嫌だ。こんなに近くに感じれているのに、嫌だよ。ねぇ、宗輔…ほら聞かせて?」 うん、仕方ない諦めよう。 「俺、ここに来て、宵月さんと暮らすの好きだった。」 話始める。 顔の伺えない状態、心臓の音がうるさい。 「そりゃ、初めは怖かったよ。他の嫁候補が数日もしないで、戻ってくるんだもん。俺もそうなるのか〜って。でもさ、」 違ったよね。 宵月さんは優しくて、時々ドキリとさせてくれて、俺の事を心底欲してくれた。 まだ腹がくくれてなかった俺は、言葉にしなかったんだ。 それがいけなかったのかな。 悪夢のようで、それでも香りに包まれている最中でも幸福しか感じなくて…。 「俺ね、選んだよ。」 少し怖いな。 この言葉が、ちゃんと伝わればいいな。 願わくば…。 ゴクリと唾を飲み込んで、こちらを見ずに耳だけ傾けていた宵月さんの顔をそっと両手で包み俺の方を向かせる。 その顔はまるで迷子の子供のように頼りなげな色を浮かべて、俺の言葉を待っている。 そんな顔でも綺麗なんだから困る。 滑らかな頬、椿のように赤い唇、不安げな赤い目。 「…宵月さん、」 「何?」 「どうか俺を宵月さんの、」 ーーーお嫁にしてください。 そう言って、椿の唇にキスをした。 顔を離せば、赤い目が揺れてぱたりぱたぱたと雫が俺の顔に溢れてくる。 それから強く強く、息が止まるんじゃないかってくらいしっかりと抱き締められた。 「あはは、そんな泣くほど嬉しいの?」 「あぁ…。あぁ、とても…」 肩の濡れる温度は、見た目は変わってしまっても人と同じで、その冷える温度だって何も変わらない。 気がつけば、空は晴れているのにキラキラと雨が降っていた。 [*前へ] [戻る] |