商い物 7 仕事以外、ボクは斗真君と一緒に過ごした。 だけど、斗真君には触らない。 初めは戸惑っていた風な斗真君も、徐々に慣れてきて…。 「とーまくん、これお土産。」 「ありがとうございます。お茶、淹れますね。」 「うん。」 仕事先で見つけた斗真君が好きそうなケーキを渡すと、嬉しそうな顔で受け取ってくれる。 それと同時にじわりと心に広がる暖かい感じ。 「ねぇ、とーまくん、今ね、とても心があったかくなんだんだけど、とーまくんもそういう時ある?」 「?ありますよ。」 「どんな時?」 「嬉しかったり、幸せだったりする時、かな?」 「ふーん…。お土産、嬉しかった?」 「え?…あ、まぁ。僕、甘いもの好きですから。」 「そっか。」 ボクは少しずつ、斗真君を通して本にはなかった事を知った。 それを重ねて、ゆっくりゆっくり自分の心の名前を理解した。 理解して、共感して…。 「斗真君、今までゴメンね。さよなら。」 ボクは、斗真君を解放することにした。 丁度海外の仕事を任せられたから、良い機会だった。 斗真君は、元いたボクのグループ会社の旅館へ戻した。 きっとこれで良い。 心は軋んだけど、心臓が潰れるほどに痛くて、冷たくて息も出来ないけど。 解放する数日前に、疲れて微睡んでいたボクに毛布をかけてくれて、その時に優しく微笑んでくれた顔が観れたから。 その微笑みは、高校時代に本を読んで浮かべていた表情と同じで、泣きたくなるくらい胸が締め付けられて、それでも暖かくて。 これが、本当に望んだことだったのだと今更気が付いた。 ただ愛おしいという、欲も打算もない純粋な顔を自分に向けて欲しかったのだ。 ボクとのことは、都合が良いかもしれないけれど、悪い夢だったと捨てて欲しい。 奪ってしまった時間は、ボクに出来る範囲で陰ながら返していくつもりだ。 謝罪して許されることではないけれど、ボクはこの胸の痛みをずっと抱えていく。 それを罪と背負っていく。 どんなに寒くて凍えても、もう二度と斗真君には手を伸ばさないよ。 心から君と決別しよう。 欲求ばかりで、最後までゴメンね。 明日離れる日本の、斗真君と過ごした静かな部屋で、寒さと痛みにボクは泣いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |