商い物
6 *
〜秋津side〜
空いた時間を埋めるように、斗真君を抱き潰した。
体は喜ぶ。
心は軋む。
なんでだろう?
斗真君は、ちゃんとボクがカスタムした通りに反応してくれる。
ボクに触れると、発情する。
けれど、泣くんだ。
気持ちいい、もっと、って言いながら、その目の奥は冷たく泣いている。
その度にボクの心が軋む。
「ねぇ、とーまくん、気持ちいいよね?」
「ふ、あっ!きもち、い…きもち、い、あっあっんんっ!」
「そうだよねぇ。…なんでかな。」
わかんない。
そう言えば、昔言われたなぁ…。
お前は他人の気持ちがわからないのかって。
わからないから、沢山本を読んだ。
本を読めば、そこにいろんな感情があるから分かるだろうと勧められたのだ。
それでわかったのは、答え方を間違えないこと。
どうしたってボクに他人の気持ちなんてわからない。
ボクが都合のいいように解釈して答えれば、両親や周囲の人は顔を引きつらせた。
だから、自分の解釈は飲み込んで、本にありそうな模範解答だけを提示した。
だけど、それはボクの心ではないからよくわからなかった。
それから他人の心を理解しようなんてやめた。
煩わしいことだし、別に必要ない。
そう、思ってた。
ぐちゃぐちゃ…。
心地良い斗真君の喘ぎ声と、粘膜の音。
ビクビクと震えて何度目かの絶頂を迎え、ぐったりする体を抱きしめる。
目をつけて、手に入れて1年間。
ボクだけの斗真君にした。
そのはずだった。
「ねぇ、とーまくん…なんだか、とーまくんが遠いんだ。遠くて、遠くて…こんなに近くにいるのに寒い。」
空虚で寒い。
これは、どういうことなんだろう?
本に書いてあったっけ?
正しい答えってなんだろう?
でも、その前にボクは言わなくちゃいけない気がする。
ぐるぐると渦巻いた心の言葉。
吐いてしまえば、音になって空気に溶けるだけってわかっても。
「好きになって、ゴメンねぇ…。」
それでも離れられないんだ。
ギュウッと強く抱きしめると、また火照り出す斗真君の体。
正しくボクが望んだ通りの姿なのに、心が軋んで壊れそうだ。
ボクは初めて他人の…斗真君の気持ちを知りたいと思った。
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