商い物
2
あの日から横田君は、僕といるより図書委員の先輩の1人と一緒にいることが増えた。
決まって、横田君の体がおかしくなって、起き上がるのも困難になるとやって来る。
きっと、何かしたんだろう…。
その原因は、秋津先輩が知っているのだろう、とも思うけれど、あれ以降怖くて一対一になる事は避けてる。
「っ!あ、う…っ」
「横田君!だ、大丈夫?」
隣の席で何かを堪える風な格好をする横田君。
涙目でこちらを見る。
「なが、せ…助けて…」
「っ!」
僕は自分勝手だ。
いっぱい助けてもらったんだから、今度は僕の番だ!
そう思って、あの図書委員の先輩がいない事を確認してから、横田君を早退させると言って彼の寮部屋へ連れ帰った。
だけど、それが罠だなんて誰も思わない。
制服をくつろげて、ベッドに横たえ横田君のお願いで水を取りに行って戻ってくると、彼に押し倒されてキスをされ、口の中に何か流し込まれた。
びっくりして思わず飲んでしまって、頭がパニックを起こしていると、横田君はどこかに電話していた。
「はい、飲ませました。委員長が来るまでには効いてとろけてると思いますよ。あ、俺も多少飲んじゃったんで、彼氏さん連れてきてくださいね?」
「よ、よこ…横田君?あの、」
「永瀬君、ゴメンね?だけど、俺、あの人のおかげで幸せになれたから、今度はあの人を幸せにしてあげたいんだ。」
何のことかわからない。
でも、少なくともここにいちゃいけない。
僕はカタカタと震える体に力を入れて、立ち上がろうとする。
なのに…
「あ、れ…?なん、」
「よく効いてるみたいで良かったぁ。」
「っひ!?」
「久しぶり、とーまくん。迎えに来たよ。」
望んでない、そんなこと。
くしゃりと頭を撫でられ、目線を合わせて来たその人は秋津先輩だった。
「それじゃ、行こっか…。」
あぁ、僕はやっぱり独りでいなきゃだめだったんだ。
独りでいれば、こんなことにはならなかったはず。
独りであれば、この人とも会う事はなかったのに…。
にこりと笑う先輩の目の奥に、真っ暗闇を見てしまった。
そして、どこにそんな力があるのかわからないけど、すっと僕をお姫様のように抱き上げると、そのまま横田君の部屋から連れ出された。
この後起こることから、もう僕は逃げられなくて、拒絶する術は全て奪われてしまうのだろう。
「ちょっと早いけど、とーまくんは夏休み。休みが開けるのは…ふふ、とーまくん次第かなぁ。」
委員長クラスになると寮部屋は個室になる。
調度品もカスタマイズ出来るのだという。
リビングは白基調で、何の手も入れてないみたいで僕の部屋と同じだった。
だけど、その先…。
本来なら4人部屋で、左右に2つずつ計4つのドアがあるはずの壁に1つずつしかないドア。
そのうち左側のドアを開けて、放り出されたそこは、リビングとは正反対の真っ黒なシーツの上で。
「とーまくんは、これから毎日ここで過ごすんだよ。ふふ、僕の部屋にとーまくんがいるなんて興奮しちゃうね。」
ーーーとーまくんの白い肌がよく映えるよ。
ペロリと舌舐めずりした秋津先輩に、あぁ、捕まったと涙が流れた。
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