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商い物
夢のような話など何処にもない・下+

〜魔王side〜



聖域の森で、我が主に謁見する。
主は所望したモノが手に入ったことで、最近満足げだ。
お陰で領内の実りは豊かであるし、水もますます澄んで命を育んでいる。



「我が主よ、世界の全で在り一である主、この度は世継ぎが産まれたとの知らせ、誠におめでとうございます。」

『ふふ…ありがとう。我が姫がそなたには世話になった。』

「勿体ないお言葉です。」

『そなたのお陰で姫は我を受け入れることができたのだ。』



そう言って笑う主に、私は寵姫であるあの人間を思い出して憐れに思った。



事の始まりは人間が行った異世界の扉をこじ開ける術の施行。
それを知った主は、異世界にいる寵姫をこちらへ引きずりこむことにした。
人間は勇者を召喚する術だと思っているようだが、実のところはたまたまこじ開けた世界門の一番近くにいた同族を引きずりこむ術であり、選ばれる異世界人は本当にランダムなのだ。
しかし、世界の全で在り一である主はそれに干渉でき、特定のモノを連れて来ることができる。
憐れなあの人間は、気に入られたがために元の世界から拐われたのだ。
全で在り一である主の同族は、そのことを【カミカクシ】と呼んでいるらしい。
ただ、喚んだはいいものの主の寵愛を受けられる身体にはなっておらず、交わろうものなら壊れてしまうことは必至であったために、私が身体を変える役目を務めた。
痛みを快楽へ。
受け入れる穴は柔く、キツく、心地良く。
そして、なによりも主の気を少しずつ馴染ませ、死んでしまわないように。
私は主が創ったものだから、多少主の気を持っているのだ。



「それにしても、主…私を罰しはしないのですか?」

『なんのことだ?』

「我が同胞が、寵姫の右目と左腕を食らってしまいました。」

『…く、くく!そなたは我の一部だ。愛したものへの執着心は我ほどではなくとも同じ筈だ。』

「!…なるほど。お役に立てたのならば光栄です。」

『ふふ…よい。では、そろそろ姫の元へ戻るとしよう。ご苦労であった。』

「は!」



すると主の体は何十羽もの金色の鳥へ姿を変えて、飛んで行ってしまった。



つくづく寵姫は憐れだ。
大それた存在に目をつけられるものではないな。
その代償が、大きすぎる。



「己のみを見る目とすべく片目を奪い、自分では何もできないように利き腕をも奪うとは…。」



お陰で寵姫は、主なしでは生きていけない。
主が望むままに、従順に…盲目的に。
人は脆い。
壊れそうな時に、助けられれば絶対的に信用してしまう。
たとえそれが、全ての元凶だとしても。



「さて、私も主に倣いそろそろ寵姫をさらって来ようか…。」



畳んでいた自慢の翼を広げて、私は私の寵姫を迎えに飛んだ。
博識なために悪魔と契約したと言われて、捕まってしまった可愛い可愛い憐れな私の寵姫。
人の持たない知識は、私が与えた。
人の入れない土地へ踏み入れるようにもした。
魔物が寵姫を傷つけることもない。
寵姫は人の手により酷い苦痛を与えられていることだろう。
先日、脚を失ったと聞いたから頃合いだ。



「くく…本当に、主と私は同じだ。」



逃げる脚なら消してしまえ。
拒絶する声なら消してしまえ。
助けてもらえるはずの同族の手で。
私のずっとそばにいるよう、退路は全て立ってしまわねば。



この世に幸も不幸もありはしない。
知らなければ、幸せなのだから。



〜あとがき〜
「夢のような話など何処にもない」これにて完結です。
知らぬが仏系の話、割と好きです。
知らぬ間に外堀埋められてて、気がついたらもう逃げ場がない状況。
絶望でしかないですね 笑
巻き込まれ平凡は知らずに生きていくと思います。
知りようがないですしね。
久々の執筆でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!
また、今後とも円屋をよろしくお願いします。
艶夜

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