商い物
人はそれをストックホルム症候群と言う +
【美形狂人×感化された平凡】
だいたいにして、不幸は重なるものでそれに巻き込まれたが最後、ひと段落するまで落ち続ける。
現在、僕はとても綺麗な男に監禁されている。
「ハニー、今日はオムライスを作ってみたんだ。美味しいと思うから食べてみてよ!」
「い、いただきます。」
「うふ、どうぞ召し上がれ〜。」
手足は拘束されてないから、用意されたスプーンで、いかにも美味しそうなオムライス食べた。
チラと真正面に座り、組んだ手の上に顎を乗せた綺麗な男の顔を見る。
ゆるくパーマがかった黒髪は肩より上。
女性的な印象を与える穏やかそうな目元。
薄い唇。
首から上だけ見たら中性的だけれど、組んだ手は男の骨張っているそれで…。
「美味しい?」
「あ、うん。美味しい。」
「そ。良かった。」
そんな男に何故監禁されているのかといえば、両親が事故で死んで、残された家が放火魔に焼かれて、世話になっていた親戚に遺産だけむしり取られて投げ出され、途方もなくなって公園でホームレス始めようかと、横になっていたら拉致られたからだ。
ちなみに両親が死んでから、現在に至るまで1年も経っていない。
男の名前はミハヤ。
苗字なのか名前なのか、漢字表記なのかもわからない。
職業も不明。
時々、長時間置いていかれることがあるけど、内側からも鍵がないと開けれないドアだったから、僕が勝手にどっか行くことは不可能。
そもそも首輪に繋がれた鎖の長さにも限界があるから、一定範囲外は行けれない。
年齢不詳。
予想では20〜35歳くらい。
少なくとも自分と同じ16歳ではないと思う。
性格はわりとぶっ飛んでる。
だって…
「美知(ミチル)くん、美知くん…」
「あ、はい?」
「君は、本当に可愛いね。食べてしまいたいよ。あ、でも食べるのは君が死んでからだね!楽しみだなぁ…。骨はきちんと処理して組み立てて僕のそばに置いてあげるからね?寂しくなんかないからね?」
「あ、えっと…大事にしてくださいね?」
「っ!うん!!」
この人は僕が死んでからも、僕を離してはくれないようだから。
ミハヤさんは僕を拉致って監禁してる。
最初はわけわかんないし、食べたいだとか、剥製にして飾っておきたいだとか言ってるのが怖かった。
けど、本当に僕を大切にしてくれているんだってわかってからは、それも愛情なんだなぁ…って。
だから僕もミハヤさんに応えたんだ。
「ねぇ、ミハヤさん」
「なんだい、ハニー?」
「万が一、飽きたらちゃんと殺してくださいよ?」
「そんなんあり得ないよー。」
「うん。だから万が一。それと、ミハヤさんが死ぬ前に、僕を殺してね?約束だよ?」
「それはもちろん!私以外が美知くんに触れるかもしれないなんて、想像しただけでも誰か殺したくなる。」
ニコニコ笑顔に緩められていた目が、殺気を帯びる。
それを見て、満足感に背筋がゾクゾクとした。
狂っているのかもしれない。
もう手遅れなのかも。
だけど、ミハヤさんになら良いかな。
感化されて、同化して…同じ世界が見れるなら。
僕は美しくも狂ったこの人に飼われ続けていたい。
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