商い物
6
地面に転がった俺は、すぐに体勢を立て直す。
「お前…」
「こーんばーんは!夕方ぶりですね、東野さん?」
「弟くんが何の用かなぁ?」
能面みたいに張り付いた笑顔で、そこにいたのは小田峰の弟くん。
予感の1つは当たりだったみたいだ。
「最近、兄さん帰宅するのが遅いから、誰か悪い人に絡まれてるんじゃないかなぁ…って思ってたんですよ。そしたら、案の定!こーんな不良に絡まれてたみたいですね!!」
「絡んでもいーじゃん、小田峰とは友達なんだから、さっ!!」
殴られた仕返しはきちんと清算。
弟くんに蹴りをかますが、ひらりと躱されてしまった。
イラつくなぁ…。
「兄さんに友達?…僕の兄さんに友達なんか必要ない!!僕だけがいればいいんだ!」
あ、これマズい人種だ。
頭がイっちゃってる。
「兄さんは、僕のものだ。僕だけのもの!お前なんかに兄さんは渡さない!!」
繰り出された拳を躱したと思ったら、蹴りが飛んで来て…。
あ、これヤバい。
回し蹴り、もろに食らうことになるかもなぁ。
覚悟したんだ。
だから、余計ビックリした。
「ぐあっ!!」
不意打ちかなんかで、背後から蹴られた弟くんが横に吹っ飛ぶ。
その背後にいたのは、パーカーのフードを目深に被った人物。
「…なに、してんの?」
冷たい声だった。
でも聞いたことのある声。
ここまで予感が当たるとなると、俺の直感ってかなりすごいのかもしれない。
「…おだ、みね?」
フードの男はわかりやすく固まり、雰囲気も最初のお怒りから焦りに変わった。
言葉にするなら、
ーーーやっべ…。
いやいやいや、やっべ、って何!?
焦るくらいなら見捨てとけばいいじゃん!?
「小田峰でしょ?何してんの…?」
ビクッとして、あわあわして…弟を蹴り倒した人物だとは思えないような反応に笑いがこみ上げる。
「兄さんに絡むなっ!!」
「うわっ!」
いつの間にか復活していた弟くんが、また襲ってくる。
もちろん、その攻撃が俺に届くことはなかった。
目の前が、パーカーのバックプリントであろう猫の絵でいっぱいになる。
「だから、オレの大切な人になにしてんの、って言ってんだけど?」
バキィッ!!
おう…弟くんに容赦ねぇな、小田峰。
しかも、脚使うとか力加減する気ないでしょ?
どさりと地面に倒れる弟くんは、気を失っていた。
「怪我、ない?」
「うん、ないよ〜。」
「良かった…。」
フードを払って、現れた顔はホッとした表情の小田峰で、無表情の時とは比べ物にならないほど、愛おしいと思った。
「ねぇ、小田峰…俺、お前のこと」
「好きです、龍くん。怪我してなくて良かった…。」
おいぃぃぃいっ!!
俺の言葉をとるな!
なんかさ、小田峰がカッコ良いとかウザい。
守ってもらうより、守りたかったし。
告白だって…。
なーんか、イラっとする。
そこで俺は、小田峰の胸ぐらを掴むと、キスしてやった。
目を白黒させる小田峰は、無表情と程遠かった。
「ん、…ちょ、んん…ぷはっ!んむぅ…」
小田峰が初めてであろうがなかろうが知ったことか!
俺の持てる技術全て使って、何度もキスしていれば、くたりと寄りかかり、完全に腰砕け状態になった。
ふぅ、スッキリした!
「俺と付き合ってくれるよね、小田峰?」
「ん」
「やった〜。」
「名前、呼んでいい?」
「いいよ〜。俺もこれから悠太って呼ぶね、ゆーた!」
「っ!」
その瞬間の小田峰の顔を俺は一生忘れないと思う。
真っ赤になって、恥ずかしそうな嬉しそうな顔。
「その顔は反則。」
だからまたキスしてしまった。
腰砕け?なにそれ可愛い〜。
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