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商い物
3

溜まり場のバーのマスター、ヒロキさんは皿洗いをした後、ヒロキさんの飼い猫のノンと一緒にぐでっとカウンターに寝てる小田峰を見ながら言った。



「本当に良い子だよ。なんでお前らなんかとつるんでんだ?」

「最初はパシろうって、思ったんですよ。」

「酷ぇな…」

「けど、パシって買ってきたものをいきなり顔面に投げつけてきたんですよ。」

「は?」

「それが最短ルートだから、って」

「マジか」

「マジっす。」



ほぉ…、と何故か感心するヒロキさん。
たしかに、不良グループの頭である朔弥に媚びることなく、怯えもせず、むしろうざったそうにする神経は、かなり図太いと思われるだろう。
朔弥を取り巻く人間にはいない人種だ。
それが新鮮だから、連れ歩くのだろう。



でもまぁ、実際に図太いと思う…。
パシって顔面に投げつけてきた後、昼飯が終わる時間になって、いきなり数字を言って手を突き出してきたからな。
なんだ?と思ったら、昼飯代払え、と…。



あぁ、小田峰はパシリの意味を全然理解してかなかったんだ…って思った。
もちろん、パシリにするのやめたから昼飯代きっちり払った。



「ところで、お前らのチームに入れる気か?」

「朔弥にその気がないからないと思いますよ。」

「と、なるとだ。あいつは悠太の足にされてる訳だ。笑える。」

「あー、たしかに。」



バーに来る=バイト、という小田峰にしてみればその通勤に便利なだけの存在になってるとは、朔弥も思ってないだろうな。
実際、小田峰はあいつに懐いてないみたいだし。



声をかければ寄ってくるけど、滅多に朔弥の隣には行かない。
バイクに乗せられる時しか近くにいない気がする。
むしろ、俺の近くにいることの方が多いかもしれない。
なんだ?俺は避難所か?



「あ、悠太!」



ヒロキさんが小田峰を呼びつけ、飲み物を渡すように指示した。
のろのろ体を起こして、持たされたグラスを手に誰かを探す背中を見ながら、ふと気がついた。



「ヒロキさん、」

「ん?」

「何で小田峰の名前呼んでるんすか?」

「ふっ…いいだろ?」



何故か鼻で笑われた。
くそっ…。



バタンッ!!
ドタドタドタドタ!!



急に大きなドアの音がして、奥から走ってきた小田峰。



「お、おだみ」

「ノンと引きこもるから話しかけないで。」



え、えぇぇぇえ!?
何で?
何が…あ、そういや忘れてたわ。



ノンを抱き上げて、バックヤードに引きこもりに行ってしまった小田峰の背中を見送り、頭を掻いた。



「結構無表情だと思ってたけど、ウブなんだな、峰っち。」



ぽつりとチームのメンバーが言った。
おそらく、この場にいる全員の気持ちが一致した瞬間だと思う。
ヒロキさんに至っては、腹を抱えて蹲ってる。



そういや、あいつ今日はヤリ部屋に女連れ込んでたわ。
ん〜、まぁいつかは遭遇するからね。
遅かれ早かれ。
それにしたもさ…



「なにあれ、超可愛かったんだけど…。」



赤面した小田峰がどうしてかすごく可愛く見えた。
しかも、猫抱きしめて…。




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