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商い物
花のそばにジャノメチョウ 3

翌日から僕は花菱総隊長改め、和紗さんと一緒に登校しました。
柔らかく繋いだ手がとても幸せで、恥ずかしいようなくすぐったいような…。



下足室の大きな掲示板には、新聞部の速報が張り出されていました。
見出しは和紗さんと僕のこと。
後から聞いた話だけど、親衛隊の仲間はみんな和紗さんの恋を応援していたとか。
全然知らなかったですけど…。
それから、親衛隊の実情。
半分以上の方が、親衛対象の方に対して尊敬を抱きつつも、どちらかといえば全親衛隊でのお茶会を楽しみにしている方ばかりだということ。
幻の親衛隊スイーツとして、僕が作ったお菓子が噂になっていたとも…。
ただ、お菓子に関しては作り手を伏せてもらいました。
和紗さんに、これ以上知られても困る、って言われたので。
親衛隊の中の秘密、ってことですね!



和紗さんに教室まで送ってもらうと、鈴木君の席がないことに気がつきました。
不思議に思って友達に尋ねると、まさかの裏口入学してたらしく即刻バレて転校したらしいです。
世の中何があるのかわかりません。



昼食は和紗さんと一緒に食堂で。
うん、やっぱりお昼は和やかに過ごすのがいいですね。
鈴木君には申し訳ないけど、騒がしいのは苦手だから。
すると、向こうからモーセのように人波を割って生徒会の方々と風紀のお二人がやって来た。
相手側からの接触は、規則違反ではないけれど、昨日の今日だからこちらにも苦手意識と、大泣きしたのを見られた恥ずかしさに和紗さんの袖を摘んでしまう。



「おい」



かけられた低い声は会長様のもの。
でも、その声が怖くてビクッとすると、宥めるように和紗さんの手が袖をつまむ手の上からそっと握ってくれました。



「何用でしょうか、生徒会長様?」

「親衛隊になんざ用はねぇよ。」

「それなら、ここに用はありませんね?お帰りはあちらですよ。」

「は?その平凡も親衛隊、なんですか?」

「そうですよ、副会長様。」

「親衛隊って可愛くない子でも入れるんだねぇ。」



すると、和紗さんが鼻で笑った。
なんか今のかっこいいです!



「外側の美醜など、皮一枚剥がれて仕舞えば関係ありません。まぁ、この子の可愛さは私だけが知っていればいいんです。」

「か、和紗さんっ!!」

「ふふ、恥ずかしがる桐人君も可愛いですよ。」



緩められた目にクラクラとしてしまいます。
会長親衛隊隊長が、あぁ、花菱総隊長のフェロモンにやられてるよ、って苦笑してるのが目の端に映って、ハッと我に帰ることができました。
危ない、危ない…。
風紀委員長親衛隊隊長なんて、食われるのも時間の問題だな、って言ってました。
ま、まだ清いお付き合いですよ!!



「平凡、顔、赤い…かわい…」



ヘニャリと笑う書記様。
いや、今一番可愛いのはあなただと思いますよ!



すると、和紗さんが溜息を吐いた。



「要するにあなた方は、私の桐人君に関心を持ってしまったわけですか?」



まさか、そんな…、と思って皆様を見ると、挙動不審に目を泳がせていた。
マジですか。
けれど、和紗さんはやはりカッコよかった。



「残念ながら、それだけは叶えてあげられません。桐人君は私だけのものなので…。」



すい…と顎を掬われ、何だろうと思った時には、和紗さんの唇が僕の唇に触れていた。
離れる瞬間にペロリと舌で唇を舐められ、頭はもう真っ白です。



だから僕は知らない。



「この子に触れたら、あなた方を狙う人たちにマワしますからね?」



と、とても良い笑顔で言ってたなんて。



青褪めた皆様がいなくなる頃に、ようやく現実に戻って来れました。



「か、和紗さん、き、キス…」

「嫌だったかな?」

「いえ!そんな事は!!すごく嬉しかったです!!」

「ふふ、良かった。」

「で、でも…僕、こんなの初めてだから、あの…」

「大丈夫、ゆっくり進めるから。」

「はい!」



食事を再開し、幸せな時間を噛み締め、午後の授業へと向かう。
放課後になれば和紗さんと一緒にいられて、夜もお泊まりの予定。
好きな人のそばに居られることに、僕は人生最大の幸福を感じました。
けして大袈裟なんかじゃないですよ!



僕は今日も和紗さんのそばで笑っています!




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あきゅろす。
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