[携帯モード] [URL送信]

商い物
胃袋をつかめ!!
【欠食不良男子×料理上手平凡男子】

佐原航、絶賛大ピンチでござる!!



中学卒業と同時に仕事のために両親が渡米することに決まり、受かっていた高校をキャンセルし、突如全寮制の高校…しかも、ご丁寧な事に悪い虫がつかないようにと男子校に放り込まれたオレは、急遽という事もあり、編入試験にギリギリ合格した。
が!!ギリギリ合格という事は、頭のあまりよろしくないクラスに放り込まれるという事で、入れられる事になったのは、なんと不良がまとめるEクラス。



チラホラと見えるオレと同じようなおつむなのだろう仲間は、すでにパシリの洗礼を受けて、不良から命令が下ると素早くそれに応える。
ある意味その素早さには感動を覚えそうになる…。
そんなオレはというと…



「パシリになるくらいなら、自炊なんかしてねーよ!貧乏舐めんなこのヤローッ!!」



貧乏よりな中流家庭のオレが、この男子校に3年間在籍するのだってギリギリなのにパシられるような金なんかあるかバーロー!
両親がどういう手を回したのか、3年分の学費と寮費は既に支払済なので問題ないが、生活費は自分の貯金から出してる。
できれば成人するまで手をつけたくなかったなぁ…。



そんな訳で、内心ガクブルしながらもパシリを断ったオレは、その日の昼食休憩にEクラスの頭とかいう不良に呼び出しをくらって、冒頭に戻る。



「話ってなんだよ?」



ハイ、出ました!
オレのバカ!!
どうしてむやみやたらと強がるかね?
内心ガッタガタしてますよ?



「お前、自炊なんだろ?」

「んあ?あー…そうだけど?」



お昼という事もあって、右手には今日作った弁当を持ってきてる。
自信作は出し巻き卵だ。
かなり上手く巻けた。



んで、なんだよ…。
じろじろオレのこと見やがって。
男子だからってバカにするなよ!?
母さんにビッシンバッシン鍛えられた料理の腕は伊達じゃないからな!
…っと、そういえばこいつ、なんか顔色悪いんだよなぁ。
ちゃんと飯食ってんのか?



「よくわからんけど、時間もあんまないし、昼飯食べながら話そうや。」

「あ、あぁ…」



お、不良なのに案外素直なんだな。
さっきまでビクビクしてたけど、殴ってくる様子もないし、なんなんだか本当によくわからんけど、怯える必要はなさそうだ。
オレは適当な場所に腰を下ろすと、弁当を開けた。
その近くに不良もどかりと腰を下ろして、コンビニのおにぎり3つを取り出す。
って!!



「なぁ、お前それで足りんの?」

「あ゛?」



すんません、調子のりました。
低い声で睨みきかさんでください。
マジ怖いんだけど。
不良見かけたら、絡まれる前に回れ右して、急がば回れしてたくらいチキンだからね。
一回えらい目にあってからな…ハハ。



「……ねーよ…」

「はい?」

「足りねー、つってんの。」

「はぁ…?じゃあ、なんか買ってくれば?」

「…その出し巻き、1つくれよ。」

「はいよ。」



弁当の蓋に今日の自信作、出し巻きを乗っけて不良に渡せば、若干戸惑った顔を向けられた。
なんだよ…。
くれって言うからあげたのに、いらないならオレが食べるぞ?



「…さんきゅ。」



ボソリと言った声に、おう、と返せば出し巻きを一口で食べる不良。
そして目をみはる。



ところでさ、なんでお前そんなカッコいい顔してんの?
髪の毛なんか真っ金々で、ピアスめっちゃ開いてて痛そうだし。
オレ、学校の中でカッコいい奴らばっかだなぁ…とか、こいつ本当に男?みたいな奴といっぱい会ったけど、お前ほどじゃなかった気がするんだけど。
なんていうかライオンぽい?
目つきとか鋭いし。
マジ羨ましいんだけど。
オレだってもうちょいカッコよけりゃなぁ…。



「美味い…」

「今日の自信作だ。他のも食べるか?」



くそ、褒められたらなんかあげたくなるだろうが。
オレは弁当の1/3を蓋に乗せて渡した。
どれも食べる度に美味いと言ってくれて、すっごく嬉しかった。
褒められると伸びる子なんだよ、オレ。



「なぁ、佐原…」

「なんだ、不良くん。」

「鈴木拓也だ。拓也でいい。」

「じゃあオレも航でいい。そんで?」



お話とやらがやっときた。



「俺のために料理作ってくれないか?」

「はい?」



不良改め、拓也が言うことを要約するとこうだ。
小学部からこの男子校にいる拓也は学園内の料理が舌に合わず、欠食気味になってしまったので、オレの美味い手料理を食べたい。
…美味いと言われて、嬉しくない訳ではないがお忘れではないだろうか?



「食費増えるからやだ。」



自分のことで手一杯なんだよ、貧乏舐めんな。
しかし、拓也は引き下がらなかった。



「じゃあ、俺がお前の生活費ごと食費も負担する。」

「なんですと?」

「学費と寮費はもう支払ってるんだろ?ならこれから3年間、俺はお前を雇う。生活費も浮くし、他の奴らのパシリにされる事もなくn」

「その話のった!!」

「即答かよ!?」



こんなうまい話、逃してなるものか。
生活費も浮く、他の不良に絡まれない…一石二鳥じゃないか!!



その後、放課後に正式な手続きをして、本当に鈴木拓也専属の料理人になってしまった。
いつも美味い、美味いと食べてくれる姿がとっても嬉しかった。



が、しかし!!
誰がオレ自身も拓也に食われるとこの時予測できただろう。
まだまだ編入したてのオレが、男子校の風習やらなんやらを知るのはもっと後…。
むしろ、拓也に食われた後だった。



「わーたーるー、飯は?」

「豆腐ハンバーグだ。ヘルシーだろ?」

「あぁ…。まぁ、足りなくてもお前を食えば」

「下品。」

「グフッ!?」



最近、裏拳が妙に冴え渡るようになった。
それもこれも、拓也の(セクハラの)おかげだ。
有難くない。
がっしり胃袋をつかめば、怖いものは何もないと学んだ高校1年の春だった。
さて、掴んだ胃袋を逃さないために腕を磨きましょうかね!!


[次へ#]

1/27ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!