商い物
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鬼子を見た翌日のこと。
まだ遊女たちは寝ている昼間の時間に、私は広場へと出かけた。
もちろんのこと、見世物小屋は閉まっているが、あのような小屋では夜だけが生活時間ではないため、もしかしたら…と思ったのだ。
予想通り、広場近くにあの見世物小屋にいた双子がいた。
洗濯をしているようだ。
「おはよう。」
いきなり声をかけたために、洗濯物を水に落としてしまった双子たち。
「あ、えと…おはようございます?」
「おはようございますだよ…」
2人は戸惑いの色を浮かべながらも挨拶を返してくれた。
微笑むと、顔を真っ赤に染め上げてリンゴのようになった。
初心だなぁ…。
「あの、見世物ならまた夕方になれば…」
「その時また来てくださいだよ。」
「あぁ、違うんだ。君たちと話をしたくてね…」
「「え?」」
ある目的のために、ね…。
2人を手招くと、洗濯物を桶に入れてちょっと警戒しながらも寄ってきた。
うん、この子達は薄汚れているけど、容姿自体は花形を務めるだけあって可愛いね。
飽きるほど美男美女を見た私の欲はそそられないけど、充分稼げるだろう。
「砂糖菓子は好きかい?」
「「好き!!」」
「そう、じゃあこれをあげようね。」
巾着から、砂糖菓子を取り出して2人に手渡せば礼を言ってから口の中にそれを放り込んだ。
幸せそうに溶けた顔は鬼気迫るあの面影はなく、年相応のあどけなさがあった。
「美味しいかい?」
「えと…美味しいです。」
「美味しいですだよ。」
「そう、よかった…。」
その日から、見世物小屋の見世物との密やかな交流が始まった。
どうせなら鬼子に会いたかったけれど、あの子は目玉だから檻から出ることはないそうだ。
そして、いろんな話をした。
全員、あの見世物小屋を出れるなら別の場所で生きていきたいと願っていた。
下種はやはり下種でしかなく、自分たちには残飯のようなものしか与えないくせに、一等いいものを食べ、女を買い、暴力を振るうらしい。
芸を失敗すれば、電気棒で気を失うまで折檻されるのだ。
けれど、鬼子を拾ってからは鬼子だけを常にいじめるようになり、正直負担は減っているのだとか…。
顔には出さなくとも、主人が下種ならその持ち物も下種な思考に少なからず染められているのだ、と憤った。
そして、私は彼らに持ちかけた。
もし、新しく買い直されるだけだとしても見世物小屋から自由になりたいか、と…。
その答えは一つだった。
私はまた舌なめずりをする。
あともう少しで、あの子を手に入れられる…。
そのために私はこの色街でつくり上げたツテを全て使った。
幸いなことに、下種はこの街で3日もしないうちに敵をしこたま作り上げてくれたらしいから、ことを運ぶのはそう大変ではないだろう。
見世へ帰るとうちの女性専門の男娼、野分に気色悪いと言われた。
自慢のイチモツ捻ろうか?と笑えば、顔を引きつらせて自室へと引っ込んだ。
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